大人たちの過ぎゆく日々

大人たちの過ぎゆく日々

身近な家庭菜園/現代小説

 (50)夫とは歌舞伎町には来ていたけど、すっかり変わってしまい迷子になりそうだった。長田くんに着いて行くと、そこから10分も歩いただろうか?あるビルの中に入って「ここです、どうぞ」

 

ドアを開けると、見晴らしの良い6階に位置していていた。

 

「おーい、集まってくれるかな。さっき連絡した鈴木涼子さんです。そうだ、今は名前変わってるんでしたよね」長田は、当時のまま旧姓しか知らない。

 

すると周りから「高校生連れてきたのかと思いましたよ」

 

「あのぅ杉田涼子です。初めまして」何人かが残業をやっていて、皆が立ち上がってくれた。初顔合わせなのに高校の制服着てるし、可笑しな人だと思われたに違いない。

 

「お似合いですね、その制服姿、そうだ! 特集作れるかも」その涼子の感覚が社員に受けたようだ。

 

「すいません、さっきまで高校当時の集まりがありましたからこんな恰好なんですよ」


長田に答えを求めた。



「いいかも・・プリーツスカートにブラウス。もう少しアレンジして大人感覚にしたら」と、着こなしている涼子を観る。

 

「それ、いけるかも!若返りしたい気持ちは誰にでも共通、それを大人世代に・・」

 

チームの女性が「私は母が居ないので、就職する時は父親に相談しましたけど、いろいろ人生の相談もしたいです」

 

そんなことはない・・貴方より未熟、就職なんてしてないんだからと・・心の中で訴えた。それにこの事は、夫に相談しなければと思っていた涼子。

 

「マネージャーが決めたんでしょけど、今回は私たちも賛成です」明日にでも人事部に話す気持ちが、皆の意見だった。

 

「よければ一緒に働きませんか」と、チーム全体をまとめて歓迎してくれる。そんな雰囲気になると備え付けの冷蔵庫から缶ビールを出して「乾杯しようか」


仕事場は飲み会にも変わってきた。企画部というデザインを決めて世に出すまでのチームは自由のようだ。長田の他は女性。そこには女性への気配りや優しさが皿洗いにも通じるのもがあったような気がした。

 

飲み始めると「鈴木さんは、我が校ではアイドル的存在だったんだ。僕もだけど、みんなが憧れた一人だったからね」

 

「え、マネージャーの初恋の人ですか?」つづく

(49)時計を見ると夕方6時にもなるので食事を作る主婦は気になる。私だけなら食事は何でも良かったが、夫が帰って来ると思うとゆっくりはできない。

 

夫の帰りが気になり、スマホを取りだしLINEを見ると「今日は夜勤」どうでもいい内容までも書いてある・・同僚が階段から落ちて怪我をしたから・・と、聞いてないのに言うのは笑えたが、きっと急に会う約束が決まったのだろう、絶対・・女の都合だとイラついた。


(黄花コスモス)


・・

そんな気持ちが「今から新宿行けますよ」

 

「え? 今からですか?」企画チーム連絡を取ると、残業している数名が会ってみたいと関心を寄せてくれる。


ボール拾いだった長田くんが今、涼子との間で仕事の付き合いが始まろうとしていた。過去に接してみて分かったことは、憧れだった倉田先生が愛したのは山口美香先輩であったし、恋心を抱いた渡辺くんも矢川冬子と付き合いがあったという。

 

当時から涼子は二人の男に振られていた事が分かると、あの時に戻っても何も変わらなかったことが判明する。


唯一、今回は後輩の長田くんとの繋がりが出来た。一緒なら新宿行きも高校の制服も気にならない。


色づくネオンの妖しい中で「歌舞伎町の横を通るからゴジラ見えますよ」


「ほら、あれ」指差すビルの屋上に巨大な頭だけのゴジラが見えると、人混みの間を小走りで抜ける歌舞伎町界隈を気にせず進んだのだ。


涼子は時々あどけない顔をするのが魅力的で見上げる姿は、当時の涼子がそこに居たのた。つづく

 (48)「長田くんはさ~今、何の仕事してるの?」

 

「アパレル会社でマネージャーをやってます」そこへ電話が鳴る「はい、長田ですけど・・分かった」それだけで切っていた。

 

「お仕事忙しそうですね OB会で皿洗いも頼んだりしてして、すいません」

 

改めて礼を言うと「いいえ、ここに来ると発想の転換が出来るんですよ」皿を洗うにも意味があるという。

 

「実は一か月前に、鈴木さんと出会って気付いたんですが・・」と、前置きし「今度、アラフォー世代のおしゃれ着ファッションの立ち上げ案で、モデルさん探してます」

 

「そうなんだ」

 

「若いモデルは所属してるけど・・主婦の方となると居なくて」

 

実は、健康で体型を維持しているアラフォー世代の人を探していると話してくる。イラスト描いたりマネキンにばかりに着せても、デザイナーはイメージ出来ないと言うのだ。

 

「それで鈴木さん、どうですか。フィッティングモデルなんですが、やってみませんか?鈴木さんなら主婦歴もあるからイメージは合格ですが、ん、大人の雰囲気が少し欲しいですけどね・・あの?男の僕では決定出来ないですが、皆もきっと賛成してくれるでしょう。イメージはぴったりだと思いますよ」

 

「フィッティングモデル ・・? モデルさんのようにスラっとしてないし、顔も普通ですよ」大人の雰囲気って、色気が足りないのか!それはショックだったけど、長田の話しに乗り気になっていた。

 

「いや、身長もあるし良いと思います」

 

「ネットや雑誌の広告など載らない試着が主です。新宿ですので、よければ一度」


名刺を差し出すと長田智明 統括マネージャーとなっていた。

 


涼子は夫に話をしなければと返事を後回しにした。仕事は前々から希望していたが、それは・・気分転換のパートで十分と思っていたので、モデルとは信じられない話になっていた。

 

名刺にはオフィス住所、アドレスも印刷されている「新宿なんて結婚して以来行ったことないですね」

 

「ぜひ、旦那さんとお越し下さい」え、夫と・・そういえば結婚前に、新宿でタイタニックの映画を観たのは記憶に残っている。

 

あの頃の夫はメグ・ライアンが好きだと言うから、一緒にユー・ガット・メールを観に行ったこともある。その時「君はメグ・ライアンのように可愛い」と言っていたのだけど・・もうあの当時の気持ちも失せている。

 

以前、夫のポケットから観たことが無い新宿での夫婦割りチケットを発見した時を思い出した。今でも誰かと映画を観てるのを感じてしまう。そんな夫と、新宿など行ってみようとは考えないけど、新しく出来た屋上からのゴジラは一度、観に行こうかと興味を示した。つづく