砲弾不足のウクライナ、ロシアの大砲集積許す | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎砲弾不足のウクライナ、ロシアの大砲集積許す 集中砲撃で東部の町壊滅

 

 

 昨年12月下旬、ウクライナに対する米国の援助が底をつき、ウクライナの戦争努力向けにジョー・バイデン米大統領が議会に求めている610億ドル(約9兆円)の追加予算案の採決を米議会のロシア寄り共和党議員らが拒んだとき、この「背信」の影響を真っ 先に受けることになったのはウクライナ軍の砲兵部隊だった。
 ウクライナ軍が使う榴弾砲やロケットランチャー、そしてその弾薬の主要な供与国は米国だったからだ。
 昨年の夏には、ウクライナ軍の砲兵部隊は砲弾の発射数でロシア軍に対して優勢とは言わないまでも互角だった。だが、現在はロシア側が5倍の差で圧倒している。具体的に言えば、ロシア軍は砲弾を1日に約1万発発射しているのに対して、ウクライナ側は約2000発程度にとどまっている。
 その結果、ここへ来てロシア軍の砲兵部隊は調子づいているようだ。ウクライナ側から反撃される危険にわずらわされなくなったロシア軍の砲兵部隊は、前線の都市にあるウクライナ側の陣地に対して壊滅的な集中砲撃を加えるために、最大クラスの大砲や発射機を集積させるようになっている。
 ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは、ロシアがウクライナで拡大して23カ月目になる戦争の1000km近くにおよぶ前線の衛星画像を分析し、こうした動向をつかんでいる。
「1月だけで敵軍の砲兵火力・兵力の集中を14以上記録した」とフロンテリジェンス・インサイトは報告している。「私たちの分析では、この復活はロシア軍の間で恐怖心が低下していることを示唆する。恐怖心の低下はウクライナ側で再燃した弾薬不足に促された可能性がある」
 フロンテリジェンス・インサイトは一例として、ウクライナ東部ルハンスク州の接触線から約8km離れたリシチャンスク郊外で、大砲や車両のための掩体(えんたい)が20カ所近くあると指摘している。
 1年前なら、ロシア軍は前線にこれほど近く、これほど狭いエリアに、これほど多くの重火器を屋外に集積する危険はまず冒さなかっただろう。そうすれば、ウクライナ軍の射程約25km弱のM777榴弾(りゅうだん)砲や、同90km強の高機動ロケット砲システム(HIMARS)によって粉砕される恐れがあったからだ。
 だが、大砲やロケット砲の弾薬が減っているウクライナ軍は、防衛線の突破を図るロシア軍部隊やその車両を攻撃するという最も差し迫ったニーズのために、手持ちの砲弾やロケット弾を節約せざるを得なくなっている。
「残念ながら、こうした状況はロシア側に、よく知られたアプローチの実行を許す」とフロンテリジェンス・インサイトは説明する。「市街地を組織的に破壊し、防御不可能にする」というやり方だ。

 最近、それが行われたのがドネツク州の都市マリンカだ。マリンカでは2年近くにわたって、ウクライナ軍の守備隊が持ちこたえていた。しかし、ウクライナ側の弾薬が枯渇してくると、ロシア軍の砲兵部隊が集結し、壊滅的な砲撃を行えるようになった。
 昨年12月下旬、ロシア軍の大砲によって「街全体が組織的に破壊し尽くされ、構造物や住居の痕跡すらほとんど残らなかった」とフロンテリジェンス・インサイトは記している。
 隠れる場所がなくなったウクライナ軍の守備隊は西へ退却し、ロシア側にプロパガンダ上の大きな勝利をもたらした。「執拗な砲撃によってマリンカは完全に消滅し、侵略者はのちに『解放』を主張した」とフロンテリジェンス・インサイトは書いている。
 前線付近では、ウクライナ軍は大砲の不足を、爆発物を積んだ大量のFPV(1人称視点)ドローン(無人機)で補い、攻撃してくるロシア軍部隊に向かわせている。
 だが、重量1kg弱で500gほどの擲弾を投下する一般的な無線操縦FPVドローンは、航続距離がせいぜい3km強しかない。「私たちの観察では、多くの大砲は前線から15〜24km離れた場所に配備されており、大半の小型FPVが実際の運用で到達できる範囲の外にある」とフロンテリジェンス・インサイトは述べている。
 米国が昨年初めに供与を表明し、ウクライナに間もなく届く新型ロケット弾GLSDB(地上発射型小直径爆弾)は、ロシア軍の火力優位を揺さぶるかもしれない。GPS(全地球測位システム)で誘導される滑空爆弾であるGLSDBは射程が150kmある。
 とはいえ、ウクライナがどのくらいの数のGLSDBを取得できるのかや、それをどのように配備するのかは不明だ。フロンテリジェンス・インサイトは「GLSDBの導入は重要な転換点になる可能性がある」としながらも「とくにこの兵器が大規模な通常戦で試されたことがない点を踏まえると、断定的な結論を導くのは時期尚早だ」と付け加えている。
 ウクライナ側が砲弾発射数の均衡を取り戻し、さらなる都市の壊滅を防ぎ、ロシア軍の砲兵の増長を逆手に取る最も確実な方法は、最も自明な方法でもある。どうにかして、榴弾砲の砲弾やロケットランチャーのロケット弾をもっと多く入手することだ。
 ただ、米国を当てにしてはならない。バイデンは、米国で余剰になった兵器を議会の承認を得ずに他国に譲渡できる広範な権限をもつが、その権限の対象が弾薬にもおよぶのかは定かでない。