【Wahoo!スポーツ】アンダードッグたちのプライド | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

【管理人注】

 この記事は、管理人自身の頭の中にあるものをそのまま文章にした、完全な創作です。急になんだか書きたくなったので、文章を書く練習も兼ねて、SLUGGERあたりで執筆している、スポーツライターになったつもりでやってみました。実在の人物や団体などとは、一切関係ありません。あらかじめご了承ください。以下のような設定や世界観を前提に、読んでいただければ幸いです。


・舞台は2041年のWBC直前

・大会形式や出場国などについては、こちらの記事を参照(http://ameblo.jp/systemr1851/entry-10837757482.html )


(本文ここから)

 今となっては信じがたいことかもしれないが、かつてヨーロッパの雄・オランダにも、WBC二次ラウンド進出が「奇跡」と称された時代があった。彼らがその名を、球史に本格的に刻むきっかけとなった、2009年のWBC。ドミニカ共和国を2試合続けて破り、プエルトリコ(2試合)・ベネズエラ・アメリカといった、強豪国ともほぼ互角に渡り合って見せたオランダの足跡は、ラウンド開催地の名を取って「サンファンの奇跡」と呼ばれた。


 プエルトリコとの第1戦。2回に1点を先制し、再三のピンチをしのぎながらも、最後の最後で力尽きた彼らの健闘ぶりを、この試合の解説者は「戦力的には劣るなりに、何とか一泡吹かせてやろうという姿勢には感動した」と称賛した。当時のオランダの戦いは、優勝候補筆頭と言われた国を、2度もうっちゃって見せたことで、世界中の多くの野球ファンに強い印象を与えたが、彼らが本当に素晴らしかったのは、こうした強豪相手にも一歩も引かないという姿勢だったのかもしれない。


 あれから32年。当時からは、WBCの姿は大会形式も、勢力図も大きく変化した。2009年時点では、名もなき雑草軍団にすぎなかったオランダも、今やアジアや米大陸の強豪国と、互角に肩を並べるまでに成長した。しかし、当時彼らが胸に秘めていた、強豪国に対する向こうっ気や挑戦心は、現在のアンダードッグたちにも受け継がれている。しかも、おそらくは当時よりも遥かに強く。


 今回のWBCには、アルゼンチン・エジプト・イランの3か国が、それぞれ初出場を決めた。三者とも、これまでそれぞれの大陸において、他の強豪国(アルゼンチンはベネズエラやブラジル、エジプトはナイジェリア、イランはパキスタンやフィリピンなど)に本大会出場を阻まれ続けてきた国だ。そのせいか、それぞれのチームを率いる指揮官たちからは、初めて世界の舞台を踏むとは思えないほど、自らにアンダードッグのレッテル張りをする者たちに、一泡吹かせてやろうという強い言葉が溢れ続けている。


 「冷静に見れば、戦力的に我々が厳しい状況にあることは分かっている」そう、イラン代表監督のホセイン・ハシェミアンは語る。「しかしだからと言って、我々がWBC出場を決めるまでの間、手をこまねいていたわけでは決してないし、戦力差を言い訳の材料にするつもりもない。我々は世界と戦うために、常に新しい人材を発掘し、プレー環境を整備し、一流の選手たちを育て上げてきたんだ。それは、同じ初出場のアルゼンチンやエジプトとて同じことだろう」


 アルゼンチン代表監督のアーマンド・ベニテスも「我々にも我々なりに、自分たちの国を背負って戦っている、という自負やプライドがある」と同調する。「アルゼンチンにおける野球は、これまでずっとフットボールに押され、決してビッグなスポーツではなかった。そんな中でも、プライドと情熱を持ってこの競技に取り組んできた人々がいたからこそ、我々は今WBCという大舞台に立てるんだ。だからこそ、彼らのためにも無様な戦いをするわけにはいかない。全ての試合で、あくまでも勝つために全力を尽くすよ」


