その日の夕方、奈緒はマンションにやって来た。
リュウのことがどうしても気になったから。
「リュウ、ゴメン、やっぱり来ちゃった。
迷惑かもって思ったけど、あのまま何も食べずに寝てると思うとじっとしてられなくって。
少しでも食べて。
そう思って作って来たの。
すぐに帰るから。」
梅干し入りのおにぎり二つと卵焼きが二つ、甘辛く煮た大根、鳥のから揚げ、ほうれん草の胡麻和え。
少しずつ品数をたくさん。
フルーツはイチゴ。
「ありがとう。
一日や二日何も食べなくたって大丈夫なのに・・。
でも、美味しいよ。」
奈緒の心遣いが嬉しかった。
その反面辛かったこともホントのことだった。
奈緒の腕を引き寄せソファーの隣に座らせる。
「奈緒、ゴメン。
俺は奈緒のことが好きだと思っていた。
大事に思っていたし、守ってやりたいとも思っていた。
でも昨夜・・お前を抱きながら別の女の名前を呼んだ。
そいつのことを今でも忘れられないってことだと思うんだ。
こんな気持ちを自分が持っていたことに俺自身も驚いている。
ゴメンな、奈緒を傷つけないって言ったのに・・。」
その人が沙織という名前の人だと言うことは知っていた。
いつかの夜、寝言で名前を呼んでいたから。
でもそのことは言わずにおこうと決めていた。
あの日の涙と関係あることも察しがついた。
ものわかりのイイ女になろうとしてるわけじゃない。
誰の心の中にもそういう思いがあることを奈緒自身が知っているから、触れるまいと思ったのだ。
「リュウ、そんな顔しないで。
本当に気にしてないから。
リュウが私を大事に思ってくれていることは 私が一番よく知っている。
・・でも、リュウはそんな自分を許さない。
それもわかってる。
だから・・、私たちはもう終わりなんだよね。」
我慢しても涙声になってしまった。
奈緒はそう言いながら、リュウはこの言葉を否定しないことも知っていた。
街はジングルベルの音楽と、華やかに飾りつけをされたクリスマスツリー。
イルミネーションが人の目を引き付ける。
カップルたちは仲良く腕を組んで歩いている。
やっぱり私はズルい。
とうとう言えなかった。
リュウのことも優斗のことも好きだと。
だからこんなことが起きなくてもちゃんと話して別れようと思っていた。
でも、いざ話そうと思うと言えなくて・・。
辛い決断をしたのは結局、リュウと優斗だった。
一体どこで迷ってしまったのかもう今となってはわからない。
後悔はしてない。
鏡の向こう側にいるもう一人の奈緒に語りかける。
(私は、こんな風にしか生きられないんだよね。
大事なモノをが二つあった時、どちらかを選んでどちらかを置いてくることが出来ない。
相手を困らせることになっても自分を貫くことができない。
本当に終わる。
この恋が終わる。)
しばらくは恋はしないだろう・・。
そう思うことも強がりだろうか・・。