第三十三話 二人・優希にとっての至高存在
天空船。
そこに二人はいた。
二人のうち、男性の方、優希は決心を、にぶらせていた。
史奈子に言いたいことがある。
しかしそういう空気じゃない。
「あの時は、ユウちゃん、死ぬかと思ってびっくりしたよー」
何気ない普通の会話が続く。
違う言いたいのはそうじゃない。
「初めて会った時のこと、覚えている?」
不意に史奈子が疑問を投げかけた。
「金髪が珍しい、ってことで一緒に悩んだよね」
「あの時の疑問は、まだ解決していないね」
「そう?僕の中では解決しているよ」
きっと君がどこにいても、ボクが見つけやすいように。
金色に輝く、君をボクが見つけるために。
だが、その言葉は発せられない。
恥ずかしい。
心で思えれれば、それでいい。
史奈子もそれを追求することは言わなかった。
良い答えが優希の中で見つかっている。
表情を見ればわかる。
でも、ちょっとした、いたずら心が、にょっきり芽を出す。
「ユウちゃんはいつから私のこと好きになったの?」
「え」
いつからだろう。
思い出すのに少々時間を要した。
「砂場」
「桜の強制」
「気付いたのはあの時」
「でも、本当はいつから?」
史奈子も反応する。
「私も気付いたのは砂場」
「でも、いつから好きになったのかはわからない」
しばし沈黙。
いつから好きになっていたか。
二人には分からなかった。
「占ってみよう」
どこからかトランプを取り出す。
簡単な前置きがあり、本格的な占い―――まあ遊びの範囲での本格的だが―――を始める。
「む」
「なんて出た?」
「生まれてから、すぐ」
「知らないって、お互い」
笑いが起こる。
笑いながらも、そうであれと二人は思った。
生まれてから、すぐ、赤い糸で結ばれていたのだと。
いや、生まれる前から決まっていたのだと。
「結婚しよう」
唐突だった。
優希の発言。
「ユウちゃん…?」
「もう僕には時間がない、多分、ボクは」
その先は言葉にできなかった。
言ってしまえば本当になる。
言わなければ、まだ望みはあるかも知れない。
しかし、それは出来ないこと。
世界を敵に回している優希には、おそらく生きる術はない。
多分、いや、必ず、優希は、
死ぬ。
だから最期に、好きな人と、絆がほしかった。
これは優希のわがままだ。
死んでしまう人間より、生きる人間の方が何倍も辛い。
それを、最も愛する人に強いるのだ。
でも、そこは算段がある。
史奈子が辛くならないように、考えはある。
「うん」
史奈子は了承した。
そこで優希は気付いた。
「ああ、ドレスもケーキもない」
「いいよ、そんなの」
「私は、あなたさえいれば良い」
「ボクも君が好きだ」
二人は、
おごそかに、
静かに、
唇を、重ねた。
「たとえ世界が敵でも、君―――史奈子―――さえ味方なら、ボクは立ち上がれるんだ」
いつか、こんな日が来るなんて、
その言葉が本当になるなんて、
思ってもいなかった。
でも、ボクは君を愛している。
世界よりも、
ただ君のために。
「ニア」
「分かった」
世界に雪が降る。
静かな、
静寂を、
怒りに狂った世界に、
安らぎを。
世界の人々から、優希の記憶が消し去られた。
ニアのプロパティの書き換えが実行されたのだ。
そうしなければ、運命の時まで生き残れない。
たとえそこまで生きても、悪魔に殺されるかも知れない。
でも、実行しなければいけなかった。
運命を、ゲームを終わらせるために。
「ここって、見晴らしいですね」
史奈子。
「ええ、天空船なんですよ、空を飛ぶ」
優希。
「地上が懐かしいです」
「しばらくすれば、降りられます。それまで雑談でもしませんか」
「?」
史奈子がこちらを見たまま止まった。
何か、疑問を顔に浮かべている。
「何で……」
ゆっくりと、
「なんで泣いているんですか」
「私、なんで泣いているんですか?」
「―――っ」
答えたかった。
でも、それはいけないこと。
二人の絆はもう何もないのだから。
天空船は、静かに大地へと向かった。
史奈子を降ろした後、再び天空船は空に舞う。
優希に関する記憶を世界の人々から奪ったとはいえ、この星の危機が去ったわけではない。
悪魔は来襲する。
優希は、たった一人で世界を守ろうとしている。
すでに世界には、彼の仲間は二人しかいない。
ニアと、
天空船。
そのどちらもが、戦えない。
一人は、存在が不確定で、もう一人は意志を持つとはいえ、ただの魔力増幅器だ。
無数の悪魔に対抗するは、
たった一人の少年だ。
本番といわれた時は、確実に迫っていた。
