"Food for Thought"

"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

『忘却の効用』 スコット・A・スモール 著

 

 このところ、名前が出てこない、用事を忘れるなど、「忘却力」がついてきました。これで大丈夫かと少し心配になっていたところ、ちょうど絶好の書籍に遭遇。

 

 まず、「忘れる」ということは、個別事象を一般化するための前提。記憶力のいい人は、「朝日のなかで見た犬」と「夕闇のなかで見た犬」を、「同じ犬」と認識できないのだそうです。「さまざまな相違を忘れること、一般化すること、抽象化すること」が「考える」ために必要。また、憤りなどの負の感情を忘れることは「赦し」にもつながり、これが「忘却が持つ利点のなかで最も尊いもの」。さらに、睡眠によって大脳皮質の記録を片づけて白紙にする作用があり、このことで新しい記憶を受けられるようになる、と言います(「忘れるために眠る」)。

 

 「忘却」があることでよい人生が送れるとわかり、これからはあまり忘れることを気にしないようにしようと、単純にも自分に言い聞かせられる一冊です。

 

『暗殺』 柴田 哲孝 著

 

 「あれだけやめろと言ったのに元号を令和にした上、改号日も5月1日にしやがった。もう許せねぇ」 “令”は、目上の者が掟で縛り、言いつけるもの。“和”は和人、つまり日本人の意。5月1日は旧・統一教会の創設記念日なので、この趣旨は明らか。それまでの皇室典範問題などから、皇道派としては「もう許せない」と、蛮行に及んだという「設定」です。

 

 最初のページに「この物語はフィクションである」とありますが、元首相「暗殺」に関して、とてもフィクションとは思えない迫真の内容です。現容疑者の単独犯行ではなく、政治家・警視庁・自衛隊を巻き込んだ「事件」と設定し、事実を丹念に追いながら「物語」にしています(偽名で書かれていますが、実名はだいたいわかります)。執刀医の記者会見では、「致命傷は右頸部から心臓に至る貫通で銃弾は見当たらない」と言っていましたが、この事実が何を意味しているのかも本書を読むとよ~くわかります。これ、本当に凄いです!

 

巻末の「参考文献」には新聞・週刊誌が列挙されており、週刊誌記事をまとめて「フィクション」にしたのかもしれませんが、それでも綿々と続く戦後日本の政治・宗教・ジャーナリズムの「闇」の部分がわかります。また、本書のすべてを信じることはないにせよ、周りにある情報は「フェイクストーリー」ではないかと疑って考える重要性を教えてくれます。色々なつながりが見え、読んだ人とは熱く語り合いたくなる凄い一冊です。

 

 溜まったマイルの消化に知床へ。猛暑の続く東京とは異次元の涼しさ。まずは、小さい頃から行きたかった摩周湖へ。地元の人にも珍しいと言われたほどの晴れの日で、神の子池~屈斜路湖~阿寒湖と周辺のカルデラ湖を一気にめぐりました。

 

 知床では、ヒグマの繁殖期のため、ガイドさん付きで知床五湖を一周。一見、静かな森にも激しい競争があり、「植物から学ぶ生存戦略」を学びました。20年やっているというガイドさんは、「知床には、日々新たな発見がある」と楽しげに語り、本当に知床が好きなのだと感じました。

 

 豊かな生態系とそれを守る地元の協力があっての世界遺産認定。一方で、鹿の繁殖により植物が減って他生物が減少、ドングリが取れなくなったことからヒグマが人家に現れるなど、気候変動の影響は顕著。ユネスコも知床の生態系保全に乗り出し、環境問題も考えさせられる知床探索でした。

 

『ジャック・ウェルチ「20世紀最高の経営者」の虚栄』 デイヴィッド・ゲレス 著

 

 かつてジャック・ウェルチと言えば名経営者の誉れ高く、当時の社長も「ウェルチはこう言っています」とよく引き合いに出していました。しかし、その名門GEが、ダウ平均銘柄から外され、収益源と言われたGEキャピタルを手放し、さらにはドル箱だった発電機・ヘルスケアも売却。いまや「ただの航空機エンジンのサプライヤーになり下がった」内情・顛末について詳しく論じています。本書ではその要因を、「ダウンサイジング(人員削減)、事業売買、金融化」を推し進めたウェルチズム、内部でのパワハラ言動、粉飾操作などに起因すると分析しています。

