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大人たちの過ぎゆく日々

身近な家庭菜園/現代小説

(39)弘美がバイトを始めて二週間が過ぎる頃には、再び野球部の集会も迫っていた。内緒ではないのだろうけど、皆に何か言われそうな気配を感じるほど二人は仲良くなっている。

 

涼子が再び行ってみると、ランチタイムの忙しい時間帯を終えているようだった。

 

「弘美、変わったね」

 

「そう?お昼の時間だけ働かせて貰ってるよ。松田くんは優しいけど仕事中は真剣で」

 

「それだけ一生懸命なのよ」

 

「うん、それからさ、情報だけど渡辺くんが妹さんを連れてきて食べてたよ」

 

「この間の女性?」

 

「うん、結婚すらしいよ。彼女、渡辺くんとひと回りくらい違うんじゃないの ?ハーフかな」

 

「そう? ・・」

 

そこへ松田くんが来て「はい、スペシャルラーメン」

 

「わー、すごい。美味しそう・・松田くん、また集まりがあるけどバイトの弘美をどう紹介するの?」

 

「忙しいからバイトして貰ってます。と、言うだけですよ」


弘美の離婚が決まれば、フルタイムで働かせてもらう事になっていた。

 

「それだけ?」

 

「涼子っ私まだ・・離婚したら言うからさ。あまり責めないで」涼子は思った。もう弘美は、私より松田くんに味方していると。 


(ニラの花)

「渡辺くんの妹さんって結婚するんだってね」

 

松田「うん 母国のフィリピンに帰るらしいよ」

 

「じゃ、今度の集まりは、渡辺君の妹さんの結婚のお祝いと、弘美の結婚に向けて・・」

 

緑「やめてよ。私はまだ・・」

 

「協議離婚で合意してるんでしょ」

 

「うん・・」それを聞いて、松田は喜んでいるようにみえた。

 

「渡辺くんの事、誤解しちゃってたわね。不倫かと思っちゃったよ」

 

松田「あはは、でも願望はあるんじゃないの ? 男だから・・」

 

弘美「え!、松田くんも」

 

「ん?俺は、逆に女性には無頓着だったから・・」

 

「だから?」

 

「だから・・結婚出来たら、いつも側に居たいかな・・」


「そうなんだ。今週の土曜日に集まりで、渡辺くんにも聞いちゃう?、冬子は来るの?」

 

「いや、ここには来ないけど、一泊の温泉旅行には来てたけど」

 

「そうだったのね?冬子」

 

「現地集合、現地解散だったから。それに冬子さんは両親を連れて来ていたから、食事も別行動だったんだよ」

 

「そうなんだ、親孝行してるんだ」つづく

 (38)「すいません、忘れ物しちゃって」と甘えるような声を出し、松田くんとの距離を縮めていた。

 

「何を忘れたの?」

 

「弘美!何を忘れたんだっけ ?」

 

「え?・・私の気持ちかな」

  

上手い事を言う「ねぇ松田くんさ、今好きな人居るの ?」涼子が言う。

 

「え ?」別れたばかりでいませんよと、複雑な顔をする。

 

「そうなのかぁ、それ聞いて急にお腹減っちゃった。ラーメン食べたいな」

 

「いいよ 作ろうか」


厨房に入り遠のくと「・・あのさ、渡辺くんの事だけど、妹さんの話は初めて聞いたの ?」

 

奥から声だけが聞こえてくる「初めてだよ、あいつも妹が居る事を知らなかったのじゃないの ?ショックだったろうな。オヤジさん良く知ってるけど、他人には厳しかったのを思い出すよ。人に厳しく、己に甘かったようだね」


「・・」

 

「で、近所に住んでいた矢川 (冬子) さんには甘かったし〜。昔、工場を経営している関係でバイトに来ていた矢川さんを好んでいたと言うよ」

 

「へーそうなんだ、冬子はお父さんに気に入られていたんだ」

 

「小学生からの幼馴染だから、運命かな」

 

「運命か、悪いことも良いことも運命ね」



「はい、お待ち! 」

 

「すごい、サービス満点のラーメンね」

 

「これは弘美のね、逆転さよなら満塁ホームラントッピングかな?」

 

「美味しいわ。松田くんは離婚してどこに今は住んでるの?」

 

「近くだけど寝るだけに帰るくらいだね。一人だから気楽だけど忙しくて・・」

 

弘美「私、こんな美味しいラーメン毎日食べたいわ」

 

凉子「通ったら?」

 

松田「それは嬉しいね、毎日なら手伝ってくれれば無料にします」

 

「弘美、手伝えば・・松田くんの甥っ子の受験の助けにもなるし・・ねぇ時給いくら?」

 

「え?ほんとに! 手伝ってくれるなら時給・・1300円 出しますよ 」それは松田としたら、一石三鳥にも思え現実になるのだったらと喜んだのだ。暇が無くても、過去に好きだった人と一緒に居られる。デート代はバイト代と思えば安上がりと松田は感激したのだ。

 

「私は、これから自立しなければと思っていたから、試しにランチの時間帯くらいならやってみようかな?」

 

涼子も背中を押してくれたのが力強かった。つづく

 (37)先生はそれ以上言われたくないのか「滝口さんは旦那さんと離れて暮らしてんの ?」

 

「そうですね・・」

 

涼子も「それ、私も初めて聞くけど、今後どうすんの ?」

 

「別れるよ、あっちもその気らしくて、少しづつ自分の身の回りの物を運んでいるし、子供もいないので別れやすいから良かったわ」


否定しない。

 

「別れは残念だけど、再出発ね。ガンバレ・・私なんか結婚出来ないダメ人間、経験もないから羨ましい」


  

先生らしくない言葉を吐いた。

 

「それに関係する訳ではないけど、さっき松田くんが好きだと告白していたわね。今はどうなの ?」

 

「あれは・・25年前の話ですから」

 

「滝口さん、ラーメン屋の女将がお似合いかもね」

 

「えーヤダー、そんなこと考えてないよ」

 

「ふふ、松田くんに逆転さよなら満塁ホームランを打ってもらいましょうか」

 

「それはいいわね」

 

「そういえば・・渡辺くんも人気があってモテたんでしょ」

 

「人気ありましたね、隣のクラスでしたけど」

 

「監督はね。酔ってくると野球の話を良くするのよ。『渡辺、おまえは好きな女は居ないのかってね ? 俺は居るぞ 』 それ・・どう思う? 」

 

「え、どう思うって・・それは監督のラブコール ?」

 

「そう、私に感謝しているって・・」

 

「あはは。分かりましたよ 先生」

 

「それで話は続くのよ」

 

「なんて?」

 

「渡辺くんが『好きな人は、居ますっ』て監督に言ったらしくて」

 

「あ、それは冬子でしょ 結婚したんだから」

 

「ここだけの話『あいつは、意気地なしだ』とね、監督は何でも知っていたようね」

 

「冬子じゃないの?」

 

新井先生は誰かが傷つくと思ったのか?スマホを取り出し「ごめん、用事思い出した」また今度三人で飲む機会を作りましょうと、LINE交換をして別れた。

 

「きっと監督から呼び出しじゃないの?」

 

「新井先生って可愛いね」

 


「ねぇ松田くん、仕込み最中かしら。行ってみる ? 忘れ物取りに来たとか言ってさ・・」

 

「えー行くの?」

 

「早い方がいい、今度いつ会えるか分からないし 再婚の相手が出来ちゃうかもよ」大げさだけど、弘美をその気にさせた。

 

「ん・・じゃ」と・・松田くんのラーメン屋は直ぐそこだった。つづく