ONCE MAGIMAGI -3ページ目

第三十五話 参戦・希望と絶望よ

「我が名は死」

黒い羽根のある美形な悪魔四天王だった。

スピードは遅いが空かして当たった地面が砕ける。

優希は必死で攻撃をかわしていた。

おそらく一発でも貰えば、もう二度と立てない。

「きゃきゃきゃ、我は惨なり」

体中に毛を生やした悪魔が右手を上げた。

いきなり優希の周囲にオリができる。

動けない。

「私は痛」

女悪魔だった。

ゆっくりした動作ながら、移動速度が並じゃない。

一瞬で優希との間合いを詰められる。

「偉血、どうするの、終わりよ」

偉血といわれた悪魔がゆっくりと天空船に降り立つ。

「あっけないな」

「親父ぃ」

ニアが叫んだ。

「この書き換えをやめろ」

そういえば先ほどから、ニアの動きが忙しない。

何かを必死で拒絶しているのが優希にも分かった。

「ニア?」

「こいつ、先程からとんでもない速さでプロパティを書き換えて、優希を殺そうとしている」

「だが意味がないな、プロパティの書き換えをせずとも、物理的に殺せば」

世界が終る。

「くそ、このままじゃ」

「くそ、くそっ」

「絶望を胸に、砕け散れ、人間!」

四人が四人、魔法に集中する。

四方を囲まれているのと、先ほどのオリで動きがとれない。

動けたとしても、先ほどからの連戦で筋肉がどうにかなっている。

死ぬ。

頼みのニアも動けない。

天空船は他の悪魔を牽制している。

「―――もう」


だめだ。

でもそれは口にしない。

言葉は力を持つ。

一度行ってしまった言葉は、自分を強制する。

だから、優希は言った。


「これからだ」


「その通りですわ」

「だ」

天空から、天空船のさらに遙か上空から、二人にの戦士が舞い降りた。

「キャンセル」

「アーンド、吹っ飛べ」

閃光。

四天王が放とうとした、魔法はすべてキャンセルされ、さらに強烈な全方向魔法がさく裂した。

「ぬう」

「愛ちゃん、魔人!」

まだだ。

巨大な黒い影が、美形悪魔をさらった。

「一人は俺がいただく」

「ほう、僕とやろうってのかい、死をつかさどる、この僕を」

しかし決着は一瞬だった。

「ふん、俺は貴様が行く先、冥府をつかさどるものだ!!!」

大きな影は、軽く死を空高くに舞いあげた。

「火!」

「一万度の熱球、食らって死ね」

巨大な火球が死を襲う。

「ぐああああ」

「やったよ、ダーリンほめてほめてーっ」

「火さん……」

巨大な影は番長だった。

冥府四天王もそろっている。

もちろん、風だけは姿が見えなかったが、透明になって戦っているのだろう。

水はペットボトルの水を剣に変えて戦っていた。

地は地面から―――天空船の上だが庭園などに土はある―――大砲を作り出して悪魔を迎撃していた。

「よく、頑張ったな、優希」

最近見ていなかった、親友が声をかける。

「魔人、お前、俺をサポートしろ」

「命令するな、魔法も使えないくせに」

「はっはっは」

桜は、惨を引き連れ距離をとる。

「希望を絶望色に染めてちょれ、人間」

散れと言いたいのだろう。

しかし散ったのは毛もじゃだった。

桜が連続して拳と蹴りを決める。

距離があけば、魔人が追撃をかけた。

「…ばかなバカな馬鹿な」

「馬鹿なーっ!死ねっちょ、千尋のオリ!!!」

「キャンセルですわ」

愛子のフォローで魔法が発動しない。

「きゃきゃ、だがお前、金髪、魔法使えないのだろう、聞いていた…」

言葉は最後まで続かなかった。

毛もじゃは巨大な魔力の奔流にのまれ消える。

「太陽砲」

「なに、命がけなら出来ないことなどない」

「ニア!?これは…」

「あのプロパティの書き換え―――優希の記憶を皆から消す―――は、この日まで生き残るために意味があった。今日になってしまえばもう意味はない。解除したよ」

息を切らしながらの説明。

偉血からのプロパティ変換は続いているらしい。

「そのとおり、世界中の皆の期待を胸に」

それは珍しい光景だった。

確かこの学園に入学するときに一度だけ見た光景。

「オリンポス十二神、降臨っ!!!」

「会長!!!」

「暫定だけどね、これが終わったら、もう一度占拠だよ、優希、私の弟よ!!!」

「ウェヌス」

「はい」

ウェヌスが優希に駆け寄り、回復魔法をかける。

「優希は私が守る」

「姉さん、無事で」

「ゆーちゃんこそ、よく頑張った、姉さん誇らし!」

「私も及ばずながら、助勢しますわー」

間延びした声。

よく部活で聞いていた、

「先輩」

沙由理だ。

部活動の先輩。

「私も三位の十二神、やるよー」

言葉がゆっくりなので、行動もゆっくりだと、優希は先入観を持っていた。

そしてその感覚は見事に外れる。

「言葉がトロイんだよ」

痛だ。

しかしあの神速に見えた痛の動きを、沙由理の一見ゆっくりな攻撃は的を得たようにヒットした。

「!?」

戦っている痛には、何か魔法が掛けられたかのように感じただろう。

しかし、魔法でも何でもなく、一撃一撃が痛を襲う。

ケンカ殺法。

日ごろの鍛練がもの云う、殺法だった。

そういえば、父親がケンカで覚えた拳法を、毎日習っていると、風の噂に聞いたことがあることを思い出す。

その時は冗談だと思っていたが、こう間近で見せつけられると否定ができなくなる。

それほど沙由理は強かった。

「大地の力を皆に」

誰かの魔法だ。

力が底上げされるよう感じた。

「ケレスはんやるー」

なんか隠れているのが二人ほどいる。

一人はメルクリウスだ。

なんかボソボソ言って皆に指示を出しているようだ。

メルクリウスの本分は伝令、統率を取ることにある、と前、桜が言っていたような。

もう一人はおそらくバッカス。

小太りのおっさんだ。

戦闘じゃなく、むしろ平和な時にその本分を発揮する十二神。

何しに来たんだろう。

失礼な言い方だったが、茶々を入れながらも、メルクリウスと共に戦場を分析しているようだった。

優希の周りには、もう一人の女性が援護に回ってきた。

弓で牽制している。

たしか、狩猟の神ディアナ。

学祭で史奈子をさらっていった御人だ。

その他、生徒会長占拠等で戦った面々が今は味方してくれていた。

「ぐはっ」

「今だ!」

痛が怯んだところを、ウルカヌスが斬った。

これで残るは偉血のみ。

だが、怯まない。

他の悪魔が無数にいることが彼を後押ししているのかと思われたが。

「ザコが」

偉血を中心に爆発が起こる。

「だめ、キャンセルしきれませんっ!!!」

閃光。


その爆風は、天空船の三分の一を焼き払った。

航行能力を失ったのか、天空船がゆっくりと落ち始めた。

「がは、体が動かない」

二十一人の戦士たちが皆倒れていた。

一撃。

たったその一撃が百年拷問を受けたに等しいダメージを皆に与えた。

「お前らも生き返れ」

偉血が手を振りかざした。

跡方さえなくなっていた、三人の悪魔四天王が、まったくなんのダメージを受けた様子もなく復活した。

「これが、プロパティの書き換え……」

「桁が違いすぎる…」


絶望はまだ終わったわけじゃない。


かつての強敵達