愛のないものだけが欠点を認める。
したがって欠点をみとるには愛をなくさねばならない。
しかし、必要以上に愛をなくすべきでない
~ゲーテ~
「ルソー、シラー、マルクス。
勝手ながらそういった自然な自在さを感じさせてくれたホプキンスもコバレフには敵わなかった。
ただ大切なことは彼がその階級で間違いなく最強である相手と勝負した事であり、エイリアンはこれまでも各国の他の「選手」たちと違って指名挑戦者を迎えれば逆に文句言われる程に果敢なマッチメークをしてきた「ボクサー」なのである。
「 Win, Lose or Draw, I fight the Best 」
今回の試合はエイリアンにとっては最初から分が悪かった。
相手のトレーナーは過去に自分の側についていた人間。
対戦する相手は今までのキャリアでもおそらく一番無骨な部類に入る男。
トリニダードやオスカーの時とは逆で体格では下回る。
ターバーやライトの時のようにマインドゲームや独特のトリックは通用しない。
ミドル級防衛時代のような動きはもうできない。
ライトヘビーでは減量苦は無いにしてもやはりパワーは不足している。
コバレフはパブリックのように鈍足ではなく、
ドーソンのようにジャブが良くてポジショニング、リングジェネラルシップも執る。
パスカルよりも忙しく、同時に冷静沈着で虎視眈々。
ジョーンズのように冴えていて、カルザギのように執拗。
アマエリートでありながらも最初の18戦をプロモーター探しの為に無償で経た叩き上げのプロ。ホプキンスがやってきたなかでも最も「本物のボクサー」に近い存在。
技術もあるがファイトもある。頭もあるし中身もある。何よりパンチがズバ抜けている。確固たる決意がある。
ホプキンスがこの対戦で唯一優っていたもの。
それは、経験であった。
コバレフはホプキンスほどの相手と対戦していない。が、しかし、もしかしたらエイリアン自身にとってもコバレフは未知との遭遇となるかもしれなかったのである。
序盤にエイリアン側のセコンドが何を思ったかロープ際しか相手にはチャンスが無いと言う。
それを無視してホプキンスはロープを背負い続ける。
そうでなければ老獪さを活かせる接近戦に持ち込む術がなかったからである。
そしてコバレフはリング中央を陣取り、必要以上にエイリアンを追いかけない。
戦略に適ったりで、さらには前の腕を下ろして右を打たせそれを基点とする相手を誘うホプキンスの計略にも右を通して当てまくる。技術でも上手を取られた。
結果は初回のダウンも含めてのフルマーク。
ダウン寸前の場面や後半まったく打ち返せなかった事をダウン相当の判定とした人もいるだろう。
それでもホプキンスはコバレフのパンチを耐え抜いた。
ナチュラルなライトヘビー級が1,2発で屈するその殺人パンチに49歳の、ミドルの時代に延々と防衛を果たしタイトルを統一し階級をあげながら数々のビッグマッチを闘い抜いてきた、男の体が耐えたのである。
B-Hopは技術以上に大切なものを見せてくれた。
刑務所でボクシングを覚え、デビュー戦を落とし、リングの中では凄まじいパンチと荒々しいテクニックから静かで老獪な試合運びまでもを魅せ、リングの外ではマネージメントやプロモーションとの摩擦などを経た歯に衣着せぬ悪役の戦績は現在66戦55勝32KO7敗2分け。
今後の動向は未確認。」
おまけ