嫌われ松子の一生 | ScrapBook

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読んだ本についての感想文と日々の雑感、時々音楽のお話を

嫌われ松子の一生/山田 宗樹

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木曜日の午後10時、画面の中で内山理名が熱演する「嫌われ松子の一生」。映画では中谷美紀が演じたが、原作を読む限りでは内山理名の容姿が原作に近いのではなかろうか。
主人公、川尻松子の20歳の時のポートレイトは、「切れ長の奥二重で(略)、首輪郭は四角形に近いが、顎が小さく尖っているのと、首がほっそりしているせいで、清楚な雰囲気を醸し出している」とあるから。

知的でありながら天真爛漫にして無邪気、自らが善かれとしたことがことごとく裏目に出てしまう人生をまとめたものがこの物語。よくぞこんな物語を作ったものだと感心してしまう。

昭和40年代、高度経済成長期の中、確かに女性の社会的地位は低かった。そのような中で有名国立大学を出たての新任女教師が、赴任した先で俗物の校長に運悪く悪質なセクハラをうけ職場を退職に追い込まれる。そこからは、恋人の自殺、不倫、風俗嬢へ転身する数奇な運命を辿る。そんな転落流転しながらも、ひたすらこの世界に存在するであろう誰かに、その一人から十全に愛されることを渇望しながら、また信じながら生きる様は、豊かな世相に生まれ両親の愛情の中でぬくぬくと育った現代の女子高生の覚悟無き援交と比べると、あきらかに一線も二線も画していてむしろ爽快だ。どのような人生であっても、やり直しなどなく簡単に言えば一筆書きのようなものだ。どんなにやけっぱちなものであっても、生きる事はとても簡単であり、これほど困難なこともない。

それにしても誰からも「嫌われ」る人間などこの世にいるわけがないだろうと高を括る人がいたら、その人はまだ人生の一歩目を踏み出したに過ぎないのだろう。この世には、接する人ことごとくを傷つけてしまう人間がいるのだ。だがその人物こそ、もっとも傷ついているのだが……。ちなみに昭和にはPTSDという言葉は無かった。

この小説の素晴らしいところは、現代の読者が興味を持てるように推理仕立てに、つまり謎解きしながら、「川尻松子」という崖っぷちに立った「昭和」のたくましい女性の身体の中でにえたぎる赤い血液を徐々に読者の面前に吹き出させているところだろう。赤い血は昭和の残照ともとれる。解釈できる。もっとも性描写が多いので閉口することも事実だが。

それにしても松子以外の登場人物の創りが粗雑な気がする。今後の内山理名は?