月・木・土に投稿予定です飛び出すハート

 

 

キャンパス内の学生食堂。

学食といっても

赤い屋根が人目をひく

二階建てテラス式のモダンな外観の建物だ。

 

 

一階はセルフサービス式で

モーニングやランチが

手ごろな値段で食べられる。

 

 

二階は一階よりはやや値段が高めだが

気軽に洋食を味わえるレストランだ。

 

 

 

朝8時半から夜9時まで開いているが

多くの生徒がここで昼食をとるため

昼時にはかなりの人数が殺到する。

 

 

初めて訪れた人は近くまで来て

もうひとつ別の地下への入り口が

目立たぬように存在することに気がつく。

 

 

通称第二食堂。

 

 

 

値段も安く丼ものや麺類

定食中心のメニュー。

誰が考えてこんな形にしたのだろう。

 

 

地上は日当たりがよく

男女の笑い声にあふれた

華やかで明るい雰囲気なのに

 

 

地下食堂は、簡素な木の机と椅子が

置いてあるだけの殺風景な空間で

蛍光灯の光さえ

心なし薄暗いように感じられる。

 

 

ほとんどの学生は

一人で座り無言で食事をしている。

 

 

入り口ではっきりと分かれるのだ。

上がっていく者と

下に降りていく者

まさに天と地、上と下。

 

 

上の者は下の者を意識すらしていない。

眼中にも入ってない。

一体何者だろう。

意識すらされていない存在とは。

 

 

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どうして言えなかったのだろう。

胸を張って言えなかったのだろう。

「僕もこの店の奨学生なんだよ。

僕は奨学金をもらって大学に通ってるんだ」 

 

 

もうあの女とは会わないでおこう。

見た目に惹かれて数回デートしたけれど

会話は全くかみ合わなかった。

 

 

向こうも同じだろう。

大学名につられてやって来ただけだ。

次に連絡があったとしても

何か適当な理由をつけて断ればいい。

 

 

 

道の正面からどっと笑い声があがった。

若い男の集団が傍若無人に横に広がって

こちらに向かって歩いてくる。

 

 

 

話すのに夢中になっている男と

危うくぶつかりそうになったので

耀は避けたが

なぜ自分の方が避けなければいけないのか

腹立たしくなった。

周りのことなどまるで眼中にない

傲慢さをいまいましく思った。

 

 

 

彼らは見た目

そんなに自分と年が変わらない。

「〇〇ゼミ」、「○○教授」という言葉が

聞こえてきたので

大学生だと考えられるが

彼らの送っている学生生活は

耀のそれとはおよそ違うだろう。

 

 

耀の通っている大学は

世間一般的には一流校で

金持ちの子弟が多く入ると思われているが

多数派がいる所には必ず少数派がいる。

 

 

地方出身者で

なまじ頭が良かったばかりに

ぜひ東京の有名大学をと思ったものの

真の金持ちのエリートとの

格差を思い知らされ

肩身の狭い思いに悩まされるものなのだ。

 

 

その典型的な例が

キャンパス内の学生食堂。

学食といっても

赤い屋根が人目をひく

二階建てテラス式のモダンな外観の建物だ。

 

 

 

 

一階はセルフサービス式で

モーニングやランチが

手ごろな値段で食べられる。

 

 

二階は一階よりはやや値段が高めだが

気軽に洋食を味わえるレストランだ。

張り出したオープンテラスでは

お茶も楽しめる。

 

 

 

朝8時半から夜9時まで開いているが

多くの生徒がここで昼食をとるため

昼時にはかなりの人数が殺到する。

 

 

初めて訪れた人は近くまで来て

もうひとつ別の地下への入り口が

目立たぬように存在することに気がつく。

 


 

UnsplashBenoît Deschasaux

 

 

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「ねえ、こういうのどう思う?」

「え?」

 

 

女はビニールのテーブルクロスの下に

はさんである店のPR用の新聞記事コピーを

派手なネイルで指差した。

 

 

「ラーメン店の奨学生だって」

遠慮のない言いぐさに

男はあわてて周囲をうかがったが

誰も二人の会話に

耳を傾けている様子はなかった。

 

 

おそろいの茶色のエプロンをつけた

学生アルバイトが数人

店内で働いている。

 

 

 

「香福」新宿店は

都内でも行列の出来るラーメン店として有名だ。

 

 

お昼のかき入れ時には

目まぐるしい混雑ぶりだった店内も

ピークを過ぎた2時となると

さすがに客足は落ち着いてきた。

 

 

「香福」の本店はN市にあり

地元には10店舗

ここ数年で関東方面へ相次いで

4店出店しているが

新宿店はその中でも

先がけとなった第一号店である。

 

 

新聞記事のコピーによると

「『香福』は君たちの東京での

学生生活を応援しています」

という見出しで始まって

 

 

「学生寮は完備、昼間は大学

夜は気心の知れた仲間と

アルバイトで生活費をかせぎ

安心して大学に通えます」

と続いている。

 

 

店側としても同郷出身で固めていると

スタッフのチームワークもよく

家庭的な雰囲気が出せるし

郷土の若者の人材育成にも

一役かっているという

イメージアップにもつながる。

 

 

どこかの店で写したものと思われる写真には

思い思いにポーズをとった従業員が

にっこり笑って収まっている。

 

 

「・・・・・さんの大学にはいないわよね」

女は小首をかしげ男の目を見て笑った。

「だって金持ちのボンボンが多いので

有名だものね」

 

 

「ああ、どうかな。

でも、そんなことよりさ、どう?

ここのラーメン美味しいだろう」

「うん、そうね。美味しい」

女は興味がなさそうにポツンと言った。

 

 

「よかった。

いつも気取ったところばかりだったから

たまにはこういうところも

いいんじゃないかなと思って」

 

UnsplashNancy Ingersoll

 

 

二人は「香福」でしか味わえない

水晶ラーメンをゆっくりと食した。

中の芯だけ残して外側が透明な麺と

透きとおったスープの水晶ラーメン。

 

 

こくがあるのにあっさりした

スープの味は人気で

テレビや雑誌で幾度となく紹介されていた。

二人はスープも残さず

最後まで飲み干した。

 

 

「でも今度はやっぱり

イタリアンやフレンチの店が良いな。

あの予約が取れない店とかいいんじゃない。

…さんだったらきっと取れるわよね」

 

 

先に表に出た女は

所在無さげに小ぶりのバッグを

回しながら待っていた。

 

 

男はレジで支払いをすませながら

顔をそむけてそっとつぶやいた。

 

 

「悪かったね

僕もこの店の奨学生なんだよ」