 

 正直、ここまでひどかったのかと驚かされました(ウェルチはアンパンマンの対極)。一人の経営者によって会社が傾くことは東〇・シャー〇などでも既視感があり、児玉博氏の『テヘランからきた男』にも通底するところがあります(日本の某通信事業会社も大丈夫か…)。

 

著者は、NYタイムズの記者ですが、多面的な取材と分析を重ねており、訳もとても読みやすくできています。ユニリーバなどを対比して、長期的な視点に立つことの重要性を訴えていますが、最後の提言では、これが「新しい資本主義」ではないかと思わせる内容です。

 

『勇気の花がひらくとき』 梯 久美子 著

 

 25年春の朝ドラは、「愛と勇気の物語」の『あんぱん』だそうです。やなせたかしと妻・小松暢(のぶ)の物語。これに先行して「COTEN RADIO」の「やなせたかし」を聴いてからすっかりハマってしまい、いまのプチ・マイブームは「アンパンマン」。

 

 やなせたかしは、幼少期に両親兄弟とは死別・離別。徴兵で中国に出兵して「食べるもののない苦しさは、どうにもならない」という原体験をもって戦後帰国。「手のひらを太陽に」や「三越」の包装紙などのヒットはあったものの、その後、鳴かず飛ばず状態が続き、かなり経ってアンパンマンの絵本を制作。

 

 「ヒーローなのにちっともカッコよくない」「顔を食べさせるなんて残酷」と関係者から批判され、出版社からも「もうこんな絵本を描かないでください」とまで酷評。ところが、子どもたちには密かなブームで広がり、ようやくアニメ版が放映されたときは69歳。高齢で引退を考えるも、東日本大震災後にアンパンマンのテーマ曲が毎日流されることを知ってからは、94歳で亡くなる直前までペンを持っていたというからすごいです。

 

 「ジュニア版」のため、文字も大きく漢字には全てルビがふってあり、ものの30分ほどで読めてしまいます。一緒に仕事をした著者のあとがきにあるように「アンパンマンは、たまたま生まれたヒーローではありません。悲しいことや苦しいこともたくさん経験し、人間が生きる意味はなんだろうと先生が考えつづけた中から誕生した」もので、深い思索と経験から生み出されたことがよくわかる一冊です。

 

因みに、「COTEN」では、やなせたかしの思想がすべて盛り込まれているのが映画「いのちの星のドーリィ」と紹介され、これらを知って観てみると、不覚にも「アン泣」してしまいました。(^^)

 

『なぜヒトだけが老いるのか』 小林 武彦 著

 

 生殖期を過ぎても生き続ける生物は、(短期間生きるシャチやゴンドウグジラ以外)ヒトのみであるという点に着目して分析した内容です。いわゆる「おばあちゃん効果」(子育てに協力)や長老による課題解決など、集団においてシニアに重要な役割があったためというのが筆者の見解です。進化には目的はなく、「集団生活に適応した、他者と協力できる」サルだけが結果的に生き残ったのであり、「なぜヒトだけが老いるのか」ではなく、「老いた人がいる社会が選択」されたと言います。

 

 それ故に、シニアはインプットもさることながら、これまでの「蓄積を吐き出すアウトプット」を多くすべきと提言。また、大学にも勤務して若い人とも接していると、経済問題よりも「そもそも彼女がいない」と、このままでは(女王バチのみが卵を産むように)人間社会でも「生殖的分業が起こり、産む個体と産まない個体に分かれる可能性」にも言及するなど最近の少子化にも警鐘を鳴らしています。

 

 後半の点は、生物学というより社会学的な見地からの内容になりますが、面白い視点を提供している一冊と思います。

 

『女の国会』 新川 帆立 著

 

 面白かったです。よく調べているな~と思ったら、この著者、『元彼の遺言状』を書いた弁護士さんですね。ミステリー仕立てとなっていて、殺人を巡る動機には「?」が残りましたが、政治家、特に第四章の選挙については相当ヒアリングされたものと思います。

 

 男性議員に多いのが「アレオレ詐欺」とか。「アレオレ詐欺」とは、「アレは、オレがやった!」と手柄を吹聴するものだそうで、自分の周辺にも多く、(何人かの顔を思い浮かべて)思わず笑ってしまいました。

 

