"Food for Thought"

"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

【天才を殺す凡人】 北野 唯我 著

 

 久しぶりに眼が覚めました。『夢をかなえるゾウ』(水野敬也)のガネーシャがハチ公になった設定とも言えますが、読みやすく、とても的を得ています。

 

 集団における分布として、「天才(創造性)、秀才(再現性≒論理性)、凡人(共感性)」の3タイプに分けています。①集団で少数の天才は数の多い凡人に理解されずに埋没する(殺される)、②これにより集団の創造性が発揮されなくなる、③創造性は数値化されにくいため論理的に再現・説明ができる秀才が組織で幅をきかせて更に創造性が失われていく(これがいまの日本の姿)、などとありますが、どの組織にも起こりうる事象と思いました。この分類でいくと、自分は凡人の部類なのですが、凡人は凡人としての役割があって(『共感の神』)元気になれました。

 

 山口周氏が今回の総選挙を分析したnoteで本書を引用していたのですが、そういえば山口氏も著者も同じボス・コン出身者。さすが、これまでにない切り口で斬新でした。3分類というのは著者の書くように簡便化したものですが、自分の体験に照らし合わせてもよくわかる内容です。久々に「眼から鱗」がボロボロに落ちた一冊です。

 

【ライフシフトの未来戦略】 アンドリュー・スコット 著

 

 誕生日を迎えると、「また1年、年を取ってしまった…」と思ってしまいます。しかし、このところ周りには、90歳でバリバリ現役の方や、100歳を超えても毎日自炊し眼鏡なしで新聞を読むという方も現れました(そういえば、キャノンの御手洗さんも90歳で会長兼CEOとか)。人生100年時代が本当に身近に感じられる今日この頃、何か参考になればと、読んでみました。

 

 日経新聞の「2025年経済図書ベスト9位」でしたが、前半はお決まりの年齢推移や健康についてのお話。なぜに本書が選ばれたのかと思いつつ読むと、後半からは高齢化社会が与える経済的側面が分析されて確かに面白かったです。①高齢化社会により実質金利が低下し、資産相場が上昇するので「持つ者」「持たざる者」の格差が拡大する、②高齢者の労働市場参加で若者の失業が増加するというのは「労働塊の誤謬」と呼ばれるが実際には若者の就職も増える、③公的年金制度の充実により少子化が引き起こされる、など、日本の出来事かと思いきや、実は著者と関係ある英米でも起こっている事象と書かれています。

 

 こうしたマクロ経済のみならず、年齢に関する箴言も多く含まれています。年齢を重ねることは、「肉体的連続性」は低下する一方、「心理的連続性」は維持・向上できるというのは一つの救いでした。

 

【昭和の女帝】 千本木 啓文 著

 

 知人に「さくっと読めるよ」と薦められたのですが、戦前から田中角栄が亡くなるまでのまさに帯にある「自民党の裏面史」。

 

 ホステスから政治家秘書となり、女性フィクサーとなって影で政治を操った実在の辻トシ子(小説では真木レイ子)の小説。辻トシ子もその活動なども全く知りませんでした。田中角栄(加山鋭達)、佐藤昭(小林亜紀)、児玉誉士夫(鬼頭紘太)といった角栄人脈は別名で書かれていますが、その他はほぼ実名。週刊誌はほぼ読まないので、こうして輩どもが裏でうごめいていたのかと、新たな発見でした。

 

 昭和って、欲と利権にまみれ、いまでは絶対アウトの「不適切」な時代ではあったけど、エネルギーだけはあったなと妙に懐古した一冊です。

 

【電線の恋人】 石山 蓮華 著

 

 我が家の周りにある細い一方通行の道には、電柱・電線が張り巡らされています。電柱にはサイドミラーをぶつけたり、電線からは水滴が落ちたり鳥のフンの直撃を受けたりしました。災害時の危険もあるので何度か議会にはお願いしているのですが一向に改善されず、家が建つたびにグチャグチャになっていきます。空を見上げればスパゲティ状態。景観も悪く絶望的な気分になるのですが、これが「美しい、愛おしい」と言い、電線は「恋人」とまでのたまう自称「電線愛好家」がいるというので読んでみました。

 

 一読すると、電線への愛情に満ち満ちています。自分自身、本書にあるメーカーに勤務しましたが、物事は愛情を持つと、見え方や表現がこうも変わってくるのかとびっくりしました。著者のYouTubeでは、勤務した工場も訪問していますが、楽しさが「ディズニーランドを超えた!」とまで言っています。

 

