限られた弁当を売る順番【27】 | 車内販売でございます。

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車内販売を15年半で11000回を利用してきた「車内販売大好きな乗客」が書くブログです。 多数の観光列車に乗り鉄しています。

 午前中なら、車内販売のワゴンに、弁当が何種類か乗っている。乗客は、どの弁当にするか、選ぶことができる。

 一方、夕方になると、弁当が売り切れることがある。どの弁当にするか選ぶのもできない。買えるか買えないか、ギリギリの時間帯だ。

 今回は、残された数少ない弁当を、販売員はどう売るかという話。




【1】グリーン車から回るのが原則

 高い料金をもらっているグリーン車から回るのが、ワゴン販売の原則だ。グリーン車が、最後にワゴンが回ってくるのでは、高い料金を払ったのに、最も低いサービスしか受けられないことに、なりかねない。

 もちろん、山陽新幹線では自由席1号車からワゴンが回ることがあり、これで16両全体に早く回ることにつながるから、例外も結構ある。


 ある日私は、長崎発博多行の「かもめ」のデラックスグリーン車に乗った。787系「かもめ」は、最後部の1号車はグリーン車で、その最後部の3席がデラックスグリーンである。

 長崎を発車して5分ほどして、1号車の前の方から、ワゴンが回ってきた。デラックスグリーンの客は、私を含めて二人。グリーン席には4人乗っていた。

 「おや?」と感じたのは、グリーン席の前を無言で通り過ぎたことだ。客と目を合わせもしない。仕事っぷりに感動させられ続けているJR九州の販売員なのに、何だこりゃ?と思った。


 このとき私は、車内販売以外は何も飲まない食べない「車外断食中」だったから、ぜひとも弁当が欲しかった。

 販売員さんがワゴンを押して来たら、まるで天使が降臨したような気持ちで凝視した。販売員さんも、視線に応えてくれた。

 私が大好きな「『長崎街道シウマイ弁当』はありますか」と尋ねた。

 販売員さんは「この『肥前路弁当』だけになってしまいます」と申し訳なさそうに、答えた。

 私は「あ、それでもいいですよ」と肥前路弁当830円を購入した。



 次に販売員さんは、もう一人のデラックスグリーンの乗客に「車内販売でございます」と声をかけた。

 すると、もう一人のデラックスグリーンの乗客は、こう言った。

乗客:「お弁当が欲しいのですが」

販売員:「申し訳ありません。品切れになってしまいました」

乗客:「ああ、そう。じゃ、いいわ」

販売員:「本当にすみません」


 そうだったんだ!!。

 弁当が1個しかなかったのだ。これで合点がいった。

 1個しかないから、デラックスグリーン席から販売を開始しようとしたのだ。だから、グリーンの客と目を合わさずに無言で通り過ぎることにしたわけだ。

 この販売員さんは、ワゴンを前に戻す時には、もちろん笑顔で、客と目を合わせて販売していた。


 この販売員さんは20歳前後の若手だったが、ここまできめ細やかな対応ができるのには、驚いた。JR九州は、何てレベルが高いんだ!

 こういう販売員さんが活躍する場が、どんどん狭くなっている。「かもめ」の車内販売は、「ソニック」と共に消滅してしまったのは残念だ。


【2】先を読んで順番を決める

 ある日、私は特急で販売員さんに手を振って、ワゴンを止めた。

 本来ならホットコーヒーか缶ビールだけ、と思っていたが、凄い腕の販売員さんだから、もっと買いたくなって、数秒迷った。乗車率20%くらいで空いている列車で、10秒くらい考えても、許されるだろうと思って、ワゴンを待たせた。

 私が数秒迷っていると、私の1列前の外国人3人が、販売員さんに英語で話しかけた。私はちょうどいいや、じっくりワゴンを見られるやと思い、「お先にどうぞ」と販売員さんに伝えた。

 私は早口の英語が聞き取りにくかったが、販売員さんは何と英語で受け答えして説明した。凄いっ。

 販売員さんは英語で説明している途中で、「ちょっとすみません」という表情をして、私を見てこう言った。

 「弁当などの食べ物をお探しですか?

 私はビールにしようと考えていたので「いいえ」と答えた。

 この時、ワゴンに積んである腹の足しになる食べ物は、写真のように、おにぎりセット3個と、カツサンド3個が積んであった。




 そして外国人の3人組が頼んだのは、何と、おにぎりセット3個だった。


 考えようによっては、私は「先に声をかけた客」、外国人3人組は「割り込んだ客」と言えなくはない。私には、そんな意識はなかったが、そういう受け取り方をする人がいるかもしれない。

 買う可能性がある「おにぎりセット」と「カツサンド」は3個ずつしかないと把握していた販売員さんは、外国人3人組が3個頼んだら、先に声をかけた客が買えなくなってしまうと考えた。だから、「食べ物をお探しですか」と私に確認したのだろう。

 ここまで気遣いができる販売員は、見たことがない。この他にも、凄い技を連発していて、本当に感激した。前の客が日本語を話せないこともあり、最大限の賛辞を送った。

 間違いなく、カリスマアテンダントと言って良いレベルだ。 さすが紫バッジが胸に輝く販売員だ。


 このカリスマアテンダントさんから買ったコーヒーは、美味しかった。どんな景色よりも、凄技が好きなマニアだから、美味く感じないわけがない。