kanotomiuozarainenkokidesuのブログ 人呼んで筍医者 田杉白玄 -113ページ目
<< 前のページへ最新 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113

人呼んで筍医者 田杉白玄

  伊勢屋 稲荷に犬の糞

江戸に四百四病あり、患い人が多ければ飯の種がつきないだろうと、俄か医者に、名医 杉田玄白を名乗るには、烏滸[おこ]がましいので、鯱立ち[しゃっちょこだち]して田杉白玄とした。白玄は病人の前ではいつも首をかしげる事にしている。そうすれば病状が急変しても辻褄があう医者の常套手段だが、白玄はいつも首をかしげている。 [何、首かしげてんだよ、ゆんべ、食べつけねえ、鯛(てえ)の刺身を食っちまったんで腹下したんだ、早く薬よこせ]  [せっつくな、今、見立ててやるから] [しち面倒くせえ奴だな、なにご託並べてんだ、お前、藪か?] [藪 蕎麦屋じゃない医者だ]  [何が医者だよ、お前なんぞ、藪にもならない筍医者だ、銭(おあし)やるから、とっとと出て行け] 毎度、こんな按配で白玄は巷では、筍医者と呼ばれ、閑古鳥が鳴き続けた。

暮六つを過ぎ、七つ(午後八時)を過ぎると夏といっても、さすがに、あたりは暗くなり、人通りも途絶えた。

足を引きずって[痛え、痛え]と呻きながら、よろける男をもう一人の男が肩で支えながら、あたりを憚り小声で、[兄貴、もうちっとの辛抱、堪えてくださえ] [痛えもの仕方ねえだろう] [兄貴、着きました御免下さえ、御免下さえ] [何だ、こんな時刻に] [急病なんで、お願えします。] [病人か、わしは筍医者だぞ、それでも、いいのか] [へー、兄貴は筍が好物で] [季節外れの筍は高けーぞ] [そこを何とか] [まーいい上がれ、どうした?] [犬噛まれまして] [わしは本道(内科)外科じゃねえ、ははー解かった、外科に行ったら、目明しlていう犬が嗅ぎまわっているから、行けねてわけだ、図星だろ、何処、入った  うん、うん、伊勢屋 何処の伊勢屋だ、心配すんな喋らなえよ]   [だから伊勢屋で] []お前さんな、江戸には伊勢屋 稲荷に犬の糞といって、そこらじゅうに伊勢屋があるんだ、盗んだのはそれっぽっちか、それじゃ伊勢屋はおおそれながらと訴えね、詮議なってごらんよ主人一人で行くわけにもいかない五人も六人も引き連れていく、詮議が一回じゅすまない謝礼やなんかで大変な出費だから穏便にしたいはず、この手紙を伊勢屋に届けて鼻薬代を貰って来い。その間に兄貴は治してやる。] 弟分を使いだしたあと、やおら、得体の知れない臭い汁を傷口に塗りだした。[なんですかこの臭い汁] ミミズの腐った汁これがよく効く、安心しろ。半時ほどして、痛みが和らいだ頃、伊勢屋の番頭があたふたと、やってきて[先生、些少ですがお薬代で]  小判を数えて、白玄[まあー足らないが伊勢屋さんじゃ仕方ねえな、お前たち盗みに入るなら伊勢屋さん、たんと盗んじゃ悪いから、手拭の一本も盗んで、これから、お裁きに行ってめえりますと、番頭さんに言ってごらん手拭が小判になるぞ]番頭、涙声で[先生、勘弁して下さい。]

<< 前のページへ最新 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113