月・木・土に投稿予定です飛び出すハート

 

耀は両親のことをほとんど覚えてないが

誰にも話したことのない記憶がある。

ふとしたひょうしに生々しく甦る記憶がある。

 

 

それが現実なのか夢なのか

いまだにわからない。

 

 

兄弟の前から両親が突然いなくなった夜のことだ。

 

夏のように暑かったがもう秋だったのだろう。

虫の鳴く声が聞こえていた。

 

 

 

 

その日は、いつもと空気感が違っていた。

夕食後、耀は急に睡魔に襲われ

自分の部屋のベッドに倒れ込んで

眠ってしまった。

 

 

ふいに誰かに揺り起こされたように

目を覚ますと

室内はまるで海の底のような

蒼い闇に包まれていた。

 

 

 

手探りで枕元の小さな置き時計を見ると

蛍光の針は9時を指していた。

ずいぶん長いこと寝たように頭が重かった。

 

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お父さんとお母さんに

「おやすみなさい」

の挨拶をしてなかった。

一体どうしたんだろう。

こんなこと珍しい。

 

 

廊下に出ると

密度の濃い空気が

何かを孕んでいるようで胸騒ぎがした。

 

 

リビングの手前に

麗華がぽつんと立っていた。

 

 

月が冴え冴えと輝く蒼い夜だった。

いっしょに中に入ると

電気をつけなくても

月明かりの中で倒れ伏した

両親の姿が見えた。

 

 

あまりの衝撃に

耀と麗華はその場に立ち尽くすことしか

できなかった。

 

 

そのとき、耀は背後に気配を感じた。

この部屋にはもう一人、誰かいる。

自分たち以外に見知らぬ大人が。

 

 

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「誰なの?おじさんなの?」

 

耀は心の中で問いかけたが

声は出なかった。

お父さんとお母さんが

大変なことになっている。

助けて、どうにかして、と叫びたいのに。

 

 

月・木・土に投稿予定です飛び出すハート

 

 

彼の演奏は誰もが称賛したが

少年は褒められるのには飽き飽きしていて

当然だとさえ思うようになっていた。

 

 

自分の演奏には完璧を求め

ミスしたところ、悪いところはすぐに気づいたし

楽団員の悪いところも口に出した。

 

 

周囲の大人は

指摘の的確さや率直さに感心したが

両親からは傲慢さを咎められることもあった。

 

 

「そんなこと大人に対して言うもんじゃない。

まだ子どもなのに

謙虚にしていないといけないよ」

 

 

その頃から

彼は家でも一人閉じこもるようになった。

両親に対して癇癪を起こすことも。

 

 

ピアノの練習以外にも

国際舞台に立つために

英語や中国語の家庭教師がつけられていたので

友達を作る暇などなかった。

 

 

以前は練習の合間に時折

母親と一緒に庭に出てバラを愛で

手入れをしていた姿も

この頃から見られなくなった。

 

 

 

彼は孤独だった。

 

人々には幸福を与えていたのに

少年は内心いつも苛立っていた。

 

 

こんなんじゃ全然物足りない。

自分はもっと上手くなりたい。

より高みに上りつめたい。

 

 

でも日本には

自分を導いてくれる人がいないのだ。

みんなわかったように

自分のことを言うけれど

誰も本当の自分のことを

理解してくれていない。

理解できるはずがない。

だって能力が全くかけ離れているんだから。

 

 

もっと広い世界に出てみたい。

自分のことを理解してくれる人がいる世界へ。

今よりも、ここよりも、もっと広い世界へと。

 

 

少年の願いは聞き届けられた。

彼の名声は海外にも鳴り響いていたので

高名なピアニストがアメリカの

名門音楽院に推薦してくれたのだ。

 

 

親子三人は

アメリカ留学の準備をするために

渡米した。

 

 

空港には大勢の見送りの人が詰めかけ

誰もがアメリカでの彼の活躍と

数年後の凱旋を期待した。

 

 

ところがその後アメリカで

思いもかけない悲劇に巻き込まれた。

 

 

少年と両親が、車で移動中に

事故に巻き込まれたのだ。

 

 

三人は病院に運ばれ

両親は間もなく死亡が確認された。

少年はICUで懸命の治療が続けられた。

 

 

ある程度少年の容態が回復すると日本に搬送され

当時は大きく報じられたが

それももう40年も前の話だ。

 

今は生きているのか

どこでどうしているのか誰も知らない。

彼の名前すら覚えていないだろう。

 

天上の音楽は消えてしまった。

 

 

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次からは章の名前が変わって

「天国と地獄」になります。

 

 

 

AI作成

 

 

月・木・土に投稿予定です飛び出すハート

 

 

天使の少年の話をしましょうか。

彼がどんな少年だったのか

どんな風に人生を歩んでいったのかを。

 

 

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裕福な貿易商一族の家に

生まれた男の子だった。

 

 

その家は坂道を大きく回りながら

上っていった高台にある瀟洒な屋敷で

母親がバラを育てるのが趣味で

庭の半分は見事に咲き誇る

バラで占められていた。

 

 

近くを通ると甘い香りが

ふんわりと漂ってきたので

近所の人たちからは

「バラ屋敷」と呼ばれていた。

男の子が幼い頃は

庭で遊ぶ母と子の笑い声が

よく聞こえてきたという。

 

 

また両親は少年の成長とともに

大きくなるようにとの思いで

庭の隅に樫の木を植えた。

樫の木が大きくなって

この広い庭に、涼しい木陰が出来るように

その下で家族が集えるようにと。

 

 

 

ピアノ教師の父親が

三歳になった男の子にピアノを勧めると

興味を持ち、それ以降、バラ屋敷からは

毎日ピアノを練習する音が聞こえてきた。

 

 

母親はピアノの音色を聴きながら

バラの手入れに勤しんでいた。

 

 

もともとの才能もあったけれど

負けず嫌いだった少年は

1日8時間の練習量をこなし

親さえも驚くほど短期間で上達した。

数々のコンクールで賞を総なめにした。

 

 

高名な音楽家に認められ

「100年に1人の逸材」

と言わしめた天才少年。

 

 

7歳で初のリサイタルを開き

12歳で地方公演を行った。

 

 

あどけない顔の普通の少年が

ひとたびピアノを弾き出すと

堂々とした大人顔負けの演奏を披露する。

 

 

 

共演した大人の楽団員たちは

自分たちよりはるかに上手いことを

認めざるを得なかった。

 

 

そこには不満や、妬みなどなく

ただただ驚嘆や賞賛があるだけだった。

 

 

今まで聴いたことのない甘美な響き。

うっとりするような天上の調べ。

まさしく天から降りてきた少年だったのだ。