kanotomiuozarainenkokidesuのブログ 人呼んで筍医者 田杉白玄
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

大家は糞儲け

噺家が落語でよく、「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」等と高座でよく喋っておりますが、そんな大家はほんの一握り、江戸の大家はほとんどが、雇われ大家だったので御座います。金持ち喧嘩せずと申しますが、喧嘩だけではありません。面倒くさい事は人任せにするのが、江戸の金持ちの習慣。大家は家賃の取り立て、揉めごとの仲裁等々煩わしい事、おびただしい。それで金持ちは大家の権利を収得すると、実直そうで、頑固爺さん、婆さん夫婦に大家を委託するのです。そうは言っても、金持ちは本来、しみったれですから、雇われ大家への報酬はたかが知れております。たかが知れた報酬ですが、長屋の大家には、結構な余録がありました。それは糞尿です。江戸時代百姓は糞尿を肥料として下りましたので、長屋にも糞尿買いの百姓が定期的に買い付けに来たのでございます。それが雇われ大家の懐に入るのでございます。左官の熊さんは大酒飲みで、喧嘩早く、長屋を追い出される事もしばしばで、住む長屋が決まりません、居候も居づらくなって、困っていると、医者の腕はいまいちでも、困りごとでは頼りになるのが、田杉白玄先生と喧嘩仲間の大工の八五郎に言われ、ナケナシノ金で酒を工面して、のこのこと田杉白玄先生の許にやってきました。田杉白玄先生、熊さんの体をしげしげと眺め、「大酒飲みは知っているが飯はどうなんだい」「飯?」「おまんまのことだよ」「おまんまは三度の飯より好きだ」「三度の飯よりおまんまが好きとは面白れえ」「飯に酒ぶっかけて、お櫃いっぱい喰いやす。酒粥はいけますよ」「そうかい、もう一つ聞くが、熊さんはお通じはどうだい」「お通じ、何ですそれ」「お通じはウンコの事だよ」「お通じなんて言うから分らないで。自慢じゃねえが、糞ならたんと出るよ。糞だしした後、一貫目は軽くなってる、でもまた、おまんま食うからすぐデブになっちまう」と大笑い。「便秘はするかい」「嫌、糞はおあしと一緒で、すぐ出て行く。おあしは宵越し、ウンコは朝におさらばよ」「そうかいそれなら、紹介できる長屋はあるよ、チョイとお待ち」と言うと田杉白玄先生、手紙をしたため、熊さんにに手渡した。熊さん、田杉白玄先生が書いた手紙を五月蠅そうな大家に見せると、大家は手紙を読んだ後、「見かけ倒しじゃねえだろうな」と呟きながら、熊さんの体を舐めるように見た後「田杉白玄先生のお墨付きじゃ、断るわけには、いかねえや。たんとおまんま喰って、たんとだしておくれ、厠はあそこだ」と大家は住まいより先に厠の場所を熊さんに教えた。義理堅い熊さん、早速、田杉白玄先生に報告に行って、「先生、なんで大家はすぐ、あっし受け入れたんですかね」「大家は糞儲けが出来ると喜んだんだよ」「糞儲け?」「そうだよ、大家はな、糞尿を百姓に売っておあしを儲けるんだよ」「本当ですか」「本当よ。熊さんがたんと、たんとウンコを毎朝すると太鼓判を出したから、大酒飲みの喧嘩好きでも、店子になって欲しいのよ」

江戸っ子は天皇知らず

 江戸時代、天皇は京都に居られましたので、天皇の存在すら知らない不届きな江戸っ子も多かったそうです。ですから元号が変わっても、何で代わっちまったかなんか、分っちゃしません。そんな代表的な江戸っ子、大工の寅さん。今日は生憎というか、幸いというか、雨で仕事は休み。暇を持て余しておりますから、まっ昼間から酒など飲もうと思ったが、おあしがない。そこで困ったときの田杉白玄と、のこのこ白玄先生の宅にやって参りました。「先生、ごちになります」「ごちになる。寅さんにご馳走するおあしは持っちゃいないよ」「そんな、しみったれた事を言うんじゃねえよ。江戸っ子でしょう先生は、パーツといきましょう」「勝手なこと言いやがる」「でもね、今日はお祝いでしょう」「何のお祝いだい」「先生知らねえんですか。何でも元号なんてえのが、代わっちまって目出度いと、大家が騒いでました。目出度いなら、酒飲ませろと大家に言ったら、しみったれた大家は、あっしの頭を指さして、おめえの頭はいつもお目出度いと抜かしやがった」「それで寅さん、何て言い返した」「そう言われりゃ、そうだ」「言われっぱなしか、情けねえな」「情けねえけど、その通りだから、しょうがねえ。それでね。しみったれた大家と付き合っちゃいられなねえから、元号替わりを肴に一杯飲ろうと、やって来たわけで、御座んす」何が御座んすだ、つまみは沢庵ぐらいしか無いけど」「沢庵、上等。沢庵さえあれば、瞬く間に一升飲んで見せやしょう」「そんなに飲まれちゃ、たまらねえ」「先生もしみったれだな、けちけちするねえ」「勝手なこと言いやがる」と苦笑しながらも田杉白玄先生、いそいそと酒の準備をして、まっ昼間から二人は飲み出した。「寅さん、元号が代った祝いと言ってるが、その意味、知ってるのかい」「知っちゃいません。大家が騒いでるだけで、長屋の誰、一人知っちゃいません。先生だって知つちゃいないでしょう」「知ってるよ。天皇が代替わりしたんだ」「天皇って何です」「この国で一番偉い人よ」「徳川の将軍お殿様より偉い、将軍より、えれえ人がいるんですか、嘘でしょう」「嘘じゃネエよ」「江戸の何処にいるんです」「江戸じゃねえ、京都におられるんだ」「京都ねえ、聞いた事あるけど、暇な奴がのこのこ出掛けて行くとこでしょう」「寅さん、おめえも暇じゃねえのか」「雨が降っちまうと暇ですがね、お天道様が出てりゃ、貧乏暇無しで、トンカチ叩いて働いてやす、新しい天皇の天チャンは働いてるんですかね」「働くのはおめえのような下々だ」「そうですかい、天皇は働かなくても良いのか、先生みたいで羨ましい限りだ、ところで先生、新しい天皇が出来たって事は、前の天皇はどうしたですかい」「天皇を辞められたのだから、隠居したんだろうね」「元の伊勢屋の旦那もたいですね。何でも旦那は根岸の里の侘び住まいらしいですよ。何しろ狸がお出ましになるそうですから」お江戸では天皇も形無しの様で御座います。

