夕方の下りラッシュ時のこと。普通列車グリーン車は混雑していて、上野駅発車寸前になると、1階席でも9割がた埋まっていた。
通路をはさんで私のすぐ横の席には、カバンを置いたまま寝ている20歳台半ばの男がいた。通路側の席も多くが埋まった中で、堂々と荷物を置いている。ヒンシュクだ。
そんな中、アテンダントさん登場。
グリーン券購入の青ランプがついておらず、赤ランプのままだったので、当然声をかけた。「お休み中、恐れ入ります。グリーン券を拝見します。」全く反応しない。やや大きめの声をかけても、席を揺らしても反応しない。顔色や表情から、酒を飲んだり疲れたりしているようには見えないのに。
アテンダントさんは、他の車両も回らなくてはならないので、止む無く一旦離れた。私は横で注視していたが、目はつぶっているものの、寝ているにしては不自然に手が動いている。これは確信犯だ!
再びアテンダントさんがやってきた。何度も声をかけて席を揺らしても無視したのに対し、意を決して「お客様。お眠りではないのは分かっています。ほかのお客様からは料金をいただいていますので、見過ごすわけにはいかないのです。」と落ち着いた、そして緊張感ある堂々とした言葉づかいで話しかけた。
ここまで言われると、起きないわけにはいかず、確信犯は目覚めた(正確には狸寝入りを止めて起きたフリをした)。
グリーン券を持っていないことを確認すると「車内料金1000円いただきます」と請求。「ありがとうございました」の表情は、最高の笑顔だったが、深読みすると別の見方もできそうな気がする。
この3日後に、宇都宮線で、また偶然このアテンダントさんに会った。ビールを頼んだ時に「3日前、いい仕事してましたね。狸寝入りを撃退するというグッドジョブを。近くで見ていて、拍手したくなりましたよ」と言って、小さく手をたたいたのだった。
こういう頑張っている人から、土産物を買いたくなる。以後このアテンダントさんからは、「マルコロ」や「焼きムースショコラ」を購入した。