奈緒は電車を降りるとすぐタクシーに乗り込み海辺へと急ぐ。
優斗が泣いている・・。
あの日の自分と同じ思いで波を見つめている・・。
そんな気がした。
海にこの身を沈めようとここに来たわけじゃない。
だけど、ずっと波を見つめていると、それもありもしれない、そう思えたりする。
沈めたいのは思いなのに・・。
だから、急いだ。
優斗は努力家だった。
サッカーを諦めた時も自分の力で立ち直って、今も輝きながら毎日を生きている。
その優斗が立ち止って過去を振り返っているとしたら、その研ぎ澄まされたモノが折れてしまいそうで怖かった。
タクシーを降りて広い海辺を見渡す。
「優斗・・。」
どこにいるの?
波打ち際に沿って走っている優斗がいた。
何度も行ったり来たりを繰り返している。
走っているのだけれど、脚は疲れてしまっているように見える。
砂浜に倒れこむ。
「優斗。」
奈緒が大声で叫ぶ。
砂に両手をついたまま声のする方に顔を上げる。
走りにくい砂浜を真っすぐに自分に向かってくる愛しい人の姿。
幻だと思った。
優斗は急いで駆け寄ろうとするが、疲れ切った身体が思うようにいうことをきかない。
「ここで何してるの?
みんな必死になって探してるのよ。」
「ごめん。
ここに来れば、ここで待っていれば・・奈緒が来てくれるかと思って。」
「何よそれ。
私たちはもう別れたのよ。
津田君がそれを望んだのよ。
私が来なかったらどうするつもりだったの?」
「そうだよな・・。
奈緒はもうあの人と・・。」
「ねえ、もう帰ろう。
ねっ。
あっ、陽子に見つかったって知らせなきゃ。」
「待って。
今日だけ、俺の奈緒に戻って。
どうやって諦めたらいいかわからないんだ。
どこかでやっぱり信じてる。
奈緒が俺を嫌いになるわけないって。
あの人と二人一緒のところを見て辛くてたまらなかったり、あの人の車の助手席で笑ってる奈緒をただ見送ることしかできなかったり・・、別れてからの方がずっと奈緒を好きなんじゃないかって自分で思ったりしてる。
わかってるんだ、自分でも。
あの人と奈緒が付き合ってるってこと。
・・ゴメン、俺、何言ってるんだろう。」
余りの寒さのせいにして目から零れる涙をぬぐう。
「奈緒はどうして俺を探しに来たの?」
「どうして?って理由なんてわからない。
ただ、陽子に津田君がいなくなったって聞いたら気持ちが勝手にあなたを探してた。」
俺のこと、嫌いになってないんだよな。
だったらやり直そう。
お互い今でも好きならもう一度付き合えばいいじゃん。」
「ごめん、それはできない。
嫌いじゃないよ。
好きだよ。
でも、戻ることはできない。
リュウのことも好きなの。
リュウのことも大切なの。
それなのに、私はあの人を傷つけた。
私だけ何もなかった顔で津田君と・・そんなことできない。」
「あの人を傷つけたって、どういうこと?」
「陽子からの知らせを聞いた時、一緒だったの。
そして津田君を探すために私はあのマンションを出た。
その意味、わかるでしょ。」