会話して買いたくない? | 車内販売でございます。

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車内販売を15年半で11000回を利用してきた「車内販売大好きな乗客」が書くブログです。 多数の観光列車に乗り鉄しています。

 車内販売を行う列車が、ますます減っている。

 来たる3月14日のダイヤ改正でも、「くろしお」「成田エクスプレス」「フレッシュひたち」「たにがわ」「なすの」で車内販売が廃止されてしまう。


 車内販売が廃止される理由は、いくつか指摘されているが、最大のものは「駅の改札内外の売店・コンビニの充実」だ。

 ここ数年で、駅の改札外のコンビニが増えた。大きな駅では、改札内でも売店が増えた。特急が発着する大きな駅では、弁当や飲み物の需要があるので、重宝されるようになった。

 ポイントは「安さ」と「品ぞろえ」だ。

 たとえば缶ビール350mlは、車内販売では270円か280円だが、駅の売店では230円くらいで売られている。弁当は、売店の方が品数が多く売り切れも少ない。駅だと、1つの店で弁当が売り切れでも、近くの別の店で買える場合が多い。

 上の写真は東京駅の新幹線ホーム。

 列車の中のワゴン販売だと、弁当はせいぜい3~4種類だ。しかし、駅の売店だと5種類から10種類くらい置いてある時が多い。

 


 し・か・し、「駅の改札内外の売店・コンビニの充実」以外にも、理由はあるのではないだろうか。

 「人件費の高騰」「販売員の不足」といった理由もある。まだ実感はないが、景気が回復しつつあるようだ。


 ただ、車内販売が廃止されている意外な理由に「買い物する時の会話の有無」があるように思える。

 売店やコンビニで買い物する時は、客は何も話さないのが基本だ。置いてある何種類かの弁当をじっくり見て、お茶と共にレジに持っていく。店員は「980円ですので20円のお釣りになります」などと客に話しかけるが、客は何も話さないで良い。

 一方で車内販売は、客が品物を買う時にしゃべる機会が多い。

(1)品物の有無を尋ねる

 車内販売のワゴンには、数多くの物が収納されている。よく利用する私でも、何が買えるか分からないことが多い。果汁入りジュースを飲みたいが、オレンジ、アップルなどの何を売っているかは、ワゴンの下段の見にくい場所に置いてあるから分からない。当然、「ジュースは何がありますか」などと尋ねることになる。

(2)内容を聞く

 売店では、弁当の中身は、ラベルの小さな文字を読んで、確認することができる。じっくり品物を見ながら迷っても、迷惑になることは、ほとんどない。

 しかし車内販売は、複数の弁当の実物を見ながら、じっくり選ぶのはかなり難しい。「実物は収納されていて見にくい」し、「ワゴンの販売員を待たせることになる」からだ。

 このため、車内販売で買う時は、「どんな弁当なの?」と販売員に尋ねることになる。

(3)品物を選んで渡す

 レジに品物を持っていく形式でないから、更に会話をする機会が増える。「ビールください」というと、「アサヒとキリン、どちらがよろしいですか」と聞かれて、客が答えることになる。

 窓際の席でホットコーヒーを注文すると、「テーブルお出ししてよろしいですか」「ミルク・砂糖をおつけしますか」「熱いのでお気を付けください」などと話しかけられる。売店より話しかけられる機会がずっと多くなる。すると客も答えることが多くなるわけだ。



(写真は2014年3月しおさい号の車内販売最終日のワゴン)


 こうして見ると、売店は客との会話が少なく、車内販売は会話が多いと言える。

 私は車内販売を、昨年1年間で1110回利用したから、おそらく日本で1番多く車内販売を利用してきた。それで気づいたのは、車内販売好きの人は、40歳以下の若い人には比較的少ないという点だ。

 昭和20年代に産まれた団塊の世代の人が育った昭和30年代までは、チェーン店は少なかった。小遣いを使いに行く駄菓子屋も、家の手伝いで買いに行った豆腐屋も、客と店の人は顔見知りだった。キチンとした内容表示なんてない時代だから、品物の中身は店の人に尋ねるのが当たり前だった。

 買い物をする時には、客と店の人が会話することが多く、現在の車内販売の形によく似ているのだ。

 現在は、チェーン店が多い。人件費を抑えるために学生バイトが多い。ベテランの店主が家族と切り盛りする店は、ますます減少している。店員が個々の客を知らないのが現在の商店なのだ。コンビニやスーパーマーケットでは、客はレジで何もしゃべらずに買い物をする。せいぜい「Tポイントカードお持ちですか」に対して「いいえ」と答え、「お弁当あたためますか」に対して「はい」と答えるくらいだ。

 地域にもよるが、現在40歳以下の人は、圧倒的に「会話のない買い物」に慣れていると思う。普段から、買い物する時に何もしゃべらないから、車内販売で販売員と会話するのは、違和感があるのだろう。


 まとめると、こうなる。

【60歳以上の人】

『話しながらの買い物に慣れている』⇒⇒『車内販売は話をする機会が多い』⇒⇒『販売員との会話を楽しめる』⇒⇒『車内販売を利用する』


【40歳以下の人】

『普段の買い物では話しない』⇒⇒『車内販売は話をする機会が多い』⇒⇒『違和感があり、売店の方が気楽に感じる』⇒⇒『車内販売をあまり利用しない』


 もちろん、60歳以上の人は、長年車内販売を利用してきたので、車内販売を利用する習慣がついているのもあるだろう。

 団塊の世代と言われる60歳代の人は、人数が多いとはいえ、確実に割合は減っている。販売員との会話を楽しみながら買い物をする人の割合が減って、買い物する時に会話する習慣がない世代が増えているのである。

 これも、車内販売衰退の原因だと感じる。

 こう考えると、車内販売の将来は・・・・・暗いのだろうか?

 会話して買い物するという体験は、うまく設定すれば、逆に魅力になるような気がするのだが。