Photo by Zhipeng Ya on Unsplash

 

 

あの時だってそうだった

 

そこまで言って伯父ははっと口をつぐんだ。

場が凍り付いた。

 

あの時。

 

あの時っていつのこと?

 

耀はふと思いついた恐ろしい想像で

口がきけなくなった。

 

伯父は青ざめた顔で弱々しい微笑を浮かべた。

 

 

「行くも行かないもお前たちの自由だ。

お前たちが判断してくれ」

 

 

耀はためらうことはなかった。

「罠だという可能性はある。

だけど、やってみなければわからない。

というか、もうやるしかないんじゃないの。

まだ打つ手は残っているんだから

あきらめるのは早いよ」

 

 

「そうだよ。

僕らが取り戻しに行ってくるから

おじさんは中華街で店を守っていて」

浩もすかさず請け合った。

 

 

「そうか。頼んでもいいか。

いまさら頼めた義理ではないが

あの男を追って取り戻してきてくれるのか」

 

 

「もちろんだよ」耀は大きくうなずいた。

「心配することないよ。任せておいて。

おじさん」

 

 

伯父の前で力強く言い切ったものの

耀は内心不安だった。

はたしてこれだけの情報で一週間以内

に九鬼の消息がつかめるのだろうか。

 

 

あの神出鬼没でつかみどころのない男の事だ。

そう簡単にはいかないだろう。

しかも探しあてるだけではない。

対面して直談判までしなければならない。

 

 

今までまともに目を合わせたことも

口をきいたこともないというのに。

 

 

 

2022年の記事を編集しての

再投稿になります。

以前の記事は少しずつ

非表示にしていきます

 

 

 

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南関。 

 

その名を聞いて、耀と浩は顔を見合わせた。 

 

そこは、古くから街道の南の関所が

置かれていたことから

「南関(なんかん)」と呼ばれている。 

 

山あいの小さな田舎町ではあるが

隠れた名物や珍しい自然現象が

見られる地でもある。

 

 

盆地特有の地形で

秋から冬にかけては濃い白霧が発生し

強い風が吹くと

川に沿って霧が一気に流れ出す。

 

 

その様子は、まるで白い龍が

山々の間を疾走しているかのようだという。

 

 

 これが九鬼の言うところの

「5番目の龍」なのだろう。 

 

 

夏でも、雨上がりの日や

よく冷え込んだ朝には

街は数時間にわたり深い霧の底に沈む。

 

 

 そんな幻想的な夏

夜ごと開かれる夜市には

客を惑わす「誘惑の果物売り」が現れる。

 

 

 

 

「九鬼が言った居場所のヒント

というのはこれだ」

百雄伯父は一片の紙を見せた。

 

やはり南関ならでは「夜市」の文字がある。

 

的屋、香具師と裏でつながっているのは

いかにも九鬼らしい商売のやり方だ。 

 

「九鬼は一人ではなく

二人いっしょにと念を押したが

こんな話にみすみす乗れるわけがない。

 

 

二人を南関にやれば

どんな危険が待ち受けているかわからない。

九鬼のやる事だ。

必ず何か裏があるに決まっている。

そうに決まっている。

あの時だってそうだった」

 

 

あの時。

 

あの時っていつのこと?

 

耀はふと思いついた恐ろしい想像で

口がきけなくなった。

 

 

 

 

 

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4番目があったのに

近くまで行きながら耀と浩はそれに気づかず

みすみす見逃した。

 

 

「それであらためて

九鬼は条件を出しに来たんだ」

と百雄伯父は言った。

 

提示された条件は次のようなものだった。

 

 

 

自分はこれからちょっとした用事があって

しばらく他所へと行かねばならない。

 

 

旅の途中で見つけて気に入って

第二の活動拠点にしている南関という

山あいの小さな町だ。

車で二時間ほど南に下った所にある。

 

 

そこに大事な書類も持っていく。

もちろん借用書もだ。

もし借金の件、撤回してほしいというのなら

南関まで取り戻しに来るがいい。

わざわざ来ていただけるというのなら

こちらも話し合いに応じるつもりだ。

 

 

 

 

南関。 

 

その名を聞いて、耀と浩は顔を見合わせた。 

そこは、古くから街道の関所が

置かれていたことから

「南関(なんかん)」と呼ばれている。 

 

山あいの小さな田舎町ではあるが

隠れた名物や珍しい自然現象が

見られる地でもある。

 

 

 

 

月日の移り変わりは速い。

この店もあと数年もすれば

大将は引退し世代交代する。

 

 

どうだろう。

二人の若い衆を交渉の場によこすというのは。

 

どれほどの器なのか、その度量を私が

判断してやろうじゃないか。

 

居場所についてはヒントを出すが

あえて教えない。

 

南関に着いてから一週間以内に

私を探し出すことができたならば

交渉のテーブルに着こう。

 

度胸試し、知恵試しだ。

悪くはない紳士的な申し出だと思うけどね―

 

 

 

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