「部活動の地域移行のあり方」についての考察 | 庄本けんじのノートブック

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「部活動の地域移行のあり方」についての考察

 

   <はじめに>

 中学校の部活動のあり方については、これまでにも、部活動の存続が危ぶまれる事態に直面しているという共通認識のもとに、多くの議論が交わされてきました。政府は、運動部活動をめぐって生徒が自らの命を絶つという痛ましい事件が起きたことを契機に、2018年(平成30年)3月、「運動部活動のあり方に関する総合的なガイドライン」を提示し、その内容に沿った本格的な部活動改革を進めるよう全国に呼びかけました。その後、教職員の働き方についての議論が盛んになるなかで、2020年(令和2年)9月、「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」という方針を示し、そこで、休日の部活動の段階的な地域移行という目標が定められ、全国展開にむけたタイムスケジュールと、遂行のための課題が示されました。

 こうして始まった部活動の地域移行の取り組みですが、政府は、あらためて、2022年(令和4年)6月に「運動部活動の地域移行に関する検討会議」の提言を公表し、部活動地域移行にむけてのまとまった方針を示しました。ところが、この政府が示した「提言」にたいして、少なくない疑問や意見が散見されます。とくに、全国市長会が6月29日付で発出した「運動部活動の地域移行に関する緊急意見」では、様々な課題がなんら整理されないまま、期限を決めて一様に実施しようとすることに対して、強い懸念と心配の声が広がっている、という認識を表明したうえで、政府が講じるべき内容を簡潔にまとめた要望を提起しています。重要な指摘です。

 部活動の地域移行の取り組みは、日本の文化、スポーツの構造そのものを大きく変えるほどの歴史的な取り組みとならざるを得ないものと考えます。ゆえに、実施するにあたっては、その歴史的な取り組みにふさわしい検討と準備、構えと方法を確立しながら進めるべき取り組みにしなければならないと考えます。国の責任を明確にして、じっくりと腰を据えて遂行すべき取り組みです。

 一方、部活動改革や教職員の働き方改革は、部活動の地域移行の取り組みの状況に引きずられることなく、急いで解決すべき課題です。この点については、政府自身も、たびたび指摘していることではあります。

 西宮市も、部活動の地域移行に向け、当面、土日の地域移行を2026年度(令和8年)より実施するとして準備を始めています。十分な条件整備と関係者や市民の合意形成には相当の時間をかける必要があるはずです。あわせて、部活動のあり方の改革や教職員の多忙化解消については、急ぐべき課題との位置づけで解決を図る必要があります。

 

   <部活動そのものの改革と教職員の働き方改革を踏まえた部活動改革の取り組みについて>

 政府もたびたび指摘しているように、地域移行が進められている間においても、緊急に解決が迫られている部活動改革については速やかに進める必要があります。

 たとえば、かねてから問題視されてきた、体罰や人権を無視した管理的強圧的指導、また、指導者による「いじめ」やハラスメント、先輩と後輩との関係で生じる「いじめ」やハラスメントなど、即刻、解決が迫られている諸問題があるとされています。また、勝利至上主義による指導や過度な練習も、問題点として指摘されてきました。

 これらの問題が、西宮市においてはどのような実態にあるのか、すでに解消されているのか、まだ解消されていないのか、問題解決の取り組みが客観化されていません。この種の問題は、部活動改革の第一義的、緊急課題として取り組む必要があります。その取り組みを強力に推進するためにも、取り組みの到達を適宜明らかにし、関係者の間で認識を共有すべきです。

 あわせて、部活動は、教職員の長時間過密労働の大きな要因となっています。放課後だけでなく休日にも指導を求められ、活動時間中は生徒指導・安全指導等の対応が常に求められます。そのため、授業準備や自主的研修、教職員自身の休養や文化の享受などの障害となっています。教職員の働き方改革をすすめるための部活動改革も、地域移行を待たずとも解決すべき課題として位置づけ、この面での改革を進めるべきです。

 教職員の働き方改革を踏まえた部活動改革の取り組みについても、その到達を適宜明らかにし、関係者の間で認識を共有することを進めるべきです。

 

   <部活動の地域移行について>

 部活動の地域移行の取り組みは、学校部活動における諸問題を解決し、あわせて、教職員の長時間過密労働を解消するという二つの大きな課題を解決する方策として取り組みが始まっています。部活動の地域移行において、そのめざすべき姿は、なによりも、子どもたちの文化、スポーツの要求を権利として保障するものでなければなりません。部活動地域移行の取り組みの目的では、子どもたちの文化、スポーツ要求を権利として保障する立場を明確にするべきです。

 あわせて、国が責任をもって推進することを明確にする必要があります。政府の提起では、自治体任せ、地域任せと感じざるを得ません。

 このことをまず指摘したうえで、部活動の地域移行を進めるうえで、解決すべき諸問題について思いつくところを列記しておきたいと思います。

 第一は、部活動地域移行についての必要性や目指すべき方向性などを、より明確にし、地域、教職員、生徒、保護者、スポーツ団体など関係者の十分な協議を重ね、理解と協力を得ること。

 第二は、地域移行を行うにあたっては、人材確保、施設の確保、道具などの費用負担など、条件整備と合意形成には相当の時間が必要となることから、移行期間を限定することなく、課題を整理し、それを関係者と共有し、住民にも広く周知しながら進めること。

 第三は、地域移行する場合、様々な場面で費用の問題が発生することになるが、その負担をだれが負うべきなのかという制度の枠組みについては国が責任をもって設計すべきことであることから、財政措置について国の責任を果たすよう強く要望すること。

 最後にあらためて強調しておきたいことは、部活動の地域移行の取り組みは、日本の文化とスポーツのあり方や構造を変える大きな取り組みだ、という点です。そうした取り組みにふさわしい地域移行の取り組みとすることが必要です。したがって、じっくりと腰を据えた取り組みとすべきです。そのためには、移行時期を限定せず、すべての子どもたちの文化とスポーツ要求を実現するための取り組みとなるように、自治体も努力すべきです。

 

以上