"Food for Thought"

"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

【晴れの日の木馬たち】 原田 マハ 著

 

 新年、明けまして、おめでとうございます。年末・年始に読んだのは原田マハの新著。これはなかなか良いです。原田マハの育った岡山が舞台で、これまでの画家をベースとしたものではなく小説家の物語。ただ、倉敷紡績社長・大原孫三郎(大原美術館創設者)も登場し、「絵」とまったく無縁ではない構成になっています。

 

 「最後の場面にたどり着いた読者が、悲しい涙を流すのではなく、幸せな笑顔になるような」、そんな小説を書いて欲しいと言われた「山中すてら」。「史実を横糸に、フィクションを縦糸に」書くのが原田マハの持ち味とのことですが、主人公の「山中すてら」という小説家は見当たらず、ご自身の経験をベースに書かれているものと「推察」します。

 

 途中には悲劇的な場面もありますが、フランスのことわざとして引用されている「雨のち晴れ」のとおり、その後は、「笑顔になるような」作りです。また、夏目漱石も登場する本書では、この時代の文語調文章を縦横無尽に使いこなす原田マハが、極めて優れた文筆家でもあることもわかります。この後、第2部・第3部と続くことが予想され、引き続き、続編が楽しみになる一冊です。

 

 本年もよろしくお願いいたします。

 

【市場の倫理 統治の倫理】 ジェイン・ジェイコブズ 著

 

 最近よく目にするので、少し古い本ですが読んでみました。何やら難しい論文かと思ったところ、5人が集まって話し合うという会話形式(かつてのギリシアでの対話形式を模倣)。冒頭にそれぞれの「倫理」特性15項目があり、これをベースに進めていきます。

 

 必要なものを縄張りから取得(take)するか、お互いが取引(trade)するかの二つがあり、前者は動物同様で、後者だけが人間に行えることとしています。そして、前者を集団秩序維持するための「統治の倫理」、後者を他者との協力関係を築く「市場の倫理」と命名し、相互に矛盾・対立すると分析しています(単にこの二つでよいのかについては、本文中でも議論されています)。本書の特徴は、この立証のために社会学、歴史学、生態系などの広範な知識が投入され(日本のことや老子までもが登場)、全編を通じて飽きさせない点です。

 

「経済計画を統治者の手にゆだねれば統治者優先の計画になるだろう。こうした投資を統括する計画機構は本質的に、発展可能な生産や商業を生み出す役割を果たすのではなく、つぎつぎと自分たちに都合のいい仕事を大量につくり出す政治的事業の渦と化す」とあり、 「統治の倫理」下にある政府がやることは、統治者側に利が及ぶように設計されていると述べます。考えてみれば、政府は毎年、経済政策をやりますが、あまり国民生活に寄与しない(ただ税収は増える)ことを考えると納得の一冊です。

 

【シークレット・オブ・シークレッツ】 ダン・ブラウン 著

 

 これはすごいです! さすが、ダン・ブラウン!

 

 「トラブルの中心地に居合わせるという厄介な習性」のあるラングドン教授のミステリー&アドベンチャーのハラハラ・ドキドキはいつもの通り。すごいのは今回の主題です。脳(脳科学)、意識とは何か(局所性・非局所性)、夢や幻覚の原因、遠隔透視、さらには、死ぬときに何が起こるのかという「秘密のなかの秘密(Secret of Secrets)」を解き明かしているところです。トンデモ本かと思いきや、冒頭には「実験、テクノロジー、科学的成果はすべて事実」と書かれており、ほぼ一気読みでした。

 

 舞台が一番好きなプラハというのも痺れました(好き過ぎて工場まで作ってしまった)。ヴィヴィッドに風景が思い起こされましたが、いつもバーツラフ広場、旧市街、カレル橋、プラハ城などがお決まりコースで、そのほかにもこれほどの名跡があることは初めて知りました。

 

 内容は書き切れませんが、一言で言えば「脳とはスマホである」ということでしょうか。これまでの価値観が大転換した一冊です。

 

PS

「ダン・ブラウン、すごい」と知人に話したら、「サミットのパン屋?」と切り替えされました。今、そっちなんですね。(^^)

 

【未来を予見する「五つの法則」】 田坂 広志 著

 

 本書は、『田坂広志 人類の未来を語る』を加筆・修正した新版。ジャック・アタリ氏が同書を読み、やり取りを重ねるなかで再構成したとあります。田坂広志氏の著作は複数アップされていますが、同書も本書もホリホリしても出てこなかったので掲載します。

