「おはようございます。


朝食、ここで一緒にいいですか?」


「もちろんですよ。」


婦人は笑顔で優しくそう言った。


「私の出した答えが正しいのか間違っているのか、それはわからないけど、そうしたいと思います。」


「そうですか。」


二人は言った。


「ありがとうございます。


お二人の優しさのおかげです。」


無言の優しさをこれほどありがたいと思ったことはなかった。


どんな言葉より今の沙耶が欲しかったモノだった。


一人で考える時間。


「人は誰でも一人で立ち直る力をいくらか持っています。


残りの少し足りない部分を補ってくれる人が誰にも一人はいるものです。


だから、放り投げてはダメです。」


主人が静かに力強くそう言った。


「明日、ここを出て戻ろうと思います。


今までのお礼の気持ちを込めて、夕食を私に準備させて下さいませんか?


私、少しは美味しいモノ作れるんですよ。


ねっ、イイでしょ?」


「いいですとも。


嬉しいわ。


ご馳走になりましょう。」


「はい。」


沙耶は笑った。


家を出てバスに乗り市場へと向かった。


魚介・肉・野菜・そしてワインを買った。


パンプキンスープ・前菜に魚介のマリネ・子牛のソテーハーブソースかけ・コーンブレッド・ストロベリーシャーベット。


昼過ぎから準備を始めた沙耶の後ろ姿を二人は見つめていた。


「また二人きりになってしまいますね。」


婦人がそう言った。


「いいじゃないか、ここは長くいる所じゃないんだ。


疲れた身体を休め、心の傷を癒すための場所だから。


沙耶が帰る気持ちになった今、黙って送り出してやろう。」


「そうですね。


でも、あの子の後ろ姿を見ているとなぜか涙が出てきます。


きっと今までいろんなことがあったんでしょうね。


それでもどうにかやって来たのでしょう。


今度のことは特別大きな出来事だったのでしょう。」


「でも、沙耶は自分で出口を見つけたんだ。


素晴らしいことじゃないか。」


「ええ。」


「明日は笑って送り出してやろう。」


二人が話している間、沙耶は一人忙しく動き回っていた。


こんな風に誰かのために作る食事の準備が楽しいと思えるのは久しぶりのことだった。


馨・・心配してるだろうな~。


帰ったらちゃんと謝ろう。


そして、ちゃんと話さなきゃ、ホントのことを。



おはようございます。


6月・・今朝はくもりです。


昨日くらいからやっと元気がでてきました。



k-kyokoのブログ

CDを聞きながらブログを書いています。


この人・・大好きなんです。


入り口は・・韓国ドラマ『イケメンですね』なんですけどね。


そう、みんなが盛り上がっている時より遅れてましたけど・・。


俳優だったり歌手だったり・・その時々で全く違う顔を見せてくれます。


最近はさすがにわかりますけど、最初は違う人かと思ったんですよ~。


『イケメンですね』と『メリは外泊中』を見た時。


どんな役をやってもその人が前に出てる人っているじゃないですか・・。


そうじゃないなんてすごいな~って思ってます。


好きだから、評価も甘々なんですけど・・。


そんな彼をモデルに・・いつか物語を~って今はまだ無理ですね(好きすぎて)。


現実じゃない身勝手な空想の世界は楽しいです。


面倒なことは、原稿用紙を閉じた瞬間、終わりますから。



「矢野沙耶です。


お言葉に甘えて、図々しくやってきました。


ここにしばらく置いてください。


よろしくお願いします。」


そう言って頭を深く下げる。


「よく来てくれましたね。


寒かったでしょ、こんな雪深いところに。


あたたかいモノでも飲んで身体を温めましょうね。」


その話し方に心が緊張を緩める。


その一つ一つの動きに日常を感じる。


何があったのかを聞くこともしなければ、不要な言葉も掛けない。


今のこの気持ちがわかるのだろうか、誰とも話したくない・・。


部屋に案内され、ソファーに腰をおろしホッとした。


食事も部屋に運んでくれる。


言葉は少し悪いが、沙耶は囚人のような日々を送っていた。


それでもその方が気がラクだった。


誰にも会いたくなかったし、言葉を交わしたくもなかった。


そして・・、四日目の朝。


沙耶はいつもよりずっと早く起きて外へ出た。


凍えそうな冷たい空気を吸い込んだ。


まだ薄暗く静かだ。


風が木々の枝を揺らしているのだが、物音はしない。


風の音がするだけだ。


寒い、本当に寒い。


こんなに寒かったかな~?


