個人的に5月は「ホラー・幻想小説」強化月間でした。
太宰治賞デビュー作家。「想像力の文学」シリーズ第一回配本。開局した田舎町のローカルラジオ局に個性溢れる人々が集ることにより、それぞれが刺激を与えあい、それぞれの人生の意味を問い直していく。2050年という近未来設定でありながら、発展から取り残されている土地柄のため、現在と同じぐらいの時代感をかもしだす。
登場人物がとても多いが、きちんとキャラを整理して描き分けられているので読みやすい。その人生のそれぞれが肯定されていく。様々な事柄を貫く世界の真実なんてものはなく、多様多彩な人たちが積み重なっていくことが、世界の姿なのだろう。閉じられた世界感、偏った知識だからこそ見える、現実世界の輝き。様々な人生を歩む人たちを描いた、エンターテイメントの群像劇の快作。たぶん、次の本屋大賞の一次投票で入れる、
■『
ひとさらい』 笹井宏之/ブックパーク
今年の1月に26歳という若さで亡くなられた。その訃報のニュースで、初めて笹井宏之さんという方を知り、そこで紹介されていた短歌に衝撃を受けて、あわてて購入。
「それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどのあかるさでした」
ご冥福をお祈りします。
「想像力の文学」シリーズは僕の好きそうな本が多い。本書は幻想・ホラーという設定で、文学系からエンターテイメントまで多彩な短編が収録されている。
すこしぼんやりとした主人公たち。明確な意思を持って生きているのではなく、漠然と違和感を抱えながら、流されるように人生を歩んでいるように見える。半分眠っているような彼らが、突然目を開かされて、幻想の世界・悪夢の世界へと突き落とされる。もしくは、その違和感も抱きながらゆがんだ生きつづける。
この不安と不穏に満ちた物語の数々は、読むものの現実をもゆさぶってくる。日常の風景、何気ない会話、遠い記憶。あらゆる事柄にこの世界の真の姿が暗示されている。この世界が悪夢だと、僕が気付いていないだけかも知れない。
結婚生活30年目で口喧嘩ばかりしている夫婦。妻は夫への愛は男女のものではなく、もはや「人類愛」だと達観しながら生活している。そこへ、イタリアに留学していた娘ができちゃった婚で帰国。反対する夫をなだめすかし、気ままな娘の世話を焼き、紳士的でやさしいイタリア人の娘婿と台所に立つ。そんな中、「ばあさん」と突然声がした。横柄な口調で話し出したのは、なんと娘のお腹にいる赤ん坊。
ちょっと不思議な設定も混じってくるが、ユーモア溢れる家族・妊娠小説として完成度は高い。小気味よく何でも切り捨てながらも愛嬌あふれる主人公。堅物の俗物だがどこか憎めない子供みたいな夫。今どきの出産・結婚のドタバタを軽快に描きつつ、その達者な口調で悪魔的な喋り方をする赤ん坊も見事にやり込めてしまう。母親力&おばちゃん力&おばあちゃん力をあわせ持つ主人公。今まで読んだ小説にでてくるおばあちゃんの中では一番好きかも知れない。深く読んでも、浅く読んでも楽しめる物語。
ジョナサン・キャロル
東京創元社
発売日:2009-04-20
埋葬したはずなのに再び現れる犬の死体。突然、消えてしまった夫婦。女子高生の変死。謎の事件が頻発するなか、いつも現場には美しい羽がひとつある。少しづつ壊れていく現実世界。次々と書き換えられていく世界のルールに必死に食らいつく主人公は、真相へとたどり着けるのか。
久しぶりにキャロルを読んだらダークファンタジーではなくディック的な不条理世界の物語になっていた。過去と現在と未来の自分のギャップ。現実が崩れ行くことによって、自分にとって大切なものにあらためて気付かされる。と同時に、過去と未来の自分を見ることで、現実の自分の価値観がゆらいでいく。一貫しない自分の形、一貫しない世界の形。その全てがかけがえのないものと気付かされながらも、それらが崩れ落ちることを止めることができない現実。
絶望的な物語にもなり得るのに、この物語は救われている。それは、僕たちが今この瞬間を生きているという、揺らぎ無い事実が世界を支えているからだろう。