大人たちの過ぎゆく日々 -4ページ目

大人たちの過ぎゆく日々

身近な家庭菜園/現代小説

(42)そして迎えた土曜日、野球部OBの集まりが三時から始まろうとしていた。涼子も早めに弘美と共に店にいた。 


忙しそうに動き回る中、予定時間より前に何人かの野球部員が集まってくる。一年後輩の長田くんも「いつまでも後輩扱いですよ」と、誰にとは言わず愚痴るが楽しそうだ。学年が一つ下なので涼子のことはよく知らない。今では会社の幹部らしいが、いつも補欠でボール拾いだったと記憶している。


監督も遅れて来てくれた。新井先生が一緒に居ないのは喧嘩でもしたのかと思ってしまう「ほう、懐かしい、我が校の制服だね」


さきほど店の奥で制服に穿き替えていた涼子を見つけて近寄ってきたのである。涼子も制服には抵抗も無く同窓会には必要なアイテムと思い履き替えていたのだ「お久しぶりです。安川監督ですよね」

 

「君は当時の生徒さんかい?一瞬、現役の生徒が来てるのかと勘違いしたよ」

 

大きな声で笑うと「当時の同窓の旧姓鈴木です」

 

周りの部員たちも「我らの野球部のアイドル 鈴木さんですよ」と分かっていたらしく、初めて言葉にして感激していた。

 

「ああ!噂の鈴木さんか!渡辺が好きだと言った人かな?でも当時は鈴木って何人か居たから、違ったら申し訳ない」

 

鈴木と言う姓は、確かに何人か居たのを覚えていた。

 

思い出したのだろうか「主将である渡辺がスランプになっていた時、『お前には、頑張る根性、やる気にさせる女子は居ないのかとか』そんな激を飛ばしたことがあったなぁ・・その時、聞いた名前が鈴木だった」

 

監督は生徒っぽく見える涼子本人より、制服を懐かしがって話してくるのだ。まだ来ない新井先生が気になっているのか、時計を見て心ここにあらずでいる。

 

(紫蘇の花)

「あ、そうか!、君か、野球部で話題にしてた女子だったか!すまん、思い出したよ」と、少し反応が遅い。

 

「いいえ昔の事ですから。向こうに居るのが滝口さんです」

 

「滝口弘美さん?あの松田が奮起した人!。知ってるよ、松田の "想い出の君" だからな、いろんな伝説がある。それで再会してるのかね。それは素晴らしい運命だね。ただ出会うのが遅かったかな」監督はまだ知らない・・弘美が自由の身になることを・・つづく

 (41)冬子が髪を切ったのは何故 ?

 

旅行先で女三人、夜な夜な・・男100人浮気したら、100人の女性が絡むよね、中には主婦も居たりして・・と冗談で話したのを思い出していた。


(萩の花)

「ねぇ、渡辺くんは仕事って何時まで営業してるの?」

 

「10時まで」

 

「じゃ帰り遅くなるね」

 

「遅くなりそうな時は施術用ベットで寝たりしたことがあったよ。狭くて一度落ちた」と、笑う。

 

「え〜冬子が心配するでしょ」

 

「ん? 金土は施術が集中するのは知ってるし、遅くなるのは分かってると思うよ」

 

「違うよ、落ちたら心配するでしょうに」

 

「ああ、そうね、もう毎度のことだから。それに忙しい時が続く時もあれば、暇な時もあるからね。最近は予約だけにしたから、気分的にも楽なんだ。前は妹の件で心配が大きかったかな・・あの頃は、電話対応や受け付けのパートさんがいると助かると思ったけどね」

 

身振り手振りで渡辺くんの手を見ていたが、綺麗な手をしているのに気付く。

 

「手ですか?道具ですからね、怪我しないよう、きれいにしてますよ」と、手を差し出してきた。まるで触ってみて・・というように。慌てた涼子が

 

「あの、じゃ冬子に会わない日もあるんじゃないの?」

 

「何日もあるよ・・最近はイライラすることもないようだし・・この間の旅行で変わったのかな」

 

「お母さんや子供は大丈夫なの?なんか無理やり誘ったようで」

 

「全然大丈夫、この頃は週二回、ボランティア活動もしているし家を空けている」

 

「え、そうなの?」

 

「家に居ると嫁姑の関係があるから、気分転換で行ってるんじゃないかな?」

 

夫である渡辺くんの話なので間違いはないだろう。冬子は家から飛び出していた。それも週二も出掛けているという。ボランティアって・・?私たち女三人クラスメートは25年経って変わってきていた。つづく

 (40)二時も過ぎた頃、店内に入って来たのは渡辺くん「あれ、こんにちは」

 

「あら、こんにちは、休み時間?」

 

「そうじゃ無いけど・・今日はキャンセルだったので、ラーメン食べに来たんだよ。鈴木さんが居るなんてラッキーですね。たまには二階の店にも来てくださいよ」

 

「えー、スポーツトレーナーでしょ」

 

「普通にマッサージもしますよ」

 

「ヤダー、渡辺くんに施術されるのは恥ずかしいわ」

 

「そうじゃなくて、僕のところにも顔出して下さいってことですよ」

 

「そうだけど・・私は弘美に会いたくて来ただけだし」と強がった。

 

「家でもするんでしょ」それとなく冬子にしてあげてるのかを聞いていた。

 

「マッサージ?しませんよ。 あ、この間の旅行ではお世話になりました。楽しかったようですよ」

 

あの旅行は、私たち女三人ということで出掛けていたのだったが、実は倉田先生も一緒にドライブしていたのだった。

 

「あの頃かな ? 健康の為とかで走りだしたのは?今も続いているし、心境の変化だね」 

 

「へー、それは涼子のお陰かも知れないね。私も刺激を受けた一人よ。運動不足を実感したから」

 

「鈴木さんの刺激ってなに?」


渡辺は興味を示した。

 

「変わらぬスタイルよ。25年前と変わらないって凄いと思うわ。それで冬子も刺激受けたんじゃない?」

 

「僕も居酒屋で久しぶりに会って驚いたよ。初めは娘さんかと思って・・」

 

「あはは、お世辞が上手ね、それで冬子を口説いたのね」


「そんなこと無いよ。何となく・・」


 私たちは本音を聞き出すチャンスとも思って「何となくって冬子に失礼じゃないですか?」

 

「そうよ、大恋愛なんでしょ」


責められると松田は厨房で引っ込んてしまう「恋愛じゃないです。最近は考えてることが分からないほど、意見の食い違いが多くなってきている。お互い長い付き合いで我慢してきた日々だったのか?今になって本音がぶつかるのかな」

 

「お互い他人だもん。意見の食い違い、やることなすこと気に入らないって分かるわ。良くしたい、良く見られたい気持ちからなんだよ。それがさ、野球に例えれば努力しても、空振りではやる気なくすよ」


(コキアの花)


「そういえば、最近はヘアスタイル変えたようだ」

 

「へー、渡辺くんが言ったんでしょ」

 

「言わないけど」誰かに言われたのかな ? 冬子に男の匂いがした。つづく