月・木・土に投稿予定です飛び出すハート

 

 

ずいぶんとお久しぶりになりました。

 

天国と地獄 15 燻り出し事件 の続きです

 

 

 

「ちょっと私の部屋まで来てくれないか」

所長が耀に声をかけた。

 

 

所長が自分ひとりを

名指しで呼ぶなんてことは珍しい。

何事だろうと緊張しながら

所長の部屋へ向かった。

 

 

 

「君は事務所に入って

一年近くになるけれども

仕事には慣れましたか」

所長は一対一で向き合っているのに

視線を合わさずにぽつりと言った。

 

 

 

「最近、職場の雰囲気があまりよくない。

ぎくしゃくしているのは

君もわかっているね」

 

 

 

「そうですね」と耀は返事したが

内心では自分には関係ないし

空気を悪くしているのは

日和田が入ってからの鰐口のふるまいのせいだ

と思っていた。

 

 

年長者の鰐口を指導できるのは

所長しかいないのに。

 

 

UnsplashFrancesco Liotti


 

「ちょっとこのことについて

君も考えてみてくれないか」

と言われたが、耀は何を考えるのか

なぜ自分が呼ばれたのかもわからない。

 

 

所長は口下手だし

訥々としたしゃべり方をする。

税理士として開業しているのは

すごいと思うのだが

人間関係の調整などは得意ではない。

 

 

日和田も「結局、所長は自分を

採用はしたが守ってくれない」

と不満を口にしていた。

 

 

一体、鰐口は所長に

何を吹き込んだのだろうかと

耀は疑問に思った。

 

 

鰐口は後輩たちには威張り散らしている一方で

所長のご機嫌伺いやヨイショは驚くほどとうまい。

 

 

 

心当たりがあるとすれば

それは最近持ち上がった

事務所の鍵問題だ。

 

 

事務所はマンションの一室を利用している。

玄関の鍵は全部で三つある。

一つは所長が持ち

一つは年長者の鰐口が管理し

もう一つは予備の鍵となっている。

 

 

この予備の鍵は

残業などで遅くなる人が

所長の承諾を得て貸し出すルールになっていた。

その予備の鍵がどうやら

行方不明になったらしい。

 

 

耀の席から離れたところで

鰐口は「鍵がない」と中島と日和田に

切羽詰まった表情で訴えていた。

 

 

二人は、どう反応したらいいものか

困惑したような顔で立ち尽くしていた。

 

(たいした演技力だ)と

耀は内心で舌を巻いた。

(まさか、この鍵の紛失を

自分のせいにしようとでも言うつもりだろうか)

 

耀には、これが鰐口の

自作自演のお芝居であることは

明白に思えた。

 

 

急に事務所の燻蒸を思いついて

実行した時や

日和田の休日出勤に付き合った裏で

彼に関する嘘を周囲に吹聴した一件と

まったく同じ類のものだ。

 

 

 

鰐口はこの鍵紛失の件を所長に報告し

もう一つ予備の鍵を作ってもらったらしい。

 

 

 

 

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昨日の大河ドラマ『べらぼう』

ラスト近く謎の展開で???となりました。

さて、続きはどうなるのか

来週が楽しみです。

 

 

これまで日曜の大河ドラマで完走したのは

前作の『光る君へ』だけでしたが

今の『べらぼう』もそれに続き

2作目の完走となりそうです。

 

 

中途半端なところで

連載止まってしまいましたが

私用で多忙のためブログ投稿は

10日~2週間ほどお休みします。

 

 

 
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結局鰐口は

耀を裏切ってすり寄ってきた日和田を

受け入れた。

耀と日和田二人を同時に相手にするのは大変だし

 二人が分裂したのならその方がいい。

話に乗るのが得策だと判断したのだろう。

 

 

相変わらず、耀と日和田は残業が多いが

以前のように雑談をしたり

わからないところを訊ねたりといった

親しく口をきくことはなくなった。

机は向かい合わせだが

二人とも無言の行を貫いている。

 

 

 

耀が珍しく早く帰るときがあったが

ふと不安が頭をよぎった。

 

 

他の事務所で職員同士がいがみ合っていて

嫌がらせにより

顧客データを全て消去されたという

話を聞いていたからだ。

 

 

我が身に置き換えて

想像するだけでゾッとする。

 

 

 

特に鰐口は意味もなく残業するし

誰もいない状況で

何を企むか知れたものではない。

 

 

それで、耀は自分の

顧客データファイルのパスワードを

急いで複雑なものに変更し

(通常は自分の名前にしている)

シャットダウンし、事務所を後にした。

 

 

 

 

 

翌日、鰐口は

「誰かさんは人を信用できないんだな~」

と大声で、耀に向かって当てつけるように言った。

中島に話しかけている体だったが

もちろん耀への皮肉だ。

 

 

 

やはり、自分が帰った後で

ファイルを覗こうとしたのだ。

緊急時でもなければ

時間外に担当者以外が

顧客対応をすることはない。

 

 

第六感でパスワードを変えておいたのは

正解だったが

鰐口はファイルを開いて

一体何をするつもりだったのだろう。

 

 

 

鰐口の行動は日増しにエスカレートして

馬鹿げていった。

 

 

その日、耀は残業するつもりだった。

 

 

耀を除く全員が固まって話していたので

何かあるのだろうとは思ってはいた。

しかし定時になると皆いっせいに帰り支度を始め

各自のパソコンやコピー機を新聞紙で覆い

火災報知器にもカバーをかけ始めた。

 

 

耀が「おやっ」と思う間もなく

鰐口が燻煙材を室内中央にセットする。

燻蒸を始めるつもりだ。

事務所に来て初めての出来事。

これは、鰐口が言い出したに違いない。

 

 

 

 

鰐口がマッチを擦って点火すると

煙がもくもくと上がり始めた。

 

 

鰐口は立ち去り際

「早く出ないと始まるぞ!」

と大声で怒鳴る。

 

 

「今さら」という気持ちだ。

「なぜ事前に言わなかった」と問うのは

これが嫌がらせなのだから愚問だろう。

 

 

もはや考える暇もなく

仕方なくパソコンをシャットダウンし

新聞紙を掛け、急いで荷物をまとめて

オフィスを出た。