ONCE MAGIMAGI -20ページ目

第二十話 別離・魔法の試合

「大丈夫か?」眼鏡ニア。

トーナメントは、一時中断していた。

桜が舞台を魔法で破壊したからだ。

今、魔法で急ピッチの修理がされている。

優希は待合室にいた。

「光子体には結構慣れたよ。もう倒れることは、そんなにないと思う」

しかしてその優希の答えは的を外していた。

ニアが聞いていたのは、このトーナメントが始まる前に、史奈子が言っていたことだ。

「死ぬなら次の試合だ」

そのことを優希は完全に失念していた。

「大丈夫」

根拠がニアには感じられなかった。

だから、念を押した。

「本当か?」

優希にも根拠はなかった。

ただ桜が、あの気の良い幼なじみが、自分を殺すなんて想像もできなかった。

だから答えた。

「桜だもん」

答えとしては、いささか的を外していたが説得力はあった。

運動会で見せたあの男のあの姿は、決して人を殺せるものいじゃなかった。

「そうか」

そこへ問題になっている男が現れた。

何か血相を変えている。

「やあ、桜。次は負けないよ」

しかし、桜はその言葉を聞いてはいなかった。

いつもとは雰囲気が全く違う。

桜は優希の肩をつかみ、壁に押し付けて言った。

「にげ」

言葉ではなかった。

その二文字の後に言葉は続かなかった。

急に桜の態度が変わった。

穏やかで温和な、女の子を見ている時にしか見せなかった桜の表情。

それが優希に向けられていた。

しかも何か本質的に、その表情は違うように思えた。

「桜?」

優希を女として認識している、ようでもない。

奇妙だった。

桜じゃない様だった。

「いやあ、なんでもないの、んだ」

語尾が不自然、そう思った時には桜は立ち去っていた。

「決勝で話がある、逃げるなよ」

「あ、……うん」

壁を隔てた闘技場で、メルクリウスの賑やかなアナウンスが始まろうとしていた。


「ハーイハイハイ、ハイテンションで行くぜOK?」

「いやー決勝ですね」

会長とメルクリウスの解説が入る。

「夏木選手の先ほどの太陽砲、絶大な威力でしたね、アルティマ」

「あれ食らうと流石にひとたまりも無いでしょうが、真田選手にも時縛りという無敵反則ギリギリ技があります、きまると決まりますね」

「いやいや、夏木選手にもDDSフィールド瞬間消滅があります、ワカラナーイネ」

「まあどちらが勝つにしても高レベルな魔法戦になるでしょう、楽しみです」

「話って?」

「君ではない」

明らかだった。

明らかに優希の前に立っている桜は―――外見こそは桜だが―――中身は違っていた。

「誰ですか、あなたは」

「ニアに用件がある」

優希は驚いた。

この桜もどき、ニアが優希と同一の体をもっていることを知っている。

「誰だ」眼鏡ニア。

「まあ、いわゆる主属神かな」

主属神。

プロパティの書き換えができる神。

神の中の神。

従属神と違う、神の真の資質を備えた者。

「ニア、どうするの」

もちろん主属神は悪魔であるニアの敵。

油断はできない。

しかし、

「話を聞こう」

「ニア?」

意外だった。

主属神と聞いたからには、ニアは問答無用で潰しにかかると優希は思っていた。

「話がある、と言ってきたんだ。戦いを望んでいるわけではないのだろう」

桜もどき―――主属神は確かに無防備だった。

攻撃の意思がまったく感じられない。

「話が早くて助かる。こちらも単刀直入に言おう」

空気が引き締まる。

「ニア君、君に死んでもらいたい」

「死…!?」

優希は動揺する。

「ログアウトのことだ、気にするな」

ニアのフォロー。

それでも、主属神に対する優希の敵意は簡単には消えない。

「理由を言え」

主属神は続けた。

「世界律変換、君たちがプロパティの書き換えと言っているものだが」

優希には意味が分からなかったが、ニアには衝撃的なことだったらしい。

次の言葉でニアが今までになく、うろたえた。

「優希君のそれに関して私たちは何も手を出していない」

「つまり?」眼鏡ニア。明らかにニアが動揺している。

「優希君が世界律変換を使えなくなった原因は我々は関知していない」

「プロパティの書き換えを一定数しか使えないように、有限数にしているのではないのか?有限な能力と聞いているぞ」

ニアはその考えに確信をもっていた。

だから動揺しているのだ。

「どこから仕入れた情報かは知らぬが、有限というのは『回数』ではなく『期間』で有限なのだ。10万回しか使えないではない、この一年の中なら何回でも使える、有限というのは、一年間の間しか使えない、という意味で有限なのだ」

