第十九話 作戦・たとえ卑怯と罵られても
「兄さん」
小さなころの思い出。
僕にとって兄は英雄だった。
何をしても一番。
魔法も。
学業も。
この学園に入って男としては2番目の称号を得た。それでも―――2番でも兄は英雄だった。
1番目の人物は大法壊から世界を救い、魔法に秩序をもたらした偉大な人物の子孫。
この学園長の子供。
そんな人物と比べるほうがどうかしている。
2番でも英雄だった。
いつか追いつくはずだった。
しかし、その夢は遠のいた。
アポロの、太陽神の称号は、空位になった。
兄の称号が。
ニア。
あいつだけは許せない。
あいつだけは…
「さーてさてさて、このトーナメントもいよいよ大詰めが近づいてまいりました、アトニシアイ、ネー」
「俺は勝つぞ」
「僕も負けません」
闘技場では2人の天才がにらみ合っていた。
方や、一年唯一の第一魔研部、魔法の実力だけなら3年並みの夏木桜。
方や、このトーナメント1回戦では過半数を占めていた第二魔研部ただ一人の勝ち残り、頭脳明晰、運動神経抜群、全てがほぼパーフェクトの秋雨十六夜。
「お前、ニアか?」
桜が尋ねた。
しかし、十六夜には何を言っているのか理解できない。
「何を言っているのですか?夏木君」
「いや―――」
違うならばそれでいい、桜は口の中でそう、つぶやき姿勢を正す。
「なんでもない、最悪のパターンだった。俺の予測の中で」
「???」
ますます、十六夜には理解不能で、しかし。
「始まる」
「レッツファイーーーート」
「油断はしません、DDSフィールド全開」
十六夜のフィールドが展開され、つづけて桜も。
「合わせるか、DDSフィールド全開」
場の空気が変わった。
「光子体」
「俺も光子体」
「遅い」
確かに十六夜の光子体化は一瞬だった。
「こいつ」
そして十六夜の速さも尋常ではなかった。
「光子体の割合を反応速度ではなく身体能力の速さに特化させているのか?」
「は、ヒントをあげましょう、それは違う」
試合は十六夜のペースだった。
一撃離脱の確実な攻撃方法で、桜の体力を削り、自身はノーダメージで。
桜は必死で十六夜の動きに反応していたが、手が当たらない。
同じ光子体でも、明らかな差があった。
「せめて、つかめれば動きを止められるのに…」
「無理ですよ」
一撃。
そして離脱。
桜の体力は確実に削られていた。
「光子体に慣れているのか?」
「へえ、もう気づきましたか」
「そうか」
光子体に差が出る。
それは、おそらく慣れだろう。
常日頃から光子体でいることにより、体が光子体になれる。
普通はSSフィールドが張れるようになってから、高等部卒業したあたりから学ぶことだ。
おそらく機械でDDSフィールドを有効にしながら鍛えたのだろう。
「頑張り屋さんだな」
「天才とは努力なくしてなれるものじゃない」
攻撃を続けながら、十六夜は深い顔をした。
「兄さんの言葉だ」
「?」
しかし、桜は十六夜の兄が先代アポロだとは知らない。
「片をつけさせてもらいます」
急に、十六夜の高速移動が止まる。
「一撃必殺」
「でかいのが来る!!!」
桜は身構えた。
「光の螺旋!!!!!!」
光が飛んでくる。
文字通り光速で。
着弾。
煙。
「死なない程度には手加減しておきました。僕の勝ちですね」
桜が、煙の中から姿を現す。
しかし。
「その程度か?」
「!?」
桜は余裕で、無傷で立っていた。
「馬鹿な、なぜ?」
下手をすれば、当たり所が悪ければ、死んでいて全然おかしくない攻撃なのだ。
なぜ?
なぜ??
十六夜の頭がフル回転する。
「とっておきを見せやる」
「馬鹿な!」
一気に桜の魔力が場を支配し、
「太陽砲」
光が炸裂する。
闘技場が吹っ飛んだ。
「馬鹿なバカなばかな―――」
そして。
ゆっくりと。
ゆっくりと、光が収束していき、
闘技場の舞台は、破壊されていた。
「俺が最初にSSフィールドじゃなくDDSフィールドを張ったことに気づくべきだったな」
地べたに這いつくばり、十六夜は思い出した。
「会長の…」
DDSフィールドを一瞬で消す魔法。
「あれは、私だけの特権じゃなかったのか?」
しかし、その会長の言葉は誰にも聞こえるものじゃなかった。
「しゅうりょーデース、ジエンドデース」
高らかにメルクリウスの声が響く。
「セミファイナル、準決勝勝者は第一魔研部、夏木桜だーーー!」
声は誰にも届くことなく。
「優希、まさかお前が―――」
桜は、泣いていた――――――。
