この時期になるといつも思う


卒業したくないな~って話してた


楽しみで仕方なかった春休みも 恨めしい


こんな風に学生生活が楽しかったのは


楽しい友人と巡り会えたから


今迄みたいに 毎日笑って会うことはできなくなる


それぞれ新しい自分の居場所で 


新しい日々と向かい合わなければならない




でも 不安なわけじゃない


いつだって新しい場所で新しい友人と楽しく過ごしてきたから


今度もきっと大丈夫


そう無条件に思えた




人と付き合うことが 嫌になったのは いつからだろう


何かきっかけがあったはずなのに 何も思い当たらない


ただ一人でいることの気楽さを知ったから


誰かと拘ることが 面倒になった


踏み込まない


踏み込ませない


そんな付き合い方


傷つかない術だとでも思っているのか?

「奈緒・・。」


「えっ?」


そう言ってハサミとブラシを持つ手を止めて顔を上げる。


「サリー、助けに来たわよ!」


冗談ぽく陽子はそう言う。


「も~、せっかく大人しくなったのに・・。


やっとよ、やっと・・。」


ミニチュアシュナウザーのサリーのトリミング中だったのだ。


もうすぐ三歳になるサリーとは古くからの友人でいるつもりの陽子。


それもそのはず、子犬の時からの知り合いなのだから。


「今度の日曜日、空けといてね。」


「えっ?」


「素敵な人、紹介するって約束したでしょ。


大介が一緒にドライブ行こうって言ってるのよ。」


「私は遠慮するよ。


二人で仲良く行けばいいじゃないの。


私はまだ心の整理も出来てないのに・・、相手の人に失礼よ。」


「そんな深く考えずに、一緒に遊びに行く感じでいいのよ。


もう、行くって返事しちゃったのよ。


奈緒、お願い付き合って。」


陽子にそんな風に言われると了解するしかなかった。


女の奈緒でも、その姿を見ていると、きつく断ることは出来ない。


それくらい可愛い子。


「わかった、一緒に行くよ。」


「ありがとう。


奈緒は、そう言ってくれると思ってた。


じゃあ、明日学校でね。」


結局、押し切られてしまう。


いつものパターン。


陽子の彼は二つ上の大学生。


二人がまだ高校生だった頃からだから、もう二年以上前の頃からの付き合いになる。




日曜日の朝、陽子からメールが届く。


『今日は山にバーベキューに行くよ。


九時に奈緒の家の近くのコンビニの駐車場で待ってる。


みんなで買い物して行こう』


バーベキューなんて最近しないな。


家族でそういう所に出かけたこと無いし。


いつだったかな~、小学校の頃かもしれない。


親戚の家に遊びに行った時、そこで一度だけバーベキューをした。


そんなことを思い出しながら陽子の所に向かう。

しばらく見ない間に イイオトコになってるね


キミをこんな風にさせたのは 誰?


あの頃 キミはまだあどけなさが残っていて


弟のようにしか思えなかった


熱い視線で見つめられると 動けなくなりそうだよ


「いつかボクが いっぱしの男になった時 もう一度 会いに来ます」


その言葉を今 はっきりと思い出した


キミは私を今どんな思いで見てるの?


弟みたいと言った私を 哀しそうに見つめたよね


涙をグッっと堪えていたのを知ってるよ




いくらイイオトコになっていても やっぱりキミは弟


隣に並ぶのは私じゃないよ


周りをよく見てごらん 相応しい人がいるはずよ


私じゃないよ・・




中途半端な身の引き方


ずるいことしてるよね


本当は私だってわかってる


弟なんかじゃないってこと・・


心を縛り付けている鎖が・・ どうしても外せない

少し気持ちが落ち着いてきたからだろうか 


ラジオを聞く元気が出てきた


真剣に・・と言うよりも 聞き流す感じ


そんな時 思わずラジオに顔が向く


テレビじゃないんだから 何も見えないのに・・


この歌 誰??


聞いたことのあるようなメロディーライン


きっと前にも聞いたことがあったんだろうね


鉛筆を紙を準備して曲が終わるのを待ち メモを取る


このベスト盤 ものすごく売れてるんだ~


そして次の日 私も買った


歌詞を聴きながら 誰を思ってるのかに考えを巡らせる


年上の彼女?


あこがれの人?


どんどん膨らんでいく思い


そして私は彼を主人公にした物語を書き始めた


私の一番最初の物語


時間は一秒たりとも止まることをしない


ライブのMCも上手くなったし


自分のスタイルも守られるようになったね


大人になったんだね


あれから何度目の冬だろう・・




「なあ、文化祭でバンドの演奏やってみたいって話してるんだけど、どう思う?」


「俺?


俺が歌うってこと??


イイのか俺で・・。」


「もちろん。


ずっと待っていたんだ。


優斗が戻ってくるのを。」


春休みに将太に誘われて何となく行ったミスチルのコンサート。


苦労してチケットを取ったのに一緒に行く予定の友達が急に行かれなくなって、優斗を誘ったのだ。


将太の苦労を知らない優斗。


このチケットのありがたみを全く知らない優斗。


ばあちゃんがちょうど小遣いをくれたから金あるし・・そんなことを言う優斗。


そんな優斗だったが、ライブに参加して大きく思いは揺さぶられ変化した。


一生懸命に走り歌う桜井の姿。


しっとり聴かす桜井の声。


会場の全体のあの一体感。


身体に伝わる振動。


その一つ一つが初めてのモノだった。


サッカーをやっていたから他のことにはそう大きな興味を持つことも無かったのだ。


スポーツ観戦の時のあの興奮と似ていた。


敵も味方もない世界で一人一人の笑顔を見た時、優斗の中の何かが動き始めた。


「俺は、優斗の後ろでドラムを叩けることが何より嬉しい。


オマエはいろんなモノを持ってるよな。


俺なんて何も無いのに・・。」


「そうは思わない。


将太は、普段の格好に問題があると思うよ。


俺たちと一緒の時は、ものすごく面白いヤツなのに、他ではそんな顔を絶対見せない。


いつもイヤホンしてて話しかけるな!とでも言っているようだ。


人を寄せ付けないように自分でしてるとしか考えられない。」


そんなつもりは無いのだけど・・将太はそう思った。


「ミスチルのコピーバンドってことでどうだ?」


「ちょっと、ハードル高くないか?


ファンから石投げられなきゃいいけどな~心配だ。」


「大丈夫だよ。


そのつもりで聞いてくれるさ。


優斗の感覚を信じるよ。


それと、オリジナル曲を何曲か入れたいと思うんだけど・・。」


「へ~、そんなのあるのか。


頑張るよ。


今の俺には何も無いからな。」


「優斗、それは違うぞ。


オマエは何もかもを失くしたんじゃない。


オマエが全てを手放したんだ。


忘れずにちゃんと覚えとけ。」


大勢の穂との前で歌を歌うことなど考えたことも無かった。


広いグランドをただボールを追いかけて走っていた。


背中に感じる大きな声援をも自分のエネルギーに換えて精一杯走った。


ほんの少し前までの自分が見え隠れする。


新しいことに向かうと決めたのだ。


もう振り返らないと誓ったのだ。


あの日、薄っすらと浮かんで見えた奈緒の涙に・・。


「着いたぞ。


ここだ。」


仲間二人は既に着ていて将太たちの到着を待っていた。


「今日から、よろしくお願いします。」


優斗が丁寧に頭を下げる。


「期待してるからな。


優斗に呆れられないように俺たちも頑張るよ。


文化祭までノンストップで行くぞ。」