夏休みに何かあったのだろうとは思いながら直接聞くことはできなかった。


学校が終わって、バンドの練習にスタジオへ向かう途中、我慢できずに将太が口を開く。


「なあ、奈緒とケンカでもしたか?


オマエたち二人、何かヘンだぞ。」


「ああ、別れたんだ。」


「えっ?


どうして??」


「俺が、別れてくれと頼んだんだ。」


「何で?


納得できない。


奈緒が優斗のことをどれだけ心配していたか知らないのか?


何て事をしたんだ。


オマエってヤツは・・。」


「仕方がなかったんだ。


奈緒の真っすぐさが苦しくて重くて辛かった。


俺はアイツの前で今までの俺ではいられなくなったんだ。」


「それが嫌だと奈緒が言ったか?


そんなこと言わなかっただろ。


奈緒に言ったのか?


『オマエの気持ちが重いって。』」


「ああ。」


頭を抱える将太を見ながら優斗はハッとする。


「将太、オマエ・・。」


「ああ、そうだよ。


俺たちは幼稚園の頃からの付き合いだ。


だからわかるよ、奈緒のことなら大体何でも。


優斗と付き合うことになった時、オマエだったから俺は諦められると思ったんだ。


オマエが本気だってことも知ってたから。」


「すまない。」


優斗が頭を下げる。


「俺に謝られても、どうにもならないけどな。


わかったよ。


そのことはもう聞かない。」


いつもはそんなに多くの言葉を話すヤツじゃないのに、奈緒のことになると意外なほどに熱くなる。




この人との出会いは 彼が運んできた


自分の好きな音楽について 目をキラキラさせて話す姿


いつもの彼とは印象が違った


「これ聴いてみて・・」


1枚のCD-Rには15曲の世界が詰まっていた


「全部聴き終ったら これを読んで・・」


2枚のレポート用紙には ギッシリと彼の言葉が綴られている


「これは僕の気持ちだから・・


ただ 伝えたかったんだ」


次に彼に会ったのは・・ 


マンションの前でタクシーに乗り込もうとしていた時


遠いところに引っ越すのだと・・



あれから長い長い時が過ぎた


彼からの贈り物は今もこの胸に


私のことなんて 忘れてるよね・・きっと


そして私は この人の音楽を今 追いかけている

それからしばらくして、二学期が始まり体育祭の準備が忙しくなる頃。


「おはよう、優斗。」


「おう、おはよう。」


「もう大丈夫なのか?


メールも電話も返事こなくて心配してたんだぞ。」


「悪かった。


いろいろあってな。


でも、もう心配かけない。」


「ああ。」


将太は学校へ続く長い坂道を歩きながら優斗の肩を軽く叩いた。


「将太、俺サッカーはもうやらない。


これからはバンドに集中するから、ヨロシク。」


「えっ?


サッカー止めるのか?」


「だからいろいろあってな。


俺の中では決着付けたんだが、人に話すのは今はまだ無理。


その時が来たら話すから、聞かないでくれ。」


「わかった。」


そう言うと元気よく教室のドアを開ける。


「みなさん、長い間休みましたが、今日からまたヨロシクお願いします。」


おどけて見せて明るく声をかける。


クラスの仲間が優斗の方を向く。


「おはよう。」


みんなの声が返ってくる。


さすがクラスのムードメーカー。


これでやっとこのクラスが動き始める。


体育祭・文化祭、二学期の行事は盛りだくさん。


そんな中、クラスの誰もが口に出しはしないが、優斗と奈緒のよそよそしさに気づいている。


人を不愉快にさせるようなベタベタした感じは無かったが、優斗の近くで奈緒はいつも明るく笑っていたのに・・。

欲しいモノってある??


キレイになりたいな~


自慢できる何かも欲しいな~


毎日をキラキラした気持ちで過ごしたいな~


・・・・いくつもあり過ぎる


じゃあ持ってるモノって何??


う~~ん 思い浮かばない


普通過ぎて 




私はB'zが好き


歌詞の中に 『持ってるもんでやるしかないだろ~』っていうのがある


それを聴いた時 へんに納得している自分がいた


他の誰かの何かを欲しがったて どうにもならない


私は私をやって行くしかない




特に『持ってる』モノがあるわけじゃないけど


健康な身体がある


今の生活に満足してるわけじゃないけど


抜け出したいと思ってるわけでもない


何かを始めたいと思っている割に


その『何か』が見つからずに グズグズしてるだけ


たぶん私は 自分のことが嫌いだと思う


笑うことが下手で


喜ぶことが下手で


泣くことが下手で


意志は弱いし


一生懸命になることが出来ない


・・・・いくつもあり過ぎる


それでも わたしは私をやって行くしかない


『持ってるもんでやるしかないだろ~』

フラフラ歩いてくる奈緒を見つけると急いで駆け寄る。


「さあ、入って。」


フローリングの床に肌触りの良いカーペット。


そこに小さな背の低いテーブルが置いてある。


その上にはジュースやお菓子がたくさん並んでいる。


焦る気持ちを押さえながら準備したのだろう。


大人なら飲み明かすところだろうが・・食べながら話し明かす気でいる。


「ほら、座って。


ねえ、何で別れることになるの?」


陽子がイライラして聞く。


「優斗が別れようって言ったから。」


「奈緒、嫌だってどうして言わないの?」


「だって・・、言ったってどうにもならない。


私の気持ちが重いんだって。


そこまで言われたら、一緒にいたいなんて言えない。」


「別れる理由は?」


「・・・。」


「それも聞いてないの?


ただ、わかりました。


別れましょう・・って言っただけ?」


「うん。」


「あ~、も~、納得いかないな~。


ねえ、今日は私の所に泊まって行きなよ。


優斗ってそんなヤツだとは思わなかったな~。


ガッカリだよ。


あっ、そうだ、奈緒にすっごく素敵な人を紹介してあげる。


その人と付き合って優斗のことなんて忘れちゃえ。」


「も~、陽子ったら、どうしてすぐに話がそこに行くかな?


私は今日、しかも、さっき振られたばっかりなのよ。


そういう気分じゃないよ。」


「大丈夫。


恋の傷は恋で癒す。」


「何が大丈夫なのか全然わからないよ。」


石原陽子、彼女はとても明るい性格で誰からも好かれている。


おまけに・・可愛い。


さっぱりとした性格。


だけど、その逆の細かい気配りもちゃんとできる。


頭が良く、常に前向き。


自分の考えをちゃんと持っている。


奈緒はそんな陽子が眩しかった。


吹奏楽部でバイオリンを奏でていた。


この前のコンクールが終り引退。


奈緒のことを親友だと言って何かと助けてくれる。


「奈緒は私の欠けてる部分を全部持っている。


一緒にいると心が温かくなる。」


いつも一緒に過ごす友人とは違うタイプだとお互い思っていること。


辛い時に傍にいて欲しい人だったり、傍にいてあげたいと思う相手だったりすること。


話しているうちに段々と心が近くなった。


あの時から今までがとても短く思える。


親しくなってからもう二年以上になるなんて嘘みたいだ。


「奈緒、泣いてもいいよ。


泣かない・・とか思ってるでしょ。


泣いていいよ・・。」


ティッシュの箱を三つテーブルの上に積んで見せる。


「うん。


でも、三箱はいらないと思うわ。」


笑い顔と一緒に大粒の涙がこぼれる。


今日、陽子と話しながら泣いた後は、もう泣かないとこの時、心に決めた。


明日からはもう引きずらない。