 マイナーな本で恐縮ですが、愛情を持ってみると全てが違って見えるという一例として紹介させていただきました。「誰かにとっては取るに足らないもの、醜いとされているものも、別の人からすれば魅力にあふれた美しくかけがないもの」という「あとがき」の言葉が全てを凝縮している一冊です。

 

【晴れの日の木馬たち】 原田 マハ 著

 

 新年、明けまして、おめでとうございます。年末・年始に読んだのは原田マハの新著。これはなかなか良いです。原田マハの育った岡山が舞台で、これまでの画家をベースとしたものではなく小説家の物語。ただ、倉敷紡績社長・大原孫三郎(大原美術館創設者)も登場し、「絵」とまったく無縁ではない構成になっています。

 

 「最後の場面にたどり着いた読者が、悲しい涙を流すのではなく、幸せな笑顔になるような」、そんな小説を書いて欲しいと言われた「山中すてら」。「史実を横糸に、フィクションを縦糸に」書くのが原田マハの持ち味とのことですが、主人公の「山中すてら」という小説家は見当たらず、ご自身の経験をベースに書かれているものと「推察」します。

 

 途中には悲劇的な場面もありますが、フランスのことわざとして引用されている「雨のち晴れ」のとおり、その後は、「笑顔になるような」作りです。また、夏目漱石も登場する本書では、この時代の文語調文章を縦横無尽に使いこなす原田マハが、極めて優れた文筆家でもあることもわかります。この後、第2部・第3部と続くことが予想され、引き続き、続編が楽しみになる一冊です。

 

 本年もよろしくお願いいたします。

 

【市場の倫理 統治の倫理】 ジェイン・ジェイコブズ 著

 

 最近よく目にするので、少し古い本ですが読んでみました。何やら難しい論文かと思ったところ、5人が集まって話し合うという会話形式(かつてのギリシアでの対話形式を模倣)。冒頭にそれぞれの「倫理」特性15項目があり、これをベースに進めていきます。

 

 必要なものを縄張りから取得(take)するか、お互いが取引(trade)するかの二つがあり、前者は動物同様で、後者だけが人間に行えることとしています。そして、前者を集団秩序維持するための「統治の倫理」、後者を他者との協力関係を築く「市場の倫理」と命名し、相互に矛盾・対立すると分析しています(単にこの二つでよいのかについては、本文中でも議論されています)。本書の特徴は、この立証のために社会学、歴史学、生態系などの広範な知識が投入され(日本のことや老子までもが登場)、全編を通じて飽きさせない点です。

 

「経済計画を統治者の手にゆだねれば統治者優先の計画になるだろう。こうした投資を統括する計画機構は本質的に、発展可能な生産や商業を生み出す役割を果たすのではなく、つぎつぎと自分たちに都合のいい仕事を大量につくり出す政治的事業の渦と化す」とあり、 「統治の倫理」下にある政府がやることは、統治者側に利が及ぶように設計されていると述べます。考えてみれば、政府は毎年、経済政策をやりますが、あまり国民生活に寄与しない(ただ税収は増える)ことを考えると納得の一冊です。

 

【シークレット・オブ・シークレッツ】 ダン・ブラウン 著

 

 これはすごいです! さすが、ダン・ブラウン!

 

 「トラブルの中心地に居合わせるという厄介な習性」のあるラングドン教授のミステリー&アドベンチャーのハラハラ・ドキドキはいつもの通り。すごいのは今回の主題です。脳(脳科学)、意識とは何か(局所性・非局所性)、夢や幻覚の原因、遠隔透視、さらには、死ぬときに何が起こるのかという「秘密のなかの秘密(Secret of Secrets)」を解き明かしているところです。トンデモ本かと思いきや、冒頭には「実験、テクノロジー、科学的成果はすべて事実」と書かれており、ほぼ一気読みでした。

 

 舞台が一番好きなプラハというのも痺れました(好き過ぎて工場まで作ってしまった)。ヴィヴィッドに風景が思い起こされましたが、いつもバーツラフ広場、旧市街、カレル橋、プラハ城などがお決まりコースで、そのほかにもこれほどの名跡があることは初めて知りました。

 

 内容は書き切れませんが、一言で言えば「脳とはスマホである」ということでしょうか。これまでの価値観が大転換した一冊です。

 

PS

「ダン・ブラウン、すごい」と知人に話したら、「サミットのパン屋?」と切り替えされました。今、そっちなんですね。(^^)

 

【未来を予見する「五つの法則」】 田坂 広志 著

 

