ダークスーツの男たちが

“スキンヘッド”と“いたち”を

引き立てて出ていくと

くるみはをホテルの一室に

耀と浩を案内し

長椅子でしばらく休むように言って

出て行った。

 

 

数時間後、浩が起きて

なんとか話ができるほどに回復した頃

くるみは再び部屋を訪れた。

 

 

「南関警察署 生活安全課

 日隠(ひがくれ)くるみ」

それが彼女の本当の名前と肩書だった。

 

 

耀は差し出された名刺と彼女を

交互に見た。

 

 

初々しかった果物売りの娘が

警察官として目の前に立っている。

浩がたちまち意気投合したあの娘だ。

 

 

「ごめんなさい」と、くるみは言った。

 

 

「浩の点欠を完全に解くのに失敗したわ。

私のやり方が悪かったのか

それとも相手が上手だったのか」

 

 

「あの黒装束は君だったのか」

 

 

耀の目の前で地下の倉庫に忍び込み

浩の胸元を突いていたのはくるみだった。

 

 

止めを刺しているように見えたが

実は封じられたツボを開けていたのだ。

 

 

どうりで浩が目覚めた時

様子がおかしかったわけだと

耀は理解した。

 

 

顔の麻痺が残っていたり

力のコントロールができずに

怪力を出したり

簡単に投げ飛ばされたり―。

 

 

「こっちこそ悪かった。

僕が途中で声を出したから

中途半端になってしまったんだね」

 

 

くるみはうなずいた。

「でも、もう大丈夫。

ほぼ回復したようだから」

 

 

彼女は、これまでの経緯を

かいつまんで話した。

くるみの所属する生活安全課は

年々悪質化する

果物売りの捜査に当たっていた。

 

 

法外な値段を吹っかけ

風営法に違反している

店があるとの情報は

以前からあがっていたが

相手もなかなか尻尾を出さないため

手をこまねいていた。

 

 

違法薬物の疑いもあるので

麻薬取締官との

合同調査を行っていた。

 

 

「そこで私が果物売り娘の

成りすましを命じられたの」

 

 

「潜入捜査ってことか」

 

 

そして捜査の最中に

浩とくるみは出会いを果たしたのだ。

 

 

奇遇だった。

「運命の出会いと言っていいかな」

と、くるみは笑った。

 

 

そう間をおかずに

二人が同じ男を追っていることが

わかったからだ。

 

 

捜査当局も

九鬼をグループの元締めとして

監視していた。

 

 

警察はくるみを通して

浩に情報提供と捜査協力を依頼し

その代わり身の安全を守ることを約束した。 

 

 

 

そこまで種明かしをされても

耀にはまだわからない事が多かった。

 

 

一番聞きたかったのは

「どうして彼女が

警察官だと気づいたのか」。

これは浩への質問だ。

 

 

 

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浩が背後から

“スキンヘッド”の首を締め上げている。

 

 

浩はいつのまにか正気を取り戻し

耀がやられているのを見て

助太刀に入ったのだ。

 

 

”スキンヘッド”は憤怒の表情で

手をひきはがそうとするが

浩はなおも強い力で

ぎりぎりと締め上げている。

 

 

「はあっ」

”スキンヘッド”は大声で気合いを発した。

 

 

持てる力を全部振り絞って

神がかり的に手を振り払った。

 

 

 

反動で浩はすっ飛ばされ

ぼろ人形のようにだらりと床に伸びた。

 

 

耀は浩のもとにかけ寄って

体を抱き起こした。

 

 

「しっかりしろ」

揺すって呼びかけると

わずかに浩が目を開いたが

何だか様子がおかしい。

 

 

目の焦点が合わず

顔も左半分が引き攣っている。

 

 

「いったいどうなっているんだ」

”スキンヘッド”がしわがれ声で

”いたち”に叫んだ。

 

 

「点穴を打ったんじゃないのか。

しばらくは目を覚まさないはずだろう」

 

 

”いたち”は床にへたりこんだまま

「わからない」と弱々しく首を振った。

 

 

 

 

その時、勢いよく部屋のドアが開いた。

 

五人の黒っぽいスーツ姿の男たちが

一陣の風のように踏み込んできた。

 

 

その男たちは

呆気にとられている”スキンヘッド”と

”いたち”を

タップダンスのように軽快な足取りで

てきぱきと組み伏せ取り押さえていった。

 

 

動きには無駄がなく手際よくて

まるで集団の無言劇を見ているようだった。

 

 

耀も何が起こったかわからず

浩の体を抱えて

目をきょろきょろさせていた。

 

 

一人の若い女が

男たちの背後から現れた。

 

 

その女はくるみだった。

落ち着いた足取りで耀たちに歩み寄り

にっこりと笑った。

会心の笑みだった。

 

 

「よかった。間に合って。

約束を守ることができた」

 

 

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「その大事な人って九鬼のことか?」

と耀がきく。

 

 

九鬼?さあ、知らねえな。

そいつは禁句だぜ」

 

 

やはりそうかと耀は悟った。

 

 

九鬼は最初から

借用書を渡す気などなかった。

見知らぬ土地に二人をおびき出して

始末するつもりだったのだ。

 

 

”いたち”がいきなり胸めがけ突いてきた。

 

 

耀は素早く身をひるがえして

相手の腕をつかみ取り

後方へ回り込んで捻り上げた。

 

 

 

そのまま”いたち”の体を

仰向けに倒し膝で固定すると

思い切り拳を打ちおろした。

 

 

これはかなり効いたらしく

”いたち”はそのまま床に崩れ落ちた。

 

 

耀はガッツポーズをとったが

“いたち”は頭を振って立ち上り

再び猛然と襲いかかってきた。

 

 

耀は”いたち”の拳を両手で受け止め

腕の下をかいくぐると

今度は背負い投げをかけた。

 

 

”いたち”は床に投げ飛ばされ

「ぐえっ」と呻いて

そのまま動かなくなった。

 

 

”スキンヘッド”はちっと舌打ちして

飛び出した。

 

 

こちらは数段上の腕前だった。

 

長いリーチを生かして

大きな圏捶を振ってくる。

大男が体重を乗せて

拳を繰り出すのだから

当たったら相当の破壊力があるだろう。

 

 

耀はよける一方になった。

次第に部屋の隅へと

追いつめられていく。

 

 

隙を見てフェイントをかけ

相手の脇下をくぐり抜け

反対側に逃げた。

 

 

耀は呼吸を整え、体制を立て直す。

相手の胴めがけて

渾身の拳を打ちこんだ。

しかし、逆に軽くいなされて

腹にひざ蹴りをくらった。

 

 

ふらふらとよろめいた所を

さらに強烈な回し蹴りを

胴に受け床に倒れてしまった。

したたかに頭を打ちつけ意識が遠のいた。

 

 

それもほんのわずかの間の事だった。

 

 

薄目を開けると”スキンヘッド”

が立ったまま手を上に突き出し

苦しそうにもがいている。

まるで水中で溺れているかのようだ。

 

 

目を凝らすと、”スキンヘッド”の喉元に

手が巻きついているのがわかった。

 

 

誰かが背後から首を締め上げている。

 

 

浩だ!

 

 

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