あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
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長谷 敏司
早川書房
売り上げランキング: 37784
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死を真正面から描いたSF小説。実験のためにつくりだした人工知能に小説を書かせる主人公。同時に、脳を改変する研究をしていくなかで、自らの余命が短いことをする。自らの脳神経を操作することによって、病の苦痛・死の恐怖に立ち向かうが……。
死を前にして悟りを開くということなど、まったくなく、どこまでも身勝手に悪あがきを続ける主人公に、なかなか感情移入はしづらい。人間よりも、実験のためだけにつくられた人工知能のほうが、感情移入しやすいという矛盾。生まれるからには誰かの「役に立ちたい」と思う人工知能。とにかく「苦しみたくない」「死にたくない」と回りの迷惑を顧みず、無謀な実験に突き進んでいく主人公。
そして、脳をどこまで改変しても自分は自分でいられるのかという問題も大きなテーマになる。痛みを取り去ることは許されても、死への恐怖を取り去ることはどうなのか。そこに明確なボーダーラインはないとしても、あきらかに超えてはいけない一線はあるように思える。
激痛に苦しみ、死の恐怖に怯え、それを克服できない現状に苛立ち、怒り、泣く。主人公にはどこにも救いが無い。死を前にして人はいかに無力かということが、どこまでも描かれていく。そのどうしようもない絶望を描きながらも、その事実を克明に徹底的に描くことで、全ての正面から受け止めている。
この小説を今回の本屋大賞一次投票に投票しております。