 

 『人類の未来を語る』も読んだのですが、改めて本書を読むと、著者の鋭い洞察に感銘を受けます。「五つの法則」とは、①螺旋的プロセス、②否定の否定、③量から質への転化、④対立物の相互浸透、⑤矛盾の止揚、のそれぞれによる発展の法則のこと(詳細は本書にて)。

 

 「砂浜で砂山の頂から水を流すとどのルートで水が流れるかは予見できないが、水は必ず低きに流れていく」と、個々の未来を予見はできなくとも、「大局観」をもとに未来は予見できるとし、その鍵が上の5つの法則であると提起します。氏の深い洞察には、いつもながらに感心させられ、「欧州最高の知性」と言われるアタリ氏を唸らせたのもわかります(個人的には、我々の「人生」そのものが「アート」に他ならないということにも痺れました)。

 

 平易な文章で書かれていますが、内容は深遠。田坂哲学の総まとめとも言え、「大局観」を養うには最適な一冊と言えます。

 

【日中交渉秘話】 垂 秀夫 著

 

 官庁を退官した人は、出身母体を批判したり、関係者を悪しざまに公表することがあります(腹いせのようであまり好きではない)。本書は、(知っている方も多数登場するのですが)一部の政治家を除いてそうした批判めいたことはなく、純粋に「日中交渉秘話」として読むことができます。文章も著者が語ることを産経記者が書き起こす形でとても読みやすくなっています。また、外務省の「工作」や現閣僚の発言など、「ここまで書いていいの?」と思うところもありますが、漁船追突事件や尖閣諸島問題など、実際はどうだったのかが克明に描かれています。

 

 現在、台湾問題で紛糾していますが、著者は武力行使ではなく、「危機の本質はむしろ平和的統一のほうにある」と言います。Amazon Primeでは「零日攻撃」で中国の台湾侵攻を扱っていますが、ほとんど戦闘シーンはなく、グレーゾーン作戦として日常に食い込む「平和的統一」を描写しており、個人的にもそちらが優先されるかなと思っています。

 

 自分自身、長らく中国とはビジネスをしてきましたが、著者のいう中国観はとても似ていて安堵しました(見かけは同じ東洋人ながら思考は米国的でビジョン優先など)。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という昨今の風潮にクギを刺し、「戦略的臥薪嘗胆」で長期的な視座に立つべきという論調にも同感です。「外務省のチャイナスクールたちが日夜いかに生命の危険をおかしてでも国益のために働いているか」がしっかり理解でき、今年読んだ中では白眉の一冊です。

 

【「偶然」はどのようにあなたをつくるのか】 ブライアン・クラース 著

 

 「万事は理由があって起こる」という収束性と、「物事は単に起こる」という偶発性との大きく二分類を比較し、後者に力点を置いた本です。

 

 冒頭、具体例として原爆投下の事例を紹介します。かつて京都を訪れた米国人夫婦がその美しさに魅了され、その後、夫が原爆投下チームに配属。チームでは一番打撃の大きいと思われる京都への投下計画がなされるなか、京都に魅了された彼が強硬に反対して広島・小倉などへと変更。広島投下後、小倉への投下は当日雲が多くて「標的」が確認できず、長崎への投下に急遽変更。「もし」この夫妻が京都を訪問していなければ、「もし」小倉上空が晴れ渡っていたら、ことは大きく変わってきますが、これには「理由がある」のか「単なる偶然」なのかと切り出していきます。

 

このほかにも、リンカーン暗殺前の予言、911で生死を分けた「偶然」など、偶発性の議論は別にしても、こんなことがあったのかという「トレビアの泉」満載です。因みに、米メジャー・リーグが「マネー・ボール」化(データを精緻に分析して選手獲得や試合運びをすること)でどの試合も均一となり、2023年から偶然のアクションを重んじる「脱マネー・ボール」化に切り替えたというのは初めて知りました。

 

“世界が絡み合った偶発的なものとして受け容れると、何もコントロールできないようでいながら、実はあらゆることに影響を与えることとなり、一人ひとりの一切の行動が大切になる”と結語で言います。また、このことから(偶然性に身を任せ)「あてどなく探索すること」で真新しい未来が訪れるという著者のメッセージでも元気になれた一冊です。

 

【神と科学】 ミシェル=イヴ・ボロレ、オリヴィエ・ボナシー 著

 

