耀と浩は道順を教えてもらい

夜市に向かって歩いて行った。

 

途中の小さな路地から三々五々合流して

通りはしだいに人が増えてきた。

 

 

ゆるゆると移動していくと

じきに目が覚めるような

眩しいオレンジ色の広場が見えてきた。

 

 

これが噂に聞く南関の夜市なのか。

耀は内心声を上げた。

 

 

 

喧騒の中に店舗が並び

いたるところで

客寄せの声があがり

大勢の人で賑わっている。

耀と浩は興奮して

きょろきょろと見まわしていた。

 

 

「どうしよう?かなり広いね」

 

 

夜市は伯父から渡されたメモによると

九鬼との接触可能性のある

ポイントになっている。

 

 

九鬼本人が目の前に現れるのか

使いの者がメッセージをよこすのか

露天商に紛れて

こちらの出方を伺っているのか

それはわからない。

 

 

「二手に分かれよう」

 

中は格子状の通路になっている。

 

「浩は右端から

僕は左端から当たっていくので

真ん中で落ち合うことにしよう」

 

 

そうして耀が歩き出した途端

困ったことに、どちらを向いても果物売りの

ブースが目に飛び込んでくる。

 

 

まるで耀の胸のうちを見透かし

あざ笑っているかのようだ。

 

 

派手な電飾に縁取られたガラス貼りのブース。

その中にいる若い女性たちは

ベアトップのワンピースやミニスカートなど

おおむね露出度の高い格好をしている。

彼女たちは文字どおり店の看板娘だ。

 

 

興味なさそうにただ立っているだけの娘もいるが

ほとんどの娘は音楽に合わせて

思い思いに体を揺らしたり

ダンスを踊ったりしている。

 

 

そして時おり目の合った客

気のありそうな客に

身振り手振りで何かのサインを送っているようだ。

 

 

果物売りというのは表向きにすぎないと

はっきりわかる。

 

 

買いにおいで 買いにおいで

リンゴにマルメロ

レモンにオレンジ

まんまる つやつや サクランボ

メロンにラズベリー

娘のほっぺみたいな桃

 

  「ゴブリンマーケット」  

  クリスティナ・ロセッティ /濱田さち訳

 

 

「果物売りの娘たちには気をつけて。

彼女たちはぼったくりだからね。

 

 

果物売りの娘たちは

下着が見えそうなミニスカートや

シースルーの格好をしていて

そのせいか果物には

法外な値段がつけられている。

 

 

その値段のからくりや

核心部分については

風の噂で聞いただけでわからない。

 

 

「つまりこういう事なんだ」

馬田が身を乗り出して言う。

 

 

「価格というのはあって無いようなもの。

需要と供給のバランスから成り立っている。

 

 

例えばここに小さな一皿の

ラズベリーがあるとするだろう。

 

 

これをおばさんが売っていると五百円。

同じものを若い娘が売っていると千円だ。

さらに女の子がミニスカートだと二千円。

透け透けの服を着ていると三千円。

だんだん高くなっていく。

 

 

 

三千円。

こんなちっぽけなラズベリーがだよっ。

 

 

そしてますますエスカレートしていって

最終的にどうなるかというと」

 

あっけにとられている耀と浩を見て

にやにやしながら馬田は言った。

 

 

「行きつく先は箱買いさ。

全くこんなもの大量に買って

どうするつもりと思うんだが

これをウン万円出しても

惜しくないっていう輩がいるんだよ。

さて、どういうことだろう?

 

 

それには大きな秘密がある。

一箱気前よくドンと買っちゃうと

『奥へどうぞ』と別の部屋へ案内される。

 

 

そしてそこから先は(にんまりと笑って)

夢の世界に突入さ。

あとは君たちの想像にお任せする」


 

 

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耀と浩が昼過ぎに家を出発し

車を走らせ南関に到着したのは

もう日暮れと言っていい時刻だった。

 

 

山の中腹から見下ろすと南関はまさに谷間の町。

町全体が蜃気楼のようにおぼろげにかすみ

色を失った白い空の下に引きこもっていた。

 

 

二人は宿を決めずに出てきたので

最初に目にした町はずれのログハウス風の宿

「五山荘」に飛び込んだ。

 

Photo by Roger Starnes Sr on Unsplash

 

これがなかなかの当たりだった。

 

 

木のステップを上りドアベルを鳴らすと

ふくよかで愛想のいい女主人が出迎えた。

明るい吹き抜けの玄関ホールには

清々しい木の香りが漂っている。

 

 

二階建てで宿泊ルームが四部屋

住宅を改造したような簡素な作りだった。

 

 

 

客は耀と浩、それにもう一人

薬の営業マンの馬田

という男の三人だったので

それぞれ一部屋ずつ

使わせてもらうことにした。

 

 

遅い時間にチェックインした三人に

「夜市」を勧めたのは、女主人だった。

夕食を用意できない代わりにと言って

ダイニングでお茶をふるまってくれた。

 

Image by Jill Wellington from Pixabay  

 

「人出が多くて賑やかだし

いい気晴らしになるわ。

この先の通りをしばらく行き

アーケードを抜けた先の広場で

朝早くから夜遅くまで市場が開いているの。

 

 

遠くから観光客がやって来るほどこの辺じゃ

大きな市よ。でもね」

と女主人は急に声のトーンを落とした。

 

 

果物売りの娘たちには気をつけて。

見ているだけならいいけど

彼女たちはぼったくりだからね

 

 

「それに最近、当局も何かとうるさい」

馬田がすかさず興味津々の様子で乗り出してきた。

「以前より取り締まりが厳しくなったみたいだ」

 

 

「その話」かと、耀は内心うんざりした。

言われなくても知っている。

 

 

南関は田舎町だが

隠れた名物というか

風変りな呼びものがある。

 

 

夜市の果物売りの娘たちだ。

 

娘たちは下着が見えそうなミニスカートや

シースルーの格好をしていて

そのせいか果物には

法外な値段がつけられているのだとか。

 

 

Image by Julian Hacker from Pixabay

 

 

2022年の記事を編集しての

再投稿になります。

以前の記事は少しずつ

非表示にしていきます

 

 

 

 

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