 初出場組だけではない。こうした意欲を燃やしているのは、大会では常連ながらもなかなか上位進出ができていない、南アフリカやニュージーランドといった国々も同じだ。ベスト8進出チームに対して与えられる、次回シード権の獲得経験がない彼らもまた、自らの与えられた低評価を覆すために、躍起になっている。「そういう意味では、今回初出場する3か国も含めて、我々のような国にはどこか、仲間のような意識もある」と語るのは、ニュージーランド代表指揮官のジェイソン・ヌクヌク。「もちろん、実際に我々と対戦する時には容赦しないけどね(笑)」


 32年前のオランダが、強豪国相手に互角以上に戦えたのは、チーム防御率3.18という高い投手力と、それを支える守備力の賜物だった(いずれも打撃で高く評価されていた国々相手に、この成績を残したことには価値がある)。現在、下剋上を狙っている国々の指揮官も、ジャイアントキリングを起こすうえでの秘訣を問われると、判を押したように守備の重要性を口にする。投手層の厚い国際大会では、相手に打ち勝つことはあまり望めない、ということまで含めて。


 「エジプトが目指してきたのは、守備からリズムを作るスタイルの野球だ」と、エジプト代表を率いるモハメド・オサマは言う。「相手打線をテンポよく打たせて取って、相手の攻撃をしっかりと凌ぎ、相手チームに生まれた僅かな隙を突いて1点でも上回り、小刻みな投手リレーで逃げ切る。このスタイルは、既に32年前のオランダが具現化済みだが、現在でも通用する戦い方だ。事実、我々はオールスターウィーク中の国際親善試合で、スペインやスウェーデン、ナイジェリアなどの格上相手に、この戦法で互角に戦えているからね。無論、チーム全体にきっちりとしたディシプリン(規律)が求められるが、我々の選手たちの間では意識も共有されているし、しっかり戦うことができると思う」


 もちろん、彼らの目指す戦い方が、実際に通用するのか否かに関しては、蓋を開けてみなければ分からない。しかし逆に言えば、彼らがあっさり粉砕されることなく、その思惑通りの「大仕事」をやってのける可能性だって、決して0ではないのだ。野球はすべて、確率に支配されているスポーツ。投手陣の頑張り、打者との相性、天候…。それらのダイスの転がり方次第では、例え紙の上での「弱者」であろうと、いくらでも「奇跡」は起こせる。そしてそれこそが、このスポーツの最大の魅力の1つなのだろう。


 「このスポーツでは、強い者には強い者としての戦い方がある。しかし、弱い者にも弱い者なりの戦い方というものがあるんだ」と、ベニテスは不敵に笑う。「表面上の戦力で足りない部分は、頭脳と緻密な戦略で補う。これまで、アルゼンチンはそういう試合を何度も経験してきた。だから我々にとっては、より強いチームと当たった時こそが、本当の勝負なんだ。もちろん、世界中の一流国が集まる舞台だから、勝ち進むのは決して簡単じゃないけどね。全ての国に、等しく優勝のチャンスがあるということを、この手で証明したいんだよ」


(ここまで本文)


 いかがでしたでしょうか。今回は、実力が「下」とされるチームによる番狂わせに、焦点を当ててみました。現段階でも、強豪と中堅、あるいは弱小との差は、決して小さなものではありません。今年の秋には、ご存知のようにWBC予選が世界各地で実施されますが、特に初めてこの舞台に足を踏み入れる国々は、まだまだ力不足だとみる向きが多いことも、容易に予想できます。


 しかし、記事中でも触れたとおり、野球はどんなチームにも、やり方次第で勝つ可能性が残されているスポーツ。オランダがドミニカの足をすくったように(もちろん、当時からオランダは、ヨーロッパの中では圧倒的な力を持ってはいましたが)、持たざる者が持つ者を倒す可能性は、いくらでもあるわけです。スポーツにおいて、番狂わせ(ジャイアントキリング)は1つの大きな夢でありロマン。今後、オランダに続く「奇跡」を見せてくれる国は、一体どこになるんでしょうか?