身体の中を駆ける熱いモノ


それがあるうちは 迷わずに進むことができた


熱は冷め 抜け殻になった私がいる


空っぽになった心を抱いて うずくまってしまった


それもいい


しばらく そうしているのもいい


今までと違った目線で見える 私の生きてきた世界




いつも同じところから見ていた


同じ景色はもう二度と見られないと言いながら


心では 代り映えのしないソレをつまらないとさえ思った


小さな発見に心を躍らせることもなく


不満だけは人の何倍も持っていた


そこから抜け出すきっかけ


『夢』くらい見ろ


その言葉に 心が大きく動いた




休みはもう終わり


立ち上がって歩き出す



「麻衣、こういうことだったんだな。


俺と別れたいと言った心の奥にコイツがいたってことか。


今でも俺を愛してるだって?


笑わせないでくれ。


俺はつくづく自分が情けなくなってきた。


麻衣がこんな女だったなんて・・。」


「山村さん、ちょっと待ってください。


違います、誤解です。」


章吾は尚に勘違いだと伝えようと必死なのだが、それを麻衣が止めた。


「いいのよ、もう。」


尚は言いたいことを全て吐き出すとこの場を去った。


・・・麻衣が、俺の麻衣が、あんなヤツとこんなところで。


湧き上がってくる嫉妬心は止まることを知らない。


今まで自分がしてきたことを全部忘れて激しく心は荒れていた。


『いいのよ、もう。』麻衣の言葉が甦る。


何がどういいんだよ、俺には全然わからない。


悪いことをしたというような様子ではないし、隠すわけでもない。


ただ俺をじっと見ていた。


何が言いたいんだ?


何を俺に伝えたいんだ?


オマエは書くようになってから回りくどくなった気がするよ。


真っすぐ向かって来てほしい、そう思っていた。


『さよなら』ってことか?


今まで一緒に暮らしてきて、一度だって麻衣の心を疑ったことは無かった。


不安に思ったことも無かった。


自分にそれほど自身があったわけでも無い。


ただ麻衣を見ていれば俺は安らぎを感じられた。


多分、彼女もそうだったのだと思う。


美緒とあんな風になってからも、心の底から麻衣を邪魔だと思ったことは無かった。


麻衣は俺を責めることをしなかった。


「愛情が無いからだよ。


尚のこと、もう愛していないんだよ。」


そう美緒は言ったけど、それはきっと違う。


麻衣の愛し方なのだ。


「自分がこの人だと思った人を深く愛したい。


勿論、その人にも私のことを愛してほしいよ。


でも、そんなことは奇跡みたいなものだと思うの。


これほどたくさん男と女がいて、お互いを思い合う関係になるなんて神秘的だと思わない?


そんな二人がこの先ずっと並んで歩くことになっても、別々の道を選ぶことになったとしても逃げたくない。」


暮らし始めた頃、麻衣は言った。


それなのにアイツは逃げる道を選んだと言った。


なぜだ?


麻衣、オマエの心がわからない。


どうすればいい、教えてくれ。




「マスター、私、大事なモノを手放してしまいました。」


「そうですか。


麻衣さんらしいと言えばらしいですね。」


「何のことですか?」


章吾には意味がわからないようだ。


「あなたの小説のあちこちに、あなたの強さに隠れている弱さが見える。


そんなところが、私はどうしょうもなく好きなんです。


人間らしくて・・。」


「ありがとうございます。


どうしようかな、これから・・。」


「あなたはあなたです。


それ以上でもそれ以下でもない。」


「そうですよね。


私はこんな風にしか生きられないし、愛せない。


きっとこれからも、かわらないでしょうね。


帰ります。


マスターと話せてよかったです。


章吾君は、帰らないの?」


「僕は、もう少し。」


「それじゃ。」



闇の中でどれくらい我慢できる?


ほんの少しの間でも耐えられないと言った あの子


一人になることもなく ずっと守られていたから・・?