 “本書の目的はただ1つ、「創造神の存在の可能性」に関連する、合理的で最新の知識を集め、1冊の本にまとめることである”と豪語する本です。

 

野心的な試みで、第1部の宇宙生成、物理、生物学などの科学分野では幅広い考察を行っており、「これは今年のベスト書籍だ!」とワクワクして読みました。ただ、第2部では、これらをもとに如何に(旧約・新約)聖書が正しいかを力説。日本には八百万も神様がいるんですけど…と、ツッコミを入れながら後半も読了。

 

 広範な知見をもとに、①宇宙には始まり(ビッグ・バン)があり、始まりがあるということはこれを「創造」したものがいること、②一部でも数値が変化すれば「今」は存在しないほど、この世の全てが精緻に設計されていること、③常に「微調整」が施されており、何らかの意思がなければこれは不可能であること、などから「創造神」が存在することを論述しています。「長く待ちさえすれば、宇宙のホコリからボーイング747ができるのか」という問いには確かに頷けるものがあります。

 

 500ページを超える大著ですが、科学・哲学・神学などさまざま面から考察を加え、知的好奇心を掻き立ててくれる一冊です。

 

【文学は何の役に立つのか?】 平野 啓一郎 著

 

 いつも疑問に思うことがタイトルになっていたので読んでみました。本書は、著者の講演などをまとめたもので、表題については冒頭の35ページとなっています。著者も「答えるのに苦慮する問い」とのことですが、「一つの理由」を見つけたとあります。ネタバレはまずいと思いますが、この理由やその後の論考などは同意するところ大でした。

 

 平野氏の著作は好きでほとんど読んでいますが、本書のほかの論考を読むと、自分と幼少期の経験が似ていることがわかりました。また、文章もきらきらと美しいのですが、三島由紀夫に留まらず、ハイデガー、大江健三郎など多数の文学・芸術に接していることもわかり、本書は一つの芸術評論という建付けにもなっています。

 

 平野氏の『あなたが政治について語る時』も8月に出版され、並行して読みましたが、時事問題についても強い関心を持っていることがわかり、平野ワールドに浸った猛暑日でした。

 

【鋼鉄の城塞】 伊東 潤 著

 

 戦艦「大和」の建造ストーリーで、ほぼ一気読みコースでした。『戦艦大和ノ最期』やレイテ海戦などは多数出版されていますが、大和建造の物語はあまりないのではないでしょうか(と、思ったら、巻末の「参考文献」には結構あげられていました)。

 

 著者は本当によく調べていて、戦艦の建造、特に大和のように極秘レベルでの建造が如何に難しく大変なことかがよくわかりました。「ワシントン条約~ロンドン条約」で戦艦の数が制限されるなか、ひとつの戦艦の装備を如何に充実させて対抗するかの苦闘が書かれています。

 

 前半は技術者としての苦闘を、後半ではロマンス、ミステリーを織り交ぜての進行(戦艦「陸奥」が爆破・沈没した事例も仮説を提示していますが、これはなかなかに大胆)。「ヤマトブジシンスイス」の副題にあるように建造から進水が中心となるため、「戦艦大和ノ最期」は簡略に書かれていますが、本書を通じ、先人の苦労と英知には頭が下がります。山本五十六など実在の人物と「架空の人物」を織り交ぜての小説となっていますが、建造そのものが如何にドラマティックかということが理解できる一冊です。

 

【ユダヤの商法】 藤田 田 著

 

 「ユダヤ商法に商品はふたつしかない。それは女と口である」 やや刺激的な文言ですが、本書を読むと納得できます(藤田氏は、後者の「口」である日本マクドナルドを開業)。ユダヤの法則に「78対22の法則」があると聞いて読んでみたのですが、本当にありました。全編を通じて、日本人とは異なるユダヤの思考法が書かれています。

 

 「歴史の浅い国は、歴史の古い国には、逆立ちしてもかなうわけがない」。建国250年の米国が、5,000年もの歴史を持つユダヤ人に「思うがままに」操られるのは当然と言います。また、世界中に広がったユダヤ人同士は国籍に関係なく「同胞」であり、「常に緊密な連絡を取り合っている」ともあり、初版は2019年ながら、噂されている「ディープ・ステート」を思い起こさせる記述もあります。

 

 「人生の目的は、美味しいものを心ゆくまで食べること」については完全合意ですが、頭に違う思考の刺激を入れたいときにお薦めの一冊です。