ありがとう 


気付いているよ 君の気持ち


だけどゴメン 受け取れないんだ


同じように 僕も ある人の背中をずっと追いかけているんだ


もう僕の背中を追いかけるのは止めて


振り返ってごらん 君の背中を追いかけているアイツがいるから




一人で涙を流すような そんな恋愛はしないで


中途半端な優しさならいらないって いつか君は言ったけど


君の笑顔を見たいんだ


僕に向けられるモノじゃなくても 君には笑っていて欲しい



僕のこと?


心配しなくていいよ 


もう決めたんだ ずっと背中を追いかけていることになっても


自分の気持ちにウソをつかずに生きて行くって


他の誰かを好きになればって言われても・・


そんな日が・・来るのかな?


そんな日が 僕にも 来るのかな~?

部屋から馨がやって来る。


「沙耶、どうした?


何かあったのか?」


「・・・。」


「泣いてるじゃないか。


どうした?


俺に話してみろ!」


「ゴメン、一人にしてくれないかな。」


やっとの思いで絞り出した声だった。


(これから私はどうしたらいい?


どこに行けばいい?)


何も知らなかった今朝までの自分でいる自信なんてどこにもなかった。


次から次に出てくる疑問に何一つ確かな答えを見つけることもできずにいた。


(私は捨てられたんだろうか?


そんな私がなぜここに?


どうして?)


この家には居られない。


ぼんやりとした答えだった。


ここを出てどこかに行くあてがあったわけではなかった。


誰も自分のことを知らない場所に行って静かにこれからのことを考えようと思った。


黙っていなくなると両親も心配するだろう。


こんな場合にそんなことを考える自分がおかしくもあった。


気まぐれに旅に出たのだろうと思えるような短い手紙を残して翌朝、沙耶は家を出た。



勤務先の出版社に立ち寄って上司に挨拶をした。


「勝手なことは十分承知しています。


でも、こんな気持ちのまま仕事を続けることなんて私にはできそうにありません。」


そう言って退職願を手渡した。


「私に話してごらんと言ったところで、今の沙耶はきっと話してくれないだろうな。


何があったか知らないが、沙耶の書く文章が私は好きだ。


これはしばらく預かっておくから、落ち着いたらまた顔を見せてくれ。」


「でも・・。」


「後のことは、心配いらないから、ゆっくりしてくればいい。


元気を取り戻した沙耶に期待しているから。


・・で、行くあてはあるのか?」


「いえ、それはまだ・・。」


「沙耶らしくないな、行くあてもないのにそんな大きな荷物を持っているなんて。


私に任せてくれないか。」


「そんな・・。」


「いいじゃないか、私に任せなさい。」


そう言って彼は思い当たる人のところに連絡をする。


そして一枚のメモを沙耶に渡した。


「ここに行くといい。


少し寒いところだが、温かい人たちだから。」


「ここは?」


「私の妻の両親の家だ。


去年の秋、一番下の娘が結婚してからは夫婦二人が暮らしている。」


「ありがとうございます。


お言葉に甘えさせてもらいます。」


沙耶はそう言って出版社を後にした。


彼は本当に世話好きな人で社員誰に対しても家族のように接する。


出版社とは言っても、本当にまだ小さい会社だが、発行部数も少しずつ伸びてきている。


「難しいことばかり載せても売れない。


だけど、下品なことを書き並べて売るようなことはしたくない。


次の号の発売を読者が心待ちにしてくれるようなモノを作りたい。」


初めて会った時、彼は言った。」


資産家だった父親の財産を引き継いで始めた道楽だと心無い人たちは陰口をたたく。


そんなこと少しも気にせず思うままにやりたいことを堂々とするその姿を素晴らしいと思っていた。


子どものような輝く瞳を見た時、ここでなら自分は何かを見つけられるかもしれない、沙耶はそう思った。

沙耶はあてもなく歩いていた。


こういう場合・・、何か辛いことがあると何故か人はあてもなく歩く。


沙耶も例外ではなかった。


冷たい風が吹く誰もいない川沿いの道を歩いていた。


色彩を持たないこの季節は余計に寂しさを感じさせる。


辺りが少しずつ暗くなり、街灯に灯がともり始める。


沙耶の身体は冷え切っていた。


目からは休むことなく溢れてくるモノが頬を流れる。


その感覚も今ではもう無いに近い。


ほとんど意識を持たない状態。


長い間通い続けたこの道を覚えている身体が、脚が沙耶を家へと送り届けた。


カギを開け、玄関に倒れこむ。



愛してくれなくてイイから 私が愛することを拒まないで


愛してくれなくてイイから 今のまま 私の傍にいて


愛してくれなくてイイから・・・


ホントにそれでいいの?


見つめ合うと疲れるの 全部が欲しくなってしまうから


自覚していたい あなたが私を愛さないってことを


これ位の距離感が 私には合っていると思う




愛されることに慣れてないから 疲れるの


失くしたくないと思った瞬間から 何かが変わっていく


私の中の 何かが・・




子どもの頃から 「嘘をついてはいけません」


そう言われながら 大きくなった


でも 今の私は 嘘ばっかり・・


過去なんて興味はない 今と未来だけで十分


自分のことが 大好き 一番好き


・・全部 ウソ


後戻りできないことに しがみついて


取り返せない時間のことばかりに気持ちを持って行かれてる




そこまで分かっていて どうして次の一歩が踏み出せない?


人は簡単そうに言うけれど


積み重ねてきた時間って 思っている以上に私をがんじがらめにする


その場所に戻れたら オマエはちゃんと生きられるのか?


そう詰め寄られると また自信がない