実は、1年前(2010年11月頃)に、
楓と同じく、
鈴鈑工業の本社工場内に
迷い込んだ猫がいました。
その猫に名前を付けました。
優広(ゆうひ)
この名は、従業員などには
知られていない名です。
おそらく何か不自然なものを感じるでしょう。
顔の大部分を腫瘍に侵されていました。
ザクロを割ったような痛々しい姿だったのですが、
意外と人に慣れていて、
触れたら激痛が走りそうなその顔を
すり寄せてきました。
でも、私が驚いた最大の理由は、
見た瞬間に
「楓っ!?」
と思ってしまったことです。
まなざし、毛色、骨格などが瓜二つに
見えました。
楓の親か、もしくは兄弟かっ!?
もちろん断定できる材料は何もありません。
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優広は、ためらいもせず、工場内を徘徊し
始め、鈴鈑の敷地から一向に出ていく様子が
ありません。
さすがに仕事でフォークリフトを運転するには
危険すぎるし、楓のように引き取って、
果たして育てていけるのか?
という、自信の無さから、
一人で迷いに迷った挙句、
近くの公園に放してくる決断をしました。
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仕事を終え、帰宅し、妻に優広の話を
したとき、妻に促された言葉で
我に返りました。
「見て見ぬ振りをしようとした」
自分が情けなく思えました。
その夜、妻と二人で優広を捜しに
公園を2時間ほどグルグル回り、
途中、警察に怪しまれたりも
しながら、懸命に見つけ出そうと
しました。
しかし、見つけることができませんでした。
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翌朝、いつも通りに出勤し、
昼を迎えようとしたとき、
近くの川沿いの道ばたで、
優広を見つけました。
優広の亡骸(なきがら)との対面でした・・・。
わずか昨夜のことだったのに・・・、
もしかすると、自分の最後の場所を探して
いたのかもしれないのに、
私が余計な手出しをしてしまったのでは、
と、悔いました。
偶然なのかもしれませんが、
私は、楓、そして優広と関わった縁を
大切にしたいと思います。