(45)生春巻きは、弘美が30個近く綺麗に包み込んで水菜を挟んでいた。先生と涼子は、やっと半分包み込むのが精一杯でカイワレ・レタスを挟み込んで生春巻きを完成とした。
新井先生はレタスで、涼子はピリリと辛いカイワレ、4つの大皿に振り分けてバイキング方式にすると「生春巻き出来ましたので、食べに来てください」
すると松田が作る餃子も焼ける音がして食欲も増してくる。
カウンターに置かれた料理、まるで立食パーティーのように、貸しきり場所は自由に動き回る。
松田くんの助手として厨房に入る弘美は、もう夫婦のようにも思えた。
「ひろみ」・・松田くんが弘美を呼び捨てしてるのを聞いた。
男が女が呼び捨てを許し許される関係は、25年前のあの時、あの時間の青春に戻っていた?あの汚れなき時代の中に急速に接近したのだろうか。それとも、もう深い関係になったのだろうか。
・・
渡辺くんは、一人離れた場所で会費の集計をノートに書き込んでいる。会ってみたいあの時、あの時間、廊下ですれ違った時のドキドキ感をもう一度、取り戻したい。渡辺くんが "涼子" と呼んでくれたら嬉しい。あの時の人生の曲がり角で、聞きたかった言葉が過ぎ去った青春・・、言葉だけでも、叶うなら好きでしたと言ってほしい。
涼子は、カイワレ大根を挟んだ生春巻きを「お疲れ様です。どうぞ」と、差し出した。
すると渡辺が立ち上がる恰好をして「ありがとうございます。これ誰が作ったんですか ?」
「私です・・涼子です」
「涼子・・さんですか」
「それ聞いたら、もう一つ食べたい」
「どうぞ」
「ありがとう、新鮮な言葉だな」
「なにが?」
「名前呼んだの初めてかも、25年前から鈴木さんだったからね」学生時代は "涼子" でも良かったが、今言われたら違う響きに聞こえてしまうのは分かっていた。 つづく