そうじゃない


あの子は ずっと闇の中にいた


だから知ってる


どれだけ不安なのか


どれだけ恐ろしいか


どれだけ明かりが欲しいか


その全部を知ってるから 耐えられないと言った




私には あの子の心がわかる


同じだったから




真っ暗で 音もしない


自分の存在も触っていないとわからない


このまま闇に溶けてしまいそうな気持にもなる


そんな私が 頭の中で描く世界


光に満ちている世界?


違う・・・


真っ暗な世界


この世界が好きになった


ここは 静かでいい


他人に気を遣うことも無い


ここでなら 私は私らしく在ることができる





「いらっしゃい。


彼 きてますよ。」


マスターは砂浜を指して言った。


「えっ?」


「約束していたんじゃないんですか?」


「いいえ。


マスター、私どんな顔してますか?


ひどい顔してるでしょ?


もうボロボロって感じです。


そんな風に見えますか?」


「初めてですね、あなたのそんなところ。


私もやっと信用してもらえたってことですかね。」


「えっ?」


「今日は一人ですね。


いつも姿は見えないけれど誰か一緒のような気がしていました。


今日はそれがありません。


彼、あれからよく姿を見せます。


今度は彼が見えない誰かを連れて・・。」


「そうですか。


彼も何か思うことがあるんでしょう。


マスター、私は自分がすごく嫌な人間に思えてしかたがないんです。


何を諦めて何を手にするのか。


一番大事なモノを抱きしめて生きる術を知らない。」


「私だって偉そうに言える生き方なんてしていませんよ。


今、この生き方以外の別の道は私には考えられない。


ただ、それだけです。」


「長く付き合っていた彼と別れることを決めたけど、私、今でも彼を愛してる。


だけど、逃げることにしました。」


「それで後悔はしませんか?


誰のモノでもないあなたの人生ですよ。


何があっても譲れないモノ、手放したくないモノは守らなきゃ。


格好なんて気にしないでね・・。」


マスターは静かに言った・


さっきの尚の姿が浮かんできた。




「章吾君。」


「あっ、草野さん。


どうしてここに?」


「ちょっと一人になりたくてね。」


「僕は遥と話に来ました。


あの日、遥にそっくりな女の子を追いかけて見失って・・遥は生きているって思いました。


次の日もその次の日も、僕はあの場所で彼女が来るのを待ちました。


金曜日の昼、彼女は友達と一緒にこの前と同じ方向からやってきました。


近寄って声をかけたけど、相手にされなかった。


ここに来て、こうして海を見ていると遥が逝ってしまった時のことを思い出す。


あの頃のことを思い出す。


遥はもういないんだってことを思い知る。」


「章吾君・・。」


麻衣は次の言葉が見つけられなかった。


彼は一人で現実に向かっていこうとしている。


一歩一歩逃げずに進んでいるのだと思った。


そして何も言わず、ただそっと彼の肩に手をかけた。


そんな二人の姿を少し離れたところから見つめていた。


麻衣の車を追いかけてきた尚だった。


二人が並んでいるのを黙って見つめていた。




あの頃からそうだった。


たまに麻衣の髪の毛や服に潮の香りがすることがあった。


「海に行ったの?」


そう聞くと、


「うん。」


麻衣はそう答えた。


それ以上は何も話さなかったし、尚もそれ以上聞くことをしなかった。


(こういうことだったのか・・。


俺を騙してこんなヤツと・・。)


そう思うと感情を抑えることはできなかった。





これで止めよう


明日からは おやつを止めよう


お腹いっぱい食べるのは止めよう




何度も同じことの繰り返し


食べないことが ストレスになってる


食べてないのに 数字は大きくなる


納得いかないな



意志の弱さは 最上級


目標を立ててそこに向かって・・そんなの大の苦手




ただ 可愛い服が着たかったり


ただ お気に入りのスーツを着たかったり


自分に厳しく・・そんなのできない


なのに 綺麗になりたいし 可愛い子でいたい


我慢もせず 手に入るモノじゃないことは もうわかってる


去年の秋には・・と春には思っていた


時は流れ 流れ・・ 今 季節は冬


春よりまた少し大きくなった私