タヒチ空港に降り立った僕達を迎えたのは、空港の大きな看板。

タヒチのプロサーファーがTeahupooの波にのる姿だ。



この小さな島では、プロサーファーは英雄として崇められ、

サイン会でも長蛇の列ができる。



首都パペーテは、原産の黒真珠を売るお店が点在する港町。

フランス領ということで、パンをベースにした御飯は、本当に美味しい。

しかし物価は極端に高い印象を受ける。500mlのお水が300円!?



赤く洒落たバスに乗り、一路Teahupooを目指す。

島の中心部は山なので、海沿いの道をバスはゆっくりと南下していく。



贅を尽くしたリゾートホテルとは裏腹に、のどかでつつましい村が続く、不思議な光景だ。



「カナル、以前お世話になったリッチー家に一泊するぞ。」



Teahupooの手前、5kmの場所にあるリッチー家は黒真珠の養殖で生活を支える大家族。

どうやらタヒチでは、国外に出る旅人に贈り物を持たせ、帰国してきた時に倍返しのお土産を持ちかえるのが

暗黙の掟との事。



その夜の晩さん会は、夜が更けるまで続いた。。



「カナル、起きろ。今日はここがサーフポイントだ。」


マサト兄ィに起こされ、目をこすりながらもぼんやり見える波頭。


サーフトリップのススメ


リッチー家の裏庭から海に入り、パドルを始める。


沖合50mまで、ヘドロと濁った水で、僕はタヒチのイメージとのギャップに困惑気味だ。



しかし沖合200mまで来ると、そこはどこまでも青く神秘的な海色だった。

色鮮やかなサンゴが下を通り過ぎ、深い部分には吸い込まれそうなくらい甘美な世界が広がっている。


ようやくポイントに辿りついた僕らが目にしたのは、リーフとリーフのパスで割れる誰もいない波。


Take offする瞬間、サンゴが万華鏡のように展開する。



8mはあるクジラが手の届く場所をクルーズしても違和感が無い。



そう、秘密の楽園。


サーフトリップのススメ


焼きついた肌をさすりつつ、兄ィは僕の困惑を見抜いていた。


「リゾートホテルから見える海だけが、海ではない。生活排水が流れてヘドロがたまった海もある。

現地の人々が接している海も本物の姿だ。


観光客が来る前から現地の人はそこに住み、海と共存している。


東京湾が濁っていることを、観光客に言われても複雑だろ。」



タヒチの海が元ある姿に戻った時、人間はようやく対等に海と会話ができるかもしれない。























梅雨まっただ中の6月9日、僕は生れて初めての海外旅行に旅立った。

正確には、幼い頃家族4人で旅行した事があるらしいのだが、覚えていない。


いよいよサーフィンと海の世界に心酔していた僕に、

兄ィが持ちかける。


「カナル、南洋の楽園タヒチにTeahupooと呼ばれるポイントがある。

今度、マサトと行くんだが、おまえも道の果てに行ってみるか?」


早速、Teahupooを調べてみる。


フランス領、タヒチ。サンゴ礁と青い海に囲まれた島々。

Teahupooとは、タヒチ語で「道の果て」を意味し、文字通り2つの島の海沿いの道が終点を迎える場所だ。

道の先には船でアクセスするしかない。

サーフトリップのススメ


近年、もの凄い波があるという事で、あるサーファーが乗り始めたのがきっかけで有名になった波。

その波は正しく「道の果て」にふさわしい雄々しさを持っている。

ケガ人が絶えず、死者をも出す危険な波。

しかしそこには、官能的なチューブが口を開けて待っているという。


何故、人はその波に向かうのだろう。そして兄ィは。

僕はこの目で見てみたいという衝動に駆られるようになった。


サーフトリップのススメ


。。。母さん、僕、Tahitiに行ってみたいんだ。


「知っているわよ。カイトが土下座しながら頼み込みに来たから。

いつか行くと思っていたわ。」


「お金は私が工面するから、見てきなさい、道の果て。」


僕は思わず母に抱きついた。幼い頃以来だろう。

ありがとう、いつも僕の味方でいてくれて。本当にありがとう。



荷造りをする僕を見て、母は涙ぐんでいた。

僕はその涙の理由を知っている。数少ない父の写真の中にTeahupooの波があるからだ。。





















僕は今年で16才。


身体は逞しく大きくなる一方だが、心は中学性の頃から変わらない気がする。

男としてはもう恋愛をして良い頃だが、どこかウブで無頓着、それでいて恋に理想を持っていたりする。


僕が恋を煩ったのは新学期が始まって間もない頃、、

冬の寒さが生理的に受け付けなかった僕が初めて、人を想う熱で温まった季節。。



その人は白浜の浜辺にいた。



冬でも目深にかぶった麦わら帽子からのぞく瞳は、海より大きい。

この気持ちを言葉にするには、もったいなくて、声がかけれない。

今ここに居なかったら逢えなかったわけで、なのに生まれてこなくても出逢えた気がする。


僕の心が海より広かったら、泳いでみるかい?


いつも視界から通り過ぎるのに、心の中には永遠のように現れる君。



兄ィ、この気持ちがわかる?



兄ィは察しているのか、海を眺めて僕を諭した。


「人が人を好きになるのは、当然の事だ。幾度となく繰り返される。

でも、愛しい、この人の為に生きたい。自分の人生を捨てて。


そこまで想えたら、もう幸せを手に入れたようなもの。


だって自分より大切なものは、おまえの心の範疇を超えているからだ。」



「その愛は2人分の世界の輝きを持っている。」



サーフトリップのススメ

.......一歩二歩 除々に歩みが速まる。


『あの.....』 意を決して話しかけてみた。




その輝きを知る為に。