ロシア軍、5月の人的損害は過去最悪に | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ロシア軍、東部チャシウヤールで消耗の罠にはまる 5月の人的損害は過去最悪に

 

 

 ウクライナ東部ドンバス地方のロシア軍は今年2月、多大な損害を出した5カ月にわたる攻撃の末にアウジーウカを陥落させると、すぐに東部で新たな都市に狙いを定めた。かつて鉱工業で栄え、ロシアが2022年2月に戦争を拡大する前には1万2000人ほどが暮らしていたチャシウヤール市である。
 チャシウヤールは、ロシアがすでに占領しているバフムートの西方の接触線にさらされているうえ、防御の役に立つ地形が市を南北に流れる運河くらいしかない(しかも渡河しやすい地点が2カ所ある)ので、攻撃を受けやすい。そして、市の中心部から運河を隔てて反対側にある最東端の通称「運河地区」は、とりわけ攻撃を受けやすい。
 ウクライナに侵攻している50万人規模のロシア軍にとって、チャシウヤールを落とすのはそれほど難しくないはずだった。ところが、ロシア軍はここでもまた消耗の罠にはまっている。この正面のロシア軍部隊は少しずつ、物差しで測れる程度の前進を遂げてきたものの、その過程で人員を何千人も失っている。ウクライナ側の人的損耗ははるかに少ない。
 ロシア軍がどのようにチャシウヤールを攻略しようとしているのかは明白だ。第200独立親衛自動車化狙撃旅団第299空挺連隊第11独立親衛空挺旅団などの部隊が、集中的な近接航空支援を受けながら運河地区を攻撃し、制圧する。その後、ここを足場として市中心部を直接攻撃する。運河地区に対する攻撃と並行して、チャシウヤールへの補給線に圧力をかけるため、市のすぐ北にあるカリニウカ村を攻撃する。
 ロシア軍はこうした作戦で数カ月にわたり攻撃を続けてきたが、あまりうまくいっていない。最近、サーモバリック弾を発射できるTOS-1/TOS-2多連装ロケット砲も使い始めたが、現地の火力バランスを決定的に変えるには至っていない。4日現在、ウクライナ軍の第41独立機械化旅団第241独立領土防衛旅団独立大統領旅団(編集注:大統領の護衛を主任務とする陸軍隷下の機械化歩兵部隊)がチャシウヤール、運河地区、カリニウカを引き続き保持している。
 ロシア軍はここ数日、カリニウカでウクライナ軍を一時押し込んだが、ウクライナ側は第200旅団から激しい砲撃を浴びながらも反撃し、押し戻した。
 ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は、かねて運河地区について悲観していた。3日の作戦状況評価でも、運河地区について「(ロシア軍の)前方部隊が側面の陣地を確保したので、近く占領されることになるだろう」と言及している。
 だが、「側面の陣地」のひとつはカリニウカにあり、それはウクライナ軍の反撃で排除された。おそらくCDSがこの評価レポートを作成したあとの出来事だったので、評価には反映されていないのだろう。

 ロシア軍の誤算のひとつは、対独戦勝記念日の5月9日、ウクライナ北東部で新たに始めた攻勢が目論見どおりの結果にならなかったことだ。ロシア軍はウクライナ第2の都市ハルキウ市の北の国境地帯に進撃することで、ウクライナ軍の一部部隊を東部戦線から引き離し、チャシウヤールなどいくつかの正面の防御を手薄にすることを狙っていたとみられる。
 だが、米国の新たな軍需品による補給がぎりぎり間に合ったウクライナ軍は、北東部に増援部隊を送って防御をてこ入れしつつ、東部でも防御をそれほど手薄にせずにロシア軍の攻勢を食い止めることに成功した。一方、装甲車両の不足がますます深刻化し、基礎訓練システムが徐々に崩壊しているロシア軍は、ろくに訓練を受けていない歩兵が徒歩でウクライナ軍の陣地を攻撃せざるを得なくなっている。
 その結果、おびただしい数の死傷者を出している。英国防省は「ロシア軍の(人員の)損害は2024年も引き続き高い水準で推移しており、5月の人的損耗(編集注:同省によるとここでは死者と負傷者のみ)は1日平均1200人を超え、報告数としては戦争が始まってから最も多かった」と報告している。
 さらに「損耗率が上昇しているのは、ロシア軍が広範な前線で続けている消耗戦の反映とみてほぼ間違いないだろう。ロシア兵の大半は限られた訓練しか受けていないのがほぼ確実であり、複雑な攻撃作戦を遂行できない」と続けている。
 ロシア軍の狙いは、ウクライナ軍の戦力を引き伸ばし、薄く広げさせた隙に、チャシウヤールに進撃することだったのだろう。だが、実際には自分たちのほうが戦力を引き伸ばし、薄く広げるはめになった。
 ロシア軍は最終的には、訓練された人員を十分に集中させて運河地区やその側面に対する攻撃を成功させ、チャシウヤール中心部に対する攻撃に乗り出すかもしれない。
 だが、もしそうできても、ロシア軍がチャシウヤール全体を占領するには数カ月かかり、人員の損害はさらに数千人増えるだろう。その代償は果たして、戦争拡大前にウクライナで人口規模が266位だった小都市という戦果に見合うものだろうか。