 本書は、『田坂広志 人類の未来を語る』を加筆・修正した新版。ジャック・アタリ氏が同書を読み、やり取りを重ねるなかで再構成したとあります。田坂広志氏の著作は複数アップされていますが、同書も本書もホリホリしても出てこなかったので掲載します。

 

 『人類の未来を語る』も読んだのですが、改めて本書を読むと、著者の鋭い洞察に感銘を受けます。「五つの法則」とは、①螺旋的プロセス、②否定の否定、③量から質への転化、④対立物の相互浸透、⑤矛盾の止揚、のそれぞれによる発展の法則のこと(詳細は本書にて)。

 

 「砂浜で砂山の頂から水を流すとどのルートで水が流れるかは予見できないが、水は必ず低きに流れていく」と、個々の未来を予見はできなくとも、「大局観」をもとに未来は予見できるとし、その鍵が上の5つの法則であると提起します。氏の深い洞察には、いつもながらに感心させられ、「欧州最高の知性」と言われるアタリ氏を唸らせたのもわかります(個人的には、我々の「人生」そのものが「アート」に他ならないということにも痺れました)。

 

 平易な文章で書かれていますが、内容は深遠。田坂哲学の総まとめとも言え、「大局観」を養うには最適な一冊と言えます。

 

【日中交渉秘話】 垂 秀夫 著

 

 官庁を退官した人は、出身母体を批判したり、関係者を悪しざまに公表することがあります(腹いせのようであまり好きではない)。本書は、(知っている方も多数登場するのですが)一部の政治家を除いてそうした批判めいたことはなく、純粋に「日中交渉秘話」として読むことができます。文章も著者が語ることを産経記者が書き起こす形でとても読みやすくなっています。また、外務省の「工作」や現閣僚の発言など、「ここまで書いていいの?」と思うところもありますが、漁船追突事件や尖閣諸島問題など、実際はどうだったのかが克明に描かれています。

 

 現在、台湾問題で紛糾していますが、著者は武力行使ではなく、「危機の本質はむしろ平和的統一のほうにある」と言います。Amazon Primeでは「零日攻撃」で中国の台湾侵攻を扱っていますが、ほとんど戦闘シーンはなく、グレーゾーン作戦として日常に食い込む「平和的統一」を描写しており、個人的にもそちらが優先されるかなと思っています。

 

 自分自身、長らく中国とはビジネスをしてきましたが、著者のいう中国観はとても似ていて安堵しました(見かけは同じ東洋人ながら思考は米国的でビジョン優先など)。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という昨今の風潮にクギを刺し、「戦略的臥薪嘗胆」で長期的な視座に立つべきという論調にも同感です。「外務省のチャイナスクールたちが日夜いかに生命の危険をおかしてでも国益のために働いているか」がしっかり理解でき、今年読んだ中では白眉の一冊です。

 

【「偶然」はどのようにあなたをつくるのか】 ブライアン・クラース 著

 

 「万事は理由があって起こる」という収束性と、「物事は単に起こる」という偶発性との大きく二分類を比較し、後者に力点を置いた本です。

 

 冒頭、具体例として原爆投下の事例を紹介します。かつて京都を訪れた米国人夫婦がその美しさに魅了され、その後、夫が原爆投下チームに配属。チームでは一番打撃の大きいと思われる京都への投下計画がなされるなか、京都に魅了された彼が強硬に反対して広島・小倉などへと変更。広島投下後、小倉への投下は当日雲が多くて「標的」が確認できず、長崎への投下に急遽変更。「もし」この夫妻が京都を訪問していなければ、「もし」小倉上空が晴れ渡っていたら、ことは大きく変わってきますが、これには「理由がある」のか「単なる偶然」なのかと切り出していきます。

 

このほかにも、リンカーン暗殺前の予言、911で生死を分けた「偶然」など、偶発性の議論は別にしても、こんなことがあったのかという「トレビアの泉」満載です。因みに、米メジャー・リーグが「マネー・ボール」化(データを精緻に分析して選手獲得や試合運びをすること)でどの試合も均一となり、2023年から偶然のアクションを重んじる「脱マネー・ボール」化に切り替えたというのは初めて知りました。

 

“世界が絡み合った偶発的なものとして受け容れると、何もコントロールできないようでいながら、実はあらゆることに影響を与えることとなり、一人ひとりの一切の行動が大切になる”と結語で言います。また、このことから(偶然性に身を任せ)「あてどなく探索すること」で真新しい未来が訪れるという著者のメッセージでも元気になれた一冊です。