初めてここにやって来た時は感じていない寒さだった。


時間の流れの中で、少しずつ自分を取り戻してきているのだろうか。


ただ、哀しくて止まらなかった涙も流れなくなった。


人間とは不思議な生き物なのかもしれない。


事実を知ったその時は、言葉にならないほど動揺していたのに、時間が経つにつれ薄れてくる。


慣れてくると言った方が近いかもしれない。


それくらいのことだったのかと聞かれれば、『簡単なんかじゃない。』そう答えるけれど、本当にそうなのだ。


落ち着いて考えてみて、今になって両親に問いただして何が変わると言うのだろうか。


本当の両親がいたとして、その人を父母と呼び、今の両親を叔父さん叔母さんと呼ぶというのか。


そんなことはない。


私にとって父は父で母は母以外の誰でもない。


馨は?


馨は何だろう。


兄妹でないとすると、意識してしまう。


私が妹でないと知っても、今までと同じように優しい兄でいてくれるのだろうか。


何を失うより、馨を失うことが一番怖いと思った。


話さずにいられるのなら、そうしたいと思ったが、話さなければならないという気持ちの方が強かった。

列車はどこまでも走る。


目的地まで四時間余りの長い旅。


列車の窓からはいつの間にか真っ白な世界が広がっている。


枝だけになった木もあれば、緑の葉を今も変わらず茂らせているものもある。


その上に降り積もった雪がとてもキレイだ。


外を見ているのだが、意識として受け入れてはいない。


沙耶の頭の中はもういっぱいなのだから。


雪のあまり降らない所で育ってきた沙耶にとってこんなに深い雪は現実のものと考えられなかった。


テレビやラジオで積雪一メートルとか聞いたところで上手く想像できない。


朝、目が覚めた時には何センチか積もっていてもすぐに溶けてしまう、


それくらいのことなのだ。


吹雪になった。


目的地までたどり着けるのだろうかと不安に思った。


列車に人はあまり乗っていない。


近くの席で、年配の婦人が二人楽しそうに話している。


こんなにたくさん風が吹いていて雪もどんどん積もってきているのに、特にどうということもなさそうだ。


彼女たちにしてみれば雨が降っているのとそう大差はないのかもしれない。




考えれば考えるほど哀しくて涙が流れる。


いつか隼人は『涙も枯れて・・。』ってそう言ったけど、この涙はいつになったら消えるのだろう。


何が哀しくてこんなにも泣いているのだろう。


自分の生い立ちが知りたいのか?


あの家の娘であることを幸せだと思って生きてきただろうか?


当たり前?


疑問に思うことも無かった。


なぜ泣いているのか・・それさえもわからない。


思ってもいなかった事実に驚いたのは本当のことだった。


それだけのような気もした。




列車からバスに乗り換えまたしばらく走る。


バスを降りるとそこはとても静かだった。


彼の書いてくれた地図には目印にちょうど良い背の高い木があり、一本道の突き当りに家があった。


沙耶は周りを見渡す。


はるか遠くに家がある。


煙突から白い煙が真っすぐ空に向かって上がっている。


あの家かな~?


迷うことなどない、あの一軒しかないのだから。


とにかくあそこまで行かなければ・・、そう思った。


こんな靴、履いてこなければよかった。


一歩一歩雪に埋まる。


歩く道は雪が除いてあるのだが、この調子で降っているのだ、本当に周りに比べて少ないなあ、という程度の違いしかない。


ただひたすら歩いた。

行く先は決まったものの、山積みになっている疑問はそのまま心の中にあった。


その頃、馨は沙耶を探し回っていた。


沙耶が行きそうな所は全て行ってみたが、どこにも沙耶の姿はなかった。


駅?


ふと頭に浮かんだ。


もう他に思い当たるところが無かったこともあって馨は駅に向かった。


「沙耶、待ってくれ!」


馨が大声で叫ぶ。


「馨・・。」


今にも泣き出しそうな沙耶の顔。


「どうしたんだよ。


なぜこんなことを?


どこへ行こうとしてるんだ、話してくれよ。」


「馨、私はもう二十五だよ。


いちいち人に相談しなくたって一人で考えられるんだから。


好きにさせてくれないかな~。」


「そんなこと出来ない。


今にも泣き出しそうな沙耶のことを放っておくなんてできないよ。」


「馨にもどうにもできないことなのよ・・。」


そう言って列車に乗り込もうとする。


「そんな寂しいこと言うなよ。


俺はそんなに頼りにならない兄貴なのか?


オマエにとって・・。」


馨の寂しそうな顔が沙耶の心に染みた。


だけど、今の沙耶は自分のことだけで精一杯だった。


沙耶の目からは大粒の涙が溢れ続ける。


あんまり馨が優しいことを言うから・・。


「私の気持ちなんて誰にも理解できっこない。


私は誰?


馨、ゴメンね。」


「沙耶、行き先だけでも教えてくれないか。」


その言葉を振り切って沙耶は列車に乗った。


いくらなんでも相談してきたからといっても、簡単に話せないこともある。


二人が兄妹でないなんて・・。


私は、この家の子供じゃないなんて・・。


言えない。


哀しすぎて、言えない。