不運な女 | ScrapBook

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読んだ本についての感想文と日々の雑感、時々音楽のお話を

不運な女/リチャード・ブローティガン

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こうして旅を続けているうちに、人生を操ることはできないこと、そればかりか、おそらく予見さえできないものであること、計画をたてるとか、兆候を読み取るなど論外であることが、ますます明白になってくる。

1984年10月、リチャード・ブローティガンはピストル自殺する。その6年後未整理の遺品の中から発見されたのが本作「不運な女」。「アメリカの鱒釣」に見られる先鋭的な表現は本作にはない。この物語は1982年1月30日付けの断片から始まり、1982年6月28日までの断片で終わる。主人公「わたし」は四十代半ばの男性。そこここで他者との接触はあるが、引き離せない孤独を抱えて数ヶ月間の旅に出る。孤独な人間の多くがそうであるように、彼も或るAという事柄を語るとその中に含まれるBについて語り始め、続いてBに含まれるCについて語り続けるという具合に物語は進行する。確かに日誌の日付は不可逆的に進行していくのだが、彼の意識の対象はますます過去に、過去がぴったりと張り付いたまま行き場も無く彷徨い続ける。主人公「わたし」の意志はこの日誌を書き続ける以外、ない。

「そう、過去と現在を並行させて語るのは難儀だ。だって、過去も現在もそれぞれにふさわしい役を演じてくれるかどうか、あてにできないのだから。時間はやにわにきみを欺き、きみの理解や、現実が必要とすることに真っ向から対立する方向へ作動するかもしれない。」

「がんで死につつある女性のことが忘れられず、苦しい」と心情を吐露する「わたし」。過去を忘れることができない人間は、いつしか意志することさえ失う。