2009年5月に読んだ本その2 | 砂場

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

理想と現実の狭間を巡るノンフィクション3冊


人でなしの経済理論-トレードオフの経済学
ハロルド・ウィンター著
山形浩生訳
バジリコ
発売日:2009-04-03

人の命に値段などつけられない。この言葉は誰もが当然のことと思うけれど、裁判では値段がつけられるという現実。法治国家&資本主義経済を生きる現代。問答無用に否定されがちな「人命」「臓器売買」「タバコ」「著作権」などについて、全てを「金」に換算してトレードオフの観点から「費用」と「便益」について考えてみるという挑戦的な内容だ。

これらの難問についてトレードオフの結論にいたるには膨大なデータが必要だ。そもそも客観的で完全なデータというものが存在するわけもなく、理論的な結論がでることは不可能。なので、この本ではどういう観点から問題を捉えることができるかという提示に留まっている。

もちろん著者は全てを金に換算すべきと主張しているわけではない。感情に流されがちな議論に「あえて」金の話を持ち込み、不合理な結論を避けること。感情的な判断に流されてしまった今回の新型インフルエンザ騒動などを考えても、こういった視点は必要不可欠だ。



切実な悩みに満ちた日本列島を渡り歩き、当事者たちの話を聞き、時には現場で体験をする爆笑ルポルタージュ。

トラウマセラピーで、著者は自分のトラウマがみつからなくて言葉に詰まるが「トラウマがないってことが、トラウマなのよ」と励まされる。社会を革命するのではなく個人の連帯の場となって、カラオケ道場や私生活の悩み相談所と化してしまった共産党支部。若いのだから世話役になってくれと頼まれ、とても忙しい毎日となった田舎暮らしのスローライフ。自慢話のようになると嫌味になって誰も読んでくれないから、事実よりも「不幸」に書いてしまう自分史。

常識は踏みにじられ、日常は疲弊して、希望の見えない日本。その矛盾に満ちた社会に翻弄される人たち。そんな切実な悩みに満ちた内容なのに、読んでいると笑いがとまらない。眉をひそめ日本を憂うよりも、腹を抱えて日本を笑い飛ばすほうが健全なのかも知れない。愛すべき日本人の姿がここにある。


追跡!私の「ごみ」―捨てられたモノはどこへ行くのか?
エリザベス・ロイト
日本放送出版協会
発売日:2009-05

ニューヨークにて自分の捨てたごみがどうなるのか追跡をする女性ジャーナリスト。ごみ回収トラック、ごみ積み替え基地、埋立地。生ごみ、紙ごみ、金属ごみ、有害廃棄物、プラスチック、汚水、汚物。家庭からでるあらゆるゴミを追跡調査する。

そこで出会う人々は多様だ。現場の労働者、会社の経営者、環境活動家。現場は自嘲的で開き直った人が多く、経営者は排他的で自分の仕事を過大に正当化する。活動家はリサイクルを推進する人からゴミを生む消費社会自体を否定する人まで様々だ。

アメリカのゴミ問題が抱える現状の複雑さを知ることができる。幾多の困難と戦ってゴミを追跡した著者が、この長い旅を振り返って言った言葉が印象的だ。「おそらく、この一年に私が学んだ最も大切なことは、私のごみを持って行ってくれる人びとの名前を覚えたことだった」。なんだか青い鳥みたいだ。