カイト兄ィが寒空の星達を見上げながら、満月を指差す。


「明日は、サンドラ下だ。」


いつも部原の波をチェックする断崖絶壁の上に、廃墟のドライブインがある。


Bigwaveが押し寄せた時、超ド級の波と化す、通称"サンドラ下"ポイント。


背後に断崖絶壁、吸い込まれそうなテトラ、外海に流され救助された人々、絶壁の途中の祠、、

まさに逸話を紡ぐ場所だ。


その日は、穏やかな凪。波が無いから、今日この場所を選んだと兄ィは言う。


サーフボードを持たず、水中メガネをし、海に飛び込む。

透き通った水の下の海底。


「カナル、よく海の底を見ておけ。

今は干潮、しかも満月ということは一番大きく海面が引いている時だ。」


僕は隅々まで海底の様子を頭に入れた。


「Bigwaveが来た時、この海の底を思い出せ。

潮の満ち引きが生死を分ける。。」


(その後、この時の経験が生きることになるとは、知る由もなかった。)


サーフトリップのススメ


その夜、兄ィは満月の夜空を見渡せる高台に連れて行ってくれた。


水面に光る月の光、、元をたどれば太陽の光。


地球の反対側まで、光が届いてるなんて。


「心が暗い闇に包まれていた十代。

太陽の光はまぶしすぎた。でもこの満月の光はとても安らいだ。


必ず訪れる夜を誰も癒せない、そんな思いを打ち消してくれたんだ。」



兄ィ、僕の暗い闇も、満月に明かされていく気がするよ。


そして、地球のどこかで父が僕を照らそうとしているのかもしれない、、


ほのかな光を信じる自分がいた。




























サーフィンというスポーツには、たったひとつのルールがある。


【前乗りをしない。】


波をとらえて、真っすぐに滑り降りることが板についてきた僕に、

カイト兄ぃは、そのルールを教えてくれた。


「サーフィンをしている時、大会で無い限り、点数なんてないだろ。

ここがスタートでここがゴールです、なんてこともないだろ。


各々が無秩序に楽しんでいるように見えるよな、海の中で。


でもな実際は皆、無言でルールを守っている。


波が一番初めに崩れ始める‘ピーク’から、誰かが波に乗ったら

その波には乗ってはいけないんだ。


乗る行為を前乗りと言って、例えプロでも侵せない。


よく周りを見て波をつかめ。もし、乗ってしまったら、心から謝るんだ。」


サーフトリップのススメ


部原海岸は、ピークの位置がわかりやすく、僕は海のルールに淡々と従った。


その日、ルールを気にするあまり一本も乗れなかった僕の肩に手を置き、

兄ぃは呟いた。


「それでいいんだ。

ルールは何かを縛りつける。縛られて始めて、連帯感、一体感が生まれる。」


正直、僕は心地良かった。

サーファーの一員になれたような気がしたんだ。


「おまえは、その中で枠を超えろ。常識にとらわれて、あたかもルールのように存在する枠は超えろ。」


そうだ、あらゆる枠を超えて、僕は歩むんだ。

四角四面の穴に、丸い杭を打ち込もうとした先人達のように。。





















西高東低の冬型の低気圧が発達し、、、


NEWSの天気予報で何気なく聞いていたフレーズ。

今の僕にとってはわくわくさせる言葉。


関東、東北、北海道を巻き込み、猛烈に発達した低気圧は、等高線のトグロを巻いている。

雪国に大雪、関東に木枯らしを吹きつける。


海は、、というと北からの台風並みのウネリが届くから、まんざらでもない。

同じ頃、同じ低気圧がもたらしたウネリは、ハワイのノースショアまで届き、Big waveとなる。


その日、僕はカイト兄ぃと前日に通り過ぎた低気圧のウネリを拾いに、

白渚海岸へと向かった。



砂浜に雪



水墨画のように静かな世界に、僕はいる。



サーフトリップのススメ

「当たり前の景色が本当だとは限らない。

この砂浜も意外と雪に合うだろ。」


砂浜にいつもよりくっきりと足跡をつけながら、カイト兄ぃがつぶやく。

僕は自然が織りなす柔軟性が、心から愛しかった。