
UnsplashのBenoît Deschasaux
月・木・土に投稿予定です
「ねえ、こういうのどう思う?」
「え?」
女はビニールのテーブルクロスの下に
はさんである店のPR用の新聞記事コピーを
派手なネイルで指差した。
「ラーメン店の奨学生だって」
遠慮のない言いぐさに
男はあわてて周囲をうかがったが
誰も二人の会話に
耳を傾けている様子はなかった。
おそろいの茶色のエプロンをつけた
学生アルバイトが数人
店内で働いている。

「香福」新宿店は
都内でも行列の出来るラーメン店として有名だ。
お昼のかき入れ時には
目まぐるしい混雑ぶりだった店内も
ピークを過ぎた2時となると
さすがに客足は落ち着いてきた。
「香福」の本店はN市にあり
地元には10店舗
ここ数年で関東方面へ相次いで
4店出店しているが
新宿店はその中でも
先がけとなった第一号店である。
新聞記事のコピーによると
「『香福』は君たちの東京での
学生生活を応援しています」
という見出しで始まって
「学生寮は完備、昼間は大学
夜は気心の知れた仲間と
アルバイトで生活費をかせぎ
安心して大学に通えます」
と続いている。
店側としても同郷出身で固めていると
スタッフのチームワークもよく
家庭的な雰囲気が出せるし
郷土の若者の人材育成にも
一役かっているという
イメージアップにもつながる。
どこかの店で写したものと思われる写真には
思い思いにポーズをとった従業員が
にっこり笑って収まっている。
「・・・・・さんの大学にはいないわよね」
女は小首をかしげ男の目を見て笑った。
「だって金持ちのボンボンが多いので
有名だものね」
「ああ、どうかな。
でも、そんなことよりさ、どう?
ここのラーメン美味しいだろう」
「うん、そうね。美味しい」
女は興味がなさそうにポツンと言った。
「よかった。
いつも気取ったところばかりだったから
たまにはこういうところも
いいんじゃないかなと思って」

UnsplashのNancy Ingersoll
二人は「香福」でしか味わえない
水晶ラーメンをゆっくりと食した。
中の芯だけ残して外側が透明な麺と
透きとおったスープの水晶ラーメン。
こくがあるのにあっさりした
スープの味は人気で
テレビや雑誌で幾度となく紹介されていた。
二人はスープも残さず
最後まで飲み干した。
「でも今度はやっぱり
イタリアンやフレンチの店が良いな。
あの予約が取れない店とかいいんじゃない。
…さんだったらきっと取れるわよね」
先に表に出た女は
所在無さげに小ぶりのバッグを
回しながら待っていた。
男はレジで支払いをすませながら
顔をそむけてそっとつぶやいた。
「悪かったね
僕もこの店の奨学生なんだよ」