第三十四話 孤独・たった一人の最終戦争
「今何時っ!?」
言い方が少し強くなる。
息が切れる。
疲れが大きい。
「ああ、いよいよ運命の日だ」
「二月二十九日、〇時五分、二十四時間を切った」
天空船では、死闘が繰り広げられていた。
死闘。
文字通り、命を懸けた戦いだ。
悪魔が来襲していた。
正確には二日前、二月二十七日から死闘は始まっていた。
遠い五百光年向こうの世界から、やってきた悪魔。
その先陣は、五十時間近くもフライングをした。
最初は、まばらだった悪魔も、今やもう天を全て埋め尽くさんとしていた。
「一体何人いるの?」
聞いてみたいような、聞きたくないような質問をニアにぶつける。
「三無量大数くらいか?」
無量大数が数の単位で使われているのを初めて聞く。
「くそ」
一匹の悪魔が優希に襲いかかる。
攻撃をかわし、必殺の一撃をぶつける。
数は多いが、十二神のマルスのように統制がとれているわけではなく、また、一人ひとりは会長ほどバカげた力を持っていない。
たまに、一撃では葬れない強敵も存在するが、今の時点では、そう脅威ではなかった。
怖いのは、徐々に力のある悪魔が存在し始めていること。
強い悪魔が時間が経つにつれ増えてきている。
このまま、時間が経てばさらに強い悪魔がが来るかもしれない。
そうなれば終わりだ。
「まだ、あいつらが来ていない」
「あいつら?」
光弾で悪魔を牽制しながら、ニアの話に耳を傾ける。
この戦いでは情報も重要だ。
「悪魔四天王」
その名は、半月前ほどにニアからの敵情報というのを聞いて知っていた。
「確か、その四天王のさらにトップがボクのプロパティの書き換えを封じているって……」
「ああ、悪魔の中では、ただ二人、プロパティの書き換えができる者だ」
もう一人はもちろんニアである。
「私の父親でもあり、元主属神だ」
光弾の弾幕をくぐり抜けて、悪魔が優希に襲いかかる。
話に集中していた優希は一瞬死角を取られた。
悪魔の攻撃に優希がうめく。
しかし優希はひるまない。
怪我をした左腕を代償に至近距離からの光弾連打。
左腕で悪魔をつかんだため、怪我の痛みがひどい。
それでも一体を倒した。
「すまない、時間が一瞬でもあれば優希の怪我を治してやれるんだが」
ニアが申し訳なさそうに言う。
連戦に次ぐ連戦に、正直体力が持つかが一番怖い。
魔力は天空船が増幅してくれているおかげで、ほぼ無尽蔵にある。
ただ、三日も戦い尽くしだと正直腹が減りそうになるかと思っていた。
トイレも行けない。
眠っていない。
しかし、戦いに集中しているせいか、そのような生理現象は不思議と深刻な問題ではなかった。
だから、疲れからくる体力不足さえなければ、何とか戦いぬけるのではないか、そう楽観視した考えが浮かばないでもなかった。
しかし、悪魔も馬鹿ではなかった。
動けない左からの攻撃が、集中し始めた。
左半身を、かばうように戦っていたら、右の足を、ひねった。
動きが鈍った。
強い悪魔がさらに襲来した。
一撃で倒せない悪魔だ。
「まずい!……まずいっ!!!」
焦りはミスを生む。
左足を、くじいた。
動くことができなくなった。
立っていても痛い。
左手は動かない。
このままではいけない。
優希は賭けに出た。
魔力放出、オールレンジ―――全方向―――攻撃だ。
光が悪魔たちを包み込む。
その光は、絶え間なく続いた悪魔の攻撃を一瞬、ほんのコンマ数秒だけ、止めた。
「ニア」
「完全回復は望めんが、せめて痛みを取る」
その刹那で優希の傷の痛みはひいた。
ただ自由には動かせなかった。
痛みはなくとも筋肉などに裂傷は残る。
物理的に動かせないのだ。
「以外と深い」
悪魔は光が収まるのを待たず襲ってきた。
今の魔力放出は、やはりリスクが大きかった。
魔力の限界が見え始めていた。
「ほう、あれがお前の娘か」
「…」
「きゃきゃきゃ、選択者の傷を治してるちょ。裏切られたー」
「……」
「まあ、われら悪魔四天王の前には人間など」
「………あなどるでない」
天空に、四人の悪魔の姿があった。
その姿は神々しくもあり、また、恐怖を体現しているようでもあった。
最強。
文字通り、不正に不正を働いた末の最強の戦士がそこにいた。
「優希!上だ」
無数の悪魔が道を開けた。
十戒のように開けた空間に、四人の悪魔が舞い降りる。
「くそ親父」
ニアが悪態をつく。
「じゃあ、あれが……」
最悪の戦士は最悪のタイミングで降臨する。
優希にとってはそうだったが、反対の立場からしてみれば、すべてが反対になる。
最強の悪魔が、天空船に降り立った。
「ゲームの始まりだ」
悪魔たちにとっては文字通りの―――ゲーム―――が開幕しようとしていた。
