kanotomiuozarainenkokidesuのブログ 人呼んで筍医者 田杉白玄 -5ページ目

貧乏人の子沢山

「酒、買いに行くから、おあしよこせ」「世間様はおあしを持っていかなくても、酒屋が酒を届けてくれるの」「そうかい、それじゃ、ちょいと待つとするか」

女房に言われて八五郎、酒屋を待っていたが半時を過ぎても酒屋は来ない。

「酒屋来ねえな」「来るわけないでしょう」「だって、おめえ、酒屋が酒を届けるといったじゃねえか」「それは世間様、信用がある家の事、家は貧乏人、おあしを持って行かないと売ってくれないの」「じゃあ、おあしを持って買いに行く」「おあし持ってってごらん、ツケが残ってるから、おあしだけ取られて、酒はよこさないよ」「じゃあ、どうすれば良いんだい」「頭を使って酒を飲むの、田杉白玄ていう、飲兵衛医者の所に行って、ヨイショと持ち上げて飲ませて貰いなって嬶が言うから、先生をチョイと持ち上げますよ」と言うと、八五郎、田杉白玄を抱きかかえた。「ヨイショてのは、お世辞の事だよ」「そうですかい、先生、酒太りでご立派だ、ああ、重くて、草臥れた酒を飲ませろ」「分ったから降ろせ」男二人の色気なしの飲み会が始まった。それでもお喋り八五郎は舌も滑らか。「先生、藪入りで、熊の所の息子がけえってきたんですが、それが大笑い」「藪入りなら帰ってくるだろう」「それがですね。奉公に出して、ぎゅうぎゅう詰めから、一人減って、少しは楽になると思ってたら、熊の嬶がまた、産気づいて、双子を産んじまったんですよ。そんだもんで、奉公に出て、藪入りで戻って来た坊主が、自分の寝るところないと、泣き出してね」「貧乏人の子沢山てとこだな」「何です、貧乏人の子沢山て」「金持ちは、芝居見物とか物見遊山とか、色々、楽しめ事があるが、貧乏人はおあしが、ないから、あれをするしかない。あれをするから、子供は増える。貧乏人の子沢山になるんだ」「そう言う事ですね。家はまだ子供が三人だから、家で寝ろって、熊の坊主を家に来させたんですがね。夜になったら、嬶がもぞもぞ、しだした。すると坊主が、おじちゃん、おばちゃん、あたいに遠慮しないでやっても言いよ、あたい狸寝入りするからって、言いやがった」

 

何だ、泥鰌じゃないか

 暑い夏は男に産まれて良かったと、喜八は褌一丁で田杉白玄の許を訪ねてきた。「先生、この暑いのに、よく着てますね。脱いだらどうです、裸になったら」

「ここは風呂場じゃないから」「あっしは失礼して、裸のまんま、冷や酒をゴチになりやす」「誰もご馳走するとは言ってねえ」「あっしは文無し、喜八と申します、

人助けと思って冷や酒、恵んでやって下せえ、その代わりと言っちゃ、何ですが、先生の能書きを聞いてあげますよ」「聞かせるような、能書きなどねえよ」

「まあ、そう言わずに、今日は土用の丑の日だそうで、なんでこの日は鰻を食うんですか」「夏場、鰻が売れないんで、困った鰻屋のおっちゃんが、平賀源内と言う人に、どうしたら鰻が売れるかと相談したら、平賀源内が今日は土用の丑の日と紙に書いて、入り口に貼ったら、土用の丑の日には鰻を食べなきゃ、いけないと勘違いした江戸っ子が鰻屋に押しかけて、それから毎年、土用の丑の日には鰻を食べるのが、決まりみたいになっちまったんだ」「そうですかい、流石、先生、物知りだ、能書きを言わせれば町内一だね。一杯、早く飲ませろや」

催促されて先生、一升徳利を奥から運んできて、二人で飲み出したが「先生、この一升徳利、やけに軽いですね」「実は五合くらいしか、入ってねえんだが、暑いんで酒屋に行くのも億劫。寝酒ならこれだけあれば、足りると思ったんで、買ってないんだ」「先生の寝酒を飲んじまったら気の毒だ、どこかで酒をゴチしてくれる人はいませんかね」「ちょいと、その先の長屋にお糸さんという、色っぽい年増の後家さんがいるんだが、それが生きの良い鰻が殊の外、好きなんだ、喜八さんの褌の中の鰻を見せれば、喜んで酒の一升や二升、飲ませてくれるよ」

「あっしの鰻の出番ですか」と喜八さん、勇んでお糸さんの許にはせ参じた。

喜八さんの褌の中の鰻を一目見た、お糸さん「何だ、泥鰌じゃないか」と大笑いしながら、「あら、えっさっさ」と、喜八をお腹に乗せて踊り出した。それでも泥鰌掬いの後は、たっぷり酒を飲ませてくれたという。

 

 

後家殺し

結婚願望がない独身男が多い、平成の世と違い、江戸の世は男に比べて、女の数が極端に少ないので、所帯を持てない男が多かった。そうなると選り好みなど出来ない。初婚の女でなくちゃ、なんて言っちゃいられない。

「先生、お久し振りです」「おう、竹さんじゃねえか、誰か酒の相手はいねえかと思っていたんだ、付き合っちゃくれねえか」「あっしで良かったら喜んで付き合っちゃいますよ」通りかかった豆腐屋から豆腐を買って、湯飲み茶わん二つに、面倒だからと、冷や酒。冷や酒といっても冷やしていないので、生温い。でも腹に入れば酔ってくる。酔いがまわれば、舌のまわりも良くなる」「竹さん、まだ所帯が持てねえのかい」「それが先生、面目ないが、遅らばせながら、所帯を持ちましたんで、ご報告がてら、ご挨拶に参じたわけです」「それは目出度い。竹さんも、いい歳だから、子作りに励まないとな」「それが先生、子供もいるんです」

「出来ちゃった婚というやつか」「違いますよ、相手は子持ちの後家さんなんですよ、娘と息子が一人づつ」「子供はなついて、いるかい」「おっ母が苦労しているのをみているからか、上の娘が気い使って、おとっちゃん、おとっちゃんと呼んでくれます」「それは何よりだ、周りの皆も喜んでくれてるんだろう」「それが先生、寅の奴が後家殺しの俺を差し置いてと、やけ酒飲んで騒いでるんです」

「じゃあ、ちょいとお灸を据えてやるとするか」「どうするんです」「向う横丁に住んでいる音代さん知っているかい」「髪結いの音代さんですか」「そう、その音代さんだ、髪結いの亭主に先立たれてから、男をとっかえひっかえ、こせえているが長続きしねえ。この頃は男ひでりしているらしいから、寅が後家殺しだと教えれば喜ぶ事、間違えない」「向う横丁の音代さんですね。面白くなりそうですね」と竹さん頬が緩んだ。早速、竹さんは向う横丁の音代さんを訪ねて、後家殺しの寅を吹聴しまくったのは言うまでもない。男ひでりの音代さん「あたしは後家、さあ殺せ」と寅さんに纏わりついた。寅さんには迷惑でも、めでたしめでたし