オマエの心が壊れてしまうのが嫌だから


彼女はここを去って行った


オマエのことを この俺に頼むと言い残した


そんな顔して 俺を見るな


追いかけて行きたいって顔してるな


居場所を教えてくれって言いたいんだろ?


俺も聞いていないんだ


聞いていれば オマエに教えたくなるだろうから・・



追いかけて行って オマエに何ができる?


何かできるなら 彼女はここを去ったりしない


どうにもならないことが あったんだと思う


彼女の真剣な眼差しから 感じることが出来た




オマエは誰のことも愛さない


心の中に入れることを拒んでいる


「彼女のことを愛している」 オマエはそう言った


それは本当のことか?


女を抱きながら 自分自身を愛してる


そんなオマエに 彼女の愛がわかるか?


彼女のような愛し方を オマエは知らない


もっと 大人になれ


もっと 強くなれ


もっと優しくなれ


彼女の愛がわかる男になれ



雨の朝


出かけるのは止めておこう


そう決めると 全てがゆっくり動き始める


鏡の前でじっと見つめる 自分の顔


面長な顔の形


切れ長の細い目


広いおでこ


今の時代の顔じゃないよね・・ひとり呟く


平安時代? 紫式部の生きていた時代だったら


美しい人と言われたのだろうか?




少し前に気が付いた


一重だった瞼が・・二重になっている


これで少し目は大きくみえるだろうか?


これも『しわ』なのか??


こんな『しわ』だったら大歓迎


昔のと友人に会ったら


整形したと思われるだろうか・・


また証拠にもなくそんなことを考える




コンプレックスだらけ


人は見かけじゃないとか言うけど それってホントかな?


確かに人間性って大事だけど 


出会った瞬間にそれを感じ取る能力を私は持ち合わせていない


きっと 多くの人がそうだと思う


だとしたら やっぱり 見かけも大事だったりするのかとも考える




健康に毎日を過ごしていることに 感謝する気持ちなどどこにもなくて


当たり前のことだと思っている


外見以前に・・私って 性格ブスかもしれない

尚は美緒と別れることを決めた。


彼女はきっと嫌だと言うに違いない。


だが、今言わなければこの先ずっと言えないままになりそうだった。


彼女が納得するまで待つことになるかもしれない。


ただ正直な気持ちを伝えなければ自分はこの先一歩も前に進めないと思った。


勝手な男だと思われるのも覚悟している。


その通りなのだから。


良く思われたまま別れようなんて、そんなことを考えているわけでもなかった。



章吾は、バイトを辞めることにした。


そして手話を習い始めた。


童話を描き始めた。


今まで何をするでもなく過ごしていた章吾がまるで別人のような輝いた瞳をしていることに周りにいる誰もが驚いた。


考えることさえしなかった自分の未来についても少しだけ『これ』というものが見えてきていた。


『人と拘って生きて行きたい』科学の進歩も企業での昇進も興味はない。


いつも人の心に触れていたい。


温かい心、冷たくなってしまった心、広い心、閉ざされた心。


その様々な心の扉を叩きながら生きたい。


「そんなんじゃ、金は儲からない。」


友人は冷めた顔で言う。


それでも他のことは考えられない。


「お前はいいよ。


金なんて苦労しなくたって入ってくる環境にいるんだから。


いざとなれば親父さんの会社にだって入れるし、あの賃貸マンションの家賃だって、いずれはお前に入ってくる。


そういうヤツって得だよな。


夢や理想に乗っかって生きて行けるんだから。


こっちはどんな会社にでもいい、頭を何度も下げて入れてもらわなきゃ暮らせない現実がある。」


「そうかもしれないな。」


章吾はその言葉をあっさりと肯定した。


それは章吾がずっと思ってきたことで、同時にそれがとても窮屈で嫌だった。


あの日あの店でマスターは言った。


「それはあなたに与えられたチャンスですよ。


人は妬みとかそんな余計な感情で好きなことを言います。


視点を変えてごらんなさい。


『生活の補償をするから、キミは心の命ずるままに今を生きろ』そういうことかもしれませんよ。」


物事を全部そんな風に考えられたら幸せなモノだと、あの時は呆れて聞いていた。


だけど、そんな彼の言葉が呪文のように流れていた。


一度は捨てた『未来』だった。


それなら思い通りに進んでみるのもアリかと考えた。


「章吾、ホントに辞めちゃうの?」


女の子たちは残念そうに言う。


「今までありがとうな。」


「何だかそんな章吾を始めて見るよ。」


言ってみればここは舞台だった。


現実から逃げて駆け上がった舞台だった。


ここにいれば実際ラクだった。


冗談言って笑って・・。


ここにいても何も見つかりそうになかった。


自分のための人生を模索しながら新しい道を選ぶことにした。


遥への思いを胸にギュッと抱いて


忘れないことじゃなくて、消し去ることじゃなくて、そう自分の一部として遥を受け入れた。


「ここにいるのは本当の俺じゃないんだ。


一番大切だと思っていたモノを失って投げやりに生きているだけだった。


こんなのもありかな・・そう自分にいいながら。


そう、歩き出すことから逃げてたんだ。


だけどやっと新しい一歩を踏み出す覚悟が出来た。


いろいろ世話になったけど、これでサヨナラだ。」





母の形見のダイヤのネックレス


久しぶりに身に着けてでかけてみた


美容院にカットに行き


初めての担当者の人と楽しいおしゃべり


去年逝ってしまった母を 今も生きているような口調で話した


それもいいよね


ハンドメイドのイベントに行き


たくさんの人と楽しいおしゃべり




何日か分の会話をしたような感覚


詳しいことを知らなくたって 同じことに興味を持っていたりすると


自然と会話が弾む



お母さんのおかげかな・・?


家に帰ってきてふと思った


一周忌も済んだのに まだ寂しくてたまらない


私はこんなタイプの人間ではないと 思っていたのに


会えるけど 会いに行かなかった頃とは違う


会いたいけど 会えない



『死』は誰にでもおとずれること


順番があるとすれば 後から生まれた私が見送る形になる


そんなことわかっているのに


まだグズグズしている


もう一周忌も過ぎたというのに・・


いつになったら・・

何気なく付けたラジオから流れてきた 


その声が好きになったよ


今まで何の興味もなかった人なのに


存在すら知らなかった人なのに


その瞬間 何もかもが止まった


CDを買い どれだけ聞いたかわからない


そんな思わぬ出会いから14年


遠くて・・遠すぎて・・


『ありがとう』の言葉は届きそうないけど




振り返って何かを思う時


そこにいつもいろんな音楽がある