第十八話 灼熱・賭けたもの
「――――――んっ」
目覚めると白い部屋。
普通の部屋との違いは、つんとした独特の匂い。
医薬品……?
ああ、ここは…
「目覚めた?」
確かこの人は、
「ウェヌスさん」
ということは、ここは病院、いや、保健室かな。
「大丈夫?初めて光子体になった人って、まず君のように倒れるの」
「例に倣ったんですね、ボク」
彼女は一瞬、あっけにとられた顔になり、それから理解し、笑う。
「フフッ、そうね、ご多分にもれず、ね」
その言葉を聞き、優希は自分が倒れた状況を思い出す。
「トーナメントは?ナデシコは?」
「撫子さん?ああ、あの女の子はそこ」
カーテンで仕切られた隣のベットで史奈子は眠っていた。
「あ―――」
「24時間、眠ってたんだよ」
考える、までもない。
「え、と、トーナメント!」
「うん、あと一時間で、君の試合。出る?」
「はいっ!」
にっこり彼女は笑う。
そして確認。
「肉体的には軽い倦怠感ぐらいで済むと思うけど、精神的には連戦てことになるわよ、ほんとに大丈夫?」
「ん、んん、大丈夫っぽいです」
「よし行ってこい、男の子!」
次の試合相手は……、
隣に立つ者がいた。
「火だな、変な名前」
それは、
「桜、君も勝ったのかい?」
「もちろん、次の相手は成績学年一番とかいうやつ」
「強敵だね」
しかし、桜は軽く、
「ザコ雑魚、SSフィールドも張れないやつさ」
「はは」
らしい会話で、らしく笑う。
小さなころから変わらない二人の関係。
ガキ大将の桜と、それにつき従う優希。
一生変わらないであろう、二人の関係。
しかし、目指す枠は一つだけ。
いずれは。
「気、つけろよ。次は準決、決勝と一日で行われるからな。ペース考えろよー」
「うん」
「さあさあさあ、やってまいりました!準決、セミファイナルー」
今日も勇ましいメルクリウスの解説が闘技場を満たす。
「対戦は、第三魔研部同士の戦い!バトゥ」
メルクリウスの前置きをバックに火と会話をする。
「火さんとは二度目だね」
優希は、ずいぶん落ち着いている自分に気づく。
三ヶ月、同じ部活で鍛えてきた仲間だ。
親しい感情も生まれてくる。
ただ、火が優希に求めている感情とは違うものだが。
鈍いというより、史奈子のことしか見ていない一途さが、優希をそういうものから遠ざけている。
まあ、当の火にはそういうところが好いらしい。女心はわからない。
「四千度の熱で、アツアツになろーね、ダーリン」
でも今どき”ダーリン”は……、まあ昔堅気の火らしいと言えばらしいが。
「アーユーレディ?」
メルクリウスのアナウンスが響き渡る。
「OK」
「もっち」
「そーれーでーはー!!!ファイ!」
「SSフィールド展開」
「ボクはDDSフィールド展開」
独特の”場”が展開される。
魔法が使用可能になる空間だ。
「光子体だ」眼鏡ニア。
「うん、こっちも」
二人の体が金に光輝く。
「互いに条件は、ほぼ一緒。あとは作戦だな。なにかあるのか?」
「なんとなく」
「くく、ま、いつもなんとなく勝っていたものな、今回もなんとなく勝て!」
「行く」
と、構えてみると、既に火は技を繰り出そうとしていた。
「太陽落とし、っくよー」
「って、デカ………いっ」
火は巨大な火球をわずかな時間で生成する。
「うむ、あれだけデカいとこの狭い闘技場だと避けきれないな」
「時縛り!時縛り!」
火球に時縛りをかける。
「あれ、あれれ?太陽動かない」
「フムあれは何の時間でも止められるのか」会長の解説が入る。
「どーいう仕組みなんでしょう、ブラックボックス?」
「おそらく、超重力場でしょう。瞬間移動の応用で、魔力で重力子を高密度に生成する。重力は時間の進み方を遅くできますから、その場に捕まってしまうと時間の進みが極端に遅くなる、それで時間が止まったように見える―――と推測されます」
「でもそんな強烈な重力場、中の人間は耐えれるのでしょうか、スズカレースタイキュー」
「ま、そこは制御の見せどころでしょう。うまいこと人の周りの時間だけ止めて人間は重力からは解放される、でも口で言うほど簡単なものじゃないですねー」
「イエス、真田選手は意外とダークホース?」
「ですねー」
会長の解説を聞き、火も時縛りを理解する。
「でも、それって無敵?」
「はは、制御間違えると地球ドッカンしそーだけどね」
「あまり疲れている時には使いたくない魔法だな」
「うん」
しかし火にはそんなこと関係ない。
「むきー、こうなったら力押し行くよ~」
「え?」
「太陽無限増殖ー」
「って、えーーー」
先ほどの太陽が何個も何個も作りだされる。
「と、時縛りっ!」
優希はその太陽一つ一つに時縛りをかける。
十二個目を縛ったところで優希は気づく。
「立つ場所が無い?」
「太陽で闘技場がいっぱいだな」
「もう一個作られたら押し出される」
優希は状況の判断を最優先で考える。
時縛りを解除するのは問題外。解除すれば十二個の太陽が優希を襲う。
だからといって、このまま最後の太陽が作り出されれば闘技場全体が太陽で埋め尽くされる。
場外負けというものは確かなかったが、それはそれ、これはこれ。
今のままでは闘技場が太陽で埋められ、立つ場所がなくなり、焼き尽くされる。
「ならば、賭ける」
「ふむ、どうする」
「時縛り解除」
タブーをあえてする。
死中に生を求める、それが作戦だ。
「ダーリン、私の勝ちよ」
ここで終わる男じゃない。
「壁、展開!」
「無理だ、四千度の熱は早々防ぎきれるものじゃない」
「三秒持てば、いい!!!」
「うおおおおおおっ」
光が、
見えた。
「後ろ!」
しかし、火に隙はない。
セオリー通り、いつも通りなら、優希は背後に現れる。
「灼熱火炎!内火焼き」
触れた者の内部から焼き尽くす、殺人技だ。
火も本気。
回復は保健室で何とかしてくれるだろう。
何としても勝つ。
その、信念の表れだ。
「火さん、ボクは女性を傷つけるのはあまり趣味じゃない。でも、でも信念のぶつかり合いに男女関係っ」
それは瞬間移動じゃなかった。
「まさか火の中をっ!?」
優希は火の中を突っ切って走った。
「走って?」
薄い盾で、四千度の熱の中を。
「ないんだっ!!!!!!!!!」
優希は叫んだ。
強く、大きく。
待合室で、ガラス張りの向こうの闘技場を眺めながら。
「でも結局、時縛りで縛って、女の子は傷つけずに終わったんだよな」眼鏡ニア。
「はは、家族がボク以外女性だからちょっと、畏敬っていうか恐怖っていうか、とにかく女性を傷つけるのはあんまり」
「お前らしいよ」
「ありがと」
試合は優希の勝ちだった。
時縛りで火の動きを止め判定勝ち。
一回戦とおなじ方法だ。
「桜、ボクは勝ったよ」
闘技場。
「ああ、俺も勝つ」
桜は聞こえるはずのない優希に応える。
準決勝。
それは魔法一番と成績一番の対決。
一年のトップ同士の戦いが始まる。