 「性同一性障害」が底流に流れていますが、政界における女性の立場や政治家・選挙の実態が垣間見られる一冊です。

 

『マネーモンスター』 黒木 亮 著

 

 これは面白いです! 真山仁氏の「ハゲタカ」シリーズは通読しましたが、黒木亮氏の「カラ売り」シリーズは初めてで引き込まれました。

 

 パンゲアというカラ売り屋の活動を、「ミスター液晶(液晶バックライト)」「水素トラック革命(水素自動車)」「地銀の狼(ス〇ガ銀行)」の三本立てで描いています。それぞれ独立しており、短編としても読めますが、前者2作は、かつて携わった業務内容であり、また最後は最近話題になった「ス〇ガ銀行」の話でもあり、いずれも一気読みコースでした。

 

 「VIVANT」でもカラ売りは取り扱われていましたが、何となく悪者イメージ。しかし、こちらのカラ売りは、不正を問い質す一手法として正義の味方的に描かれています。さらに、中国の出入国管理法、米国の(日本にはない)「内部告発者報奨金プログラム」、米国において上場企業が激減している背景など、あまり新聞などでは知らされていない内容も書かれています。

 

 経済小説ですが、企業が事業と財務の両輪で回っていることが実感できる一冊です。

 

『素数ゼミの謎』 吉村 仁 著

 

 昨日のネット記事に、「米国で今年、13年ゼミと17年ゼミが同時に大発生」という記事がありました。米国では周期的に地域を分散しながら、セミの大量発生があるようです。またまた「COTEN RADIO」からの引用で恐縮ですが、ダーウィンの進化論に関係して、以前、このセミのことが語られていました。

 

 ダーウィンの進化論は、「変化するものだけが生き残る」と解釈され、経営者がよくこの言葉を語ります。しかし、「COTEN RADIO」によれば、これは誤った解釈であり、「たまたまの偶然に」環境変化に対応できただけのものが生き残ると解釈するのが正解と論じています(実は、自分もそう解釈している)。その例として引き合いに出されたのが「素数ゼミ」。

 

 セミの寿命は最長20年。その生涯をほぼ土中で暮らして繁殖期に地上に出ます。地上に出る期間は短く、この間に配偶相手を見つけなければなりません。しかし、地上に出たところ、誰もいないという事態もありえます(相手が多くないと、子孫を残すことはできない)。色々な周期をもつ種と交配すると周期が乱れて配偶相手を見つけにくくなるため、素数(13、17)の周期をもつセミが「たまたま」多く生き残っているというのです。

 

 諸説はあるようですが、この説では、「たまたま」13年、17年周期のセミが生き残っただけで、別に環境の変化に適合したわけではないと言います。それにしても、13×17年の221年目となる今年は超大量発生で、ものすごい鳴き声になっていると思います。

 

◆米国で今年、「13年ゼミ」と「17年ゼミ」が同時に大発生 数十億匹にも(ロイター)

https://news.yahoo.co.jp/articles/9fb7d4212f6205dc7a4c7c8509a70890adb49bae

 

『「生」と「死」の取り扱い説明書』 苫米地 英人 著

 

 苫米地英人氏と言えば、オウム真理教に洗脳された信者たちを脳科学・認知科学で「脱洗脳」させたことで有名かと思います。カーネギーメロン大学博士であり、かつ天台宗で得度した仏教家。この方の著作もほぼ読んでいます。この本のタイトルは軽い感じですが、中身はなかなかのものです。

 

 前掲の『死の講義』の関連図書で出てきたものですが、さすがは苫米地ワールド。田坂広志氏は量子力学の観点から「死」を科学的に考察しましたが、苫米地英人氏は、「質量保存の法則」や「エネルギー保存の法則」から、「個体の死は、自我の消滅を意味」せず、「物理的な存在が情報的な存在に変わるだけで、自我が消え去ったりはしない」と断じます。

 

 仏教にも造詣が深く、あの世の権力とこの世の権力を分けるという観点から、やはり「釈迦はお坊さんが葬式に出ることを禁じた」とあり、僧侶の世襲も禁止(そのための妻帯禁止)。現状を「釈迦本人が知ったら、驚いてひっくり返ってしまう」とあります。

 

 連投で暗いタイトルが続いて恐縮ですが、自分自身が普段何気なく思っていることが根底からひっくり返された感のある一冊です。