ニアが怒鳴った。

「じゃあなんで、優希は今プロパティの書き換えができない!!!」

主属神は首を振る。

「だから、分からないのだ。我々にも誰が、それを制限してるのか」

「……」

ニアが考え始めた。

しかしその思考はすぐに終了する。

「あいつしかいない」

「やはり心当たりがあるのだな」

「…」

主属神の問いにニアは答えない。

「少し、優希とのお別れに時間をくれ」

「うむ、思うところもあるだろう、構わん」


「お別れ!?」

今度は優希が動揺する。

いきなりだ。

いきなりすぎる。

「そんな、もう少しくらいゆっくりして…」

そんな優希の言葉をニアは止める。

「前にも言ったな、一度ログアウトしてしまえば、一年は戻ってこれないと」

「じゃあもう会えないの!?」

「いや、帰ってくる。そのために今すぐログアウトするんだ、一秒が惜しい」

「帰ってくるんだね」

「私は、優希の作る世界を見とどけるために今まで存在していた。帰らなくてどうする」

少し、優希は冷静さを取り戻す。

「生き残れよ」ニア。

「生き残るよ」優希。

一息ついて、ニアが提案する。

「そうだな、何か、再会の約束をしよう」

「なにがいい?」

「優希は頼りないからな。何かはくのつくもの……」

ニアが考える。

時間がゆっくりと流れる。

ニアと別れる。

この数ヶ月のニアのことを優希は考えていた。

うれしい時も、悲しい時も、楽しい時も、たくさんあった。

ニアは優希の半身になっていた。

いなくてはならない存在。

居て当たり前の存在。

家族よりも親しい存在。

涙が。

涙がこぼれた。

ニアのこと、大好きになっている自分に優希は気づいた。

「泣くな」

「でも……」

でも、でも言葉が出ない。

言葉で語れる事ではない。

それはもっと深い………

「くそ、こんな時に語れる言葉がないや」

「それだ」

「?」

「決メ台詞を考えろ、いつでも使える、強い言葉を」

「それが約束?」

ニアが笑ったように見えた。

「ああ、その言葉が私を呼び寄せる。待ってるぞ」

「うん、作るよ―――だから、さよならじゃない」

「また」

声が重なる。

心も重なる。

全てが重なる。

そんな最後に、

「またな」

ニアはログアウト―――死んだ。


「ワシも介入者が死んでここにいる意味がなくなった。帰るか」

「主属神さん」

「そうじゃ、ワシからのプレゼントじゃ」

そう言って、主属神は情報をくれた。

「世界律変換方法は何も、ワシ等から与えた能力がすべてではない。この世界の普通の人間が普通に使うことも出来るのだ」

それって、

「誰でも出来るということですか?プロパティの書き換えを?」

「うむ、非常に難しいがの。ヒントは主の妹と弟が握っておる」

自分には妹も弟も、年下の兄弟はいない。

思い当たると言えば、優希を兄扱いをする愛子だけ。

しかしその思いつきは優希の頭になかった。

「?」

「自力で世界律変換法を実行したければ努力しなさい。優希君、主は世界で一番その頂に近いのだから」

そう言って主属神が消えた。

その場には桜だけが残った。

「桜、さあ、試合だ!」

優希の怒声。

しかし桜は顔を伏せていた。

「桜?」

魔法フィールドも張らず、ゆっくりと桜は、優希に歩み寄った。

ゆっくり。

ゆっくり。

「桜っ?」

桜は優希を、


殴った。


優希は体勢を崩す。

痛い。

しかし、分からない。

なにが。

なんで。

自分が殴られなければならない。

「桜?」

桜が顔をあげる。

泣いていた。

「桜、何を?」

「お前っ」

桜が優希を殴った。

優希の闘争心は、くじけていた。

なぜ。

「ニアさんが死んだっ!」

優希は悟った。

桜はニアが高次元の存在だと知らない。

だから、ニアが死んでしまったと、生き返れないのだと思っている。

優希はそのことを、ちゃんと伝えなきゃと思った。

「桜、ニアはこの次元の人じゃない、この世界では死なないんだ」

しかし、優希の思惑を桜は超えていた。

「ニアさんの次元ではどうだっ!」

桜は殴った。

「え?」

「ニアさんの次元では、ニアさんは死なないのかっ!!」

殴った。

「それはっ、く、死ぬかもしれない」

「ニアさんはニアさんの次元では犯罪者だ」

「悪魔っては聞いているけど…」

「この次元から出て行って、自分の次元に戻る。それの意味することが分かっているのかっ!その次元はニアさんが命を落としても仕方ないくらい危険なんだぞっ!!!」

「え?」

桜は殴った。

「おまえっ!なぜ止めなかった!!なんでっ!!!」

桜は優希を殴った。


「なんで…………俺は止められなかった」


殴った拳が痛かった。

桜は優希を殴り続けた。

優希はただ、呆然と………


それは太陽神の称号をめぐっての、魔法の試合。

決勝。


桜は殴った。



桜は殴った