 

 

 

 

 

蓼食う虫はいい男、食われる蓼は醜女で深情け

いつの世も色恋沙汰は御座います。当たり前の男と当たり前の女の色恋は当人以外は面白くもへったくれも御座いません。田杉白玄先生のお好みは面白い色恋沙汰なのです。弥吉は芝居役者にしたいような良い男。いつも女が群れていて、入れ喰い状態。そんな色男の弥吉が田杉白玄先生を訪ねて来た。「よう、色男、女殺し、ゆんべは何人殺した」「物騒な事、言わないでくだせえ、岡っ引きの耳に入っちまったら、しょっぴかれ、ちまいますよ」「よそから聞いたんだけど、弥吉さんが女に跨がって、何を突き立てるんで、女が死ぬ、死ぬと騒ぐのが外まで響き、岡っ引きが乗り込んで来たら、女が白目を剥いて、助けてって岡っ引きに言ったので、弥吉さんは褌無しでお白砂に引っ立てられた。その時、奉行が逸物で女を殺すとは天晴れ見事。逸物大明神と命じると言ったそうじゃないか」「女に振られっぱなしの、松が言いふらした冗談ですよ。冗談だと分っていても、面白えから、広まっちまったんです」「モテル悩みか、面白くねえ話だな、今日の自慢は何だい」「自慢話など、ありませんよ。良い女は飽きちまった」「それが自慢話に聞こえるんだ」「そうですかい、あっしは良い女より不細工な女の方が好みなんですよ」「蓼食う虫も好き好きと言うから、弥吉さんみたいな男もいても可笑しくねえ」「そこで先生は顔が広いようなので、これと言った蓼を紹介して欲しいので、ここに来たて訳です」「居ることは居る、極上な蓼がいる」「極上な蓼がいるんですか、仲を取り持って下さえ」「でもなあ、極上の蓼は面倒だから、勧められない」「どう面倒なんです」「紹介しようと思ったお惠は醜女だ」「蓼は醜女と相場が決まってるでしょう」「まあ、そうだが、そんじょそこらにいる醜女とは大違いの横綱、醜女なんだ」「それは願ったら叶ったり、極上物ですね。会うのが楽しみだ」「それともう一つ、深情け」「深情け?」「醜女の深情けって言葉があるだろう。深情けも極上物だと思うよ。生まれてこの方、男つ気無し。初めての男が錦絵に出てくるような良い男となると、深情けも尋常じゃなくなる。悋気の塊になる。雌猫が弥吉さんのそばに来るだけで、悋気を起こすんだ。逃げようとしてもかじりついて、離しはしない。地獄の果てまで囓りつく、よした方がいいよ」「面白そうだ。田杉白玄先生、醜女で深情けのお惠に会わせて下せえ」よした方がいいよと言いながら、田杉白玄先生、二人のこれからを見てみたいので、色男弥吉に醜女のお惠を会わせた。先生の懸念は見事に当たり、弥吉はすぐさま、深情け地獄に落ちてしまったらしい。松っあんが田杉白玄先生を訪ねて来て「先生でしょう、弥吉に醜女のお惠を紹介したのは、弥吉がはばかり「便所」に入っると戸の前で見張りをしている。自分が入る時は戸は開けたままで、弥吉の褌を握って離さない。だから、弥吉のそばには女がいなくなりました。先生のお陰です有り難うございます」「何で松っあんが礼を言うんだ」「先生のお陰で女が一人、あっしのとこに、やって来たんですよ」「棚からぼた餅、蓼食う虫も好き好きって事だな」

 

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>