「奈緒、俺はそれでもいいよ。
あの人のことを好きでも。」
「イイわけないじゃん。
そんなのダメに決まってる。
ねえ、津田君、帰ろう。
みんな心配して・・。」
奈緒の声が弱くなる。
「奈緒・・、奈緒・・。」
その場に倒れてしまった奈緒を見つめながらどうしたら良いのかわからず立ちつくす。
どうしよう。
この寒い季節にしかもこんな場所に人が通ることを期待できそうにない。
何とか背中におぶって一歩一歩道路へと進む。
そんな時、見覚えのある紺色のBMW。
「おい、早く乗せろ。」
優斗は言われるままに奈緒を車に乗せる。
「何してる、お前も早く乗れ。」
「はい。
ありがとうございます。」
それっきり二人は言葉を交わさない。
「さあ、ここだ。
中へ。
奈緒をしっかり抱きかかえているのは優斗だった。
「安江さん、先生は?」
「すぐに来られます。
お部屋の準備はできていますからどうぞ。」
「ありがとう。」
奈緒をベッドに寝かせた頃、先生はやって来た。
心配そうにドアの外で待っている二人の顔を見ながら言った。
「大丈夫ですよ。
少し休めば元気になります。
ただ、無理はさせないでください。」
「ありがとうございました。」
二人は丁寧に頭を下げる。
長い間この家に出入りしているそのドクターはリュウが幼い頃から世話になっている。
「ちょっといいか?」
そう言ってリュウはリビングのソファーに座るように優斗に言う。
「何をやってるんだ、お前は・・。
お前のことで奈緒は泣いてばかりだ。
それでも、お前のことが好きだと俺に言ったよ。
俺も、正直どうすればいいのか迷っている。
未練タラタラでどうしょうもないよ、この俺が・・。
例えば、『私のことはもう忘れて・・。』って女が言ったとする。
そん時の本心ってどっちだ?
そう言う女の後を追ってきて欲しいのか?
それとも本当に忘れて欲しいのか?
お前はどう思う?」
「そんなこと・・、考えたことありませんよ。
誰かと付き合ったのは奈緒が初めてです。
俺にとって奈緒は完璧な女です。
奈緒の言葉にどれだけ元気をもらったか・・。
奈緒の言葉で背中を押されたこともありました。
文句の言いようのない彼女でした。
それなのに、俺が別れたいと言った。
奈緒はそれをすんなりと受け入れました。
俺の決心が固いことを知っていたからですね、きっと。
考えて迷ってやっと決めたその決心も、今じゃ間違っていたってことなんですけど・・。
情けないです、自分が。」
「自分がわからないってホントに厄介だよな。」
リュウはしみじみとそう言う。
「今日はここに泊まれ。
そして、お前を探している奴らにはちゃんと連絡しとけよ。
『無事だから心配しなくていい。』ってな。」
「俺までここに居ていいんですか?」
「お前がいないと目を覚ました奈緒が心配する。
明日、一緒に戻ろう。
この部屋を使うといい。」
そう言うと奈緒の隣の部屋を案内する。
広い屋敷、お手伝いさんの存在。
初めて奈緒がここに来た時に感じたようなことを優斗も今感じている。
一日振りに横になると案外すんなりと眠りに落ちた。
そんな時、リュウは奈緒の眠っているベッドに腰をおろし手を握り見つめていた。
(奈緒・・、俺はどうすればいい?)