マーティン・ドレスラーの夢 (白水Uブックス)
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スティーヴン ミルハウザー
白水社
売り上げランキング: 70842
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柴田元幸訳。ピュリツァー賞受賞。
街の小さな葉巻屋の息子がホテル王として活躍するさまを、アメリカン・ドリームとして描きながらも、「夢=成功」ではなく「夢=夢」であるということをイマジネーション豊かな寓話的物語として読ませる内容になっている。
アメリカン・ドリームではなくとも、人生のなかで大切とされるのは「仕事」「結婚」。この2つを軸として物語は展開していく。
仕事。ストーリー仕立ては、日本でいうと松下幸之助であったり、今なら孫正義のような、自らの才覚だけで出世街道を駆け上がっていくのだが、そこに寓話的で幻想的な要素をふんだんに盛り込んである。それは主人公が思い描くホテルというものが、ただ利益を生み出す手段ではなく、ホテルのなかに世界をつくろうとするから。増築を繰り返し、そこに木や川などの自然も取り込み、客室も迷路のようなフロアにあり、何に出会うか起こるかわからない空間が演出されていく。ホテルという限られた空間に「世界」という現実をどこまでも取り込もうという試み。現実に現実を過剰に詰め込むと、それは幻想になるという逆説は、この物語の中心となる要素だ。
結婚。主人公は偶然知り合った姉妹と仲良くなり、美人だが気難しく夢見がちな姉と結婚するが、ビジネスパートナーとして優秀な妹とばかり行動を共にして、妻とは疎遠な関係になっていく。ここでも現実と夢が交錯する。現実に良好な関係が結べる女性には恋愛感情は抱かず、手の中をすりぬけてしまうような幻想的な存在の女性に心惹かれる。「恋愛=幻想」と「結婚=現実」という対立にさらに複雑な要素が絡んでくる。ビジネスではそれなりの成果をあげる主人公は、女性に対しては深い悩みを抱え込んでいく。
現実と夢。一般的には夢を実現させれば、それが成功であり幸福だと考えられる。だがここでは、夢を追い求め、夢を手にすることが、成功には繋がらない。夢は限りなく、現実には限りがある。だから夢は必ず挫折する。「信じれば夢は叶う」という人にぜひ読んで欲しい物語だ。夢は叶う直前に、夢ではなくなる。
けれど、それは決して不幸なことではなかった。幻想を求めて生きたようなその人生が、誰よりも充実したものであったということ。「もっと現実をみろ」という人にもぜひ読んで欲しい物語だ。「現実と夢」人はそのふたつが重なり合った世界を生きている。
