「馨、どうしてここがわかったの?」
「アイツに聞いたんだ。
沙耶、帰ろう。
俺と一緒に帰ろう。
志保ちゃんのところに戻りにくかったら俺のところに居ればイイ。」
「馨、ありがとう。
でも、私、ここに居たいの。
馨はいつも私の見方だった。
今度は応援してくれないの?」
「こんなことを??
応援できるわけないだろ。」
「でも、隼人でなきゃダメなの。
今、馨と帰ったら私これから先もずっと隼人のことを引きずって生きて行かなきゃならなくなる。
はっきりさせた方がいいんだ。
もうこの辺で嫌いになれるなら嫌いになった方が・・、私、そう思ってる。」
「俺じゃ、ダメか・・。」
俺はオマエの兄貴なんかじゃない。
そう言えたらどれだけラクになれるだろう。
だけど今は言えない。
俺がラクになった分、沙耶が苦しむ。
それがわかってるからどうしても言えない・・多分、一生。
俺はいつまでこうして沙耶のナイト役を気取っていられるのだろう。
妹としての沙耶を兄として愛している自分がいる。
自分でない誰かが、沙耶を愛してくれて幸せにしてくれるならそれでもいいと思っていた。
どうしても自分が・・そう思っていたわけではない。
馨自身、自分の気持ちがどうなっているのか、はっきりとはわからず苦しんでいた。
でも、一つだけ確かなことがある。
沙耶を思っている以上に大切な誰かには出会っていない。
友達以上の付き合いの子は何人かいた。
キスもしたし、抱きもした、でも何か違う。
かと言って沙耶を抱きたいかというとわからない。
誰にも相談することもできず、一人で抱え込んでいた。
馨は沙耶が言うこともわからないわけではなかったが、その全てを納得することは困難だった。
けれど、沙耶の覚悟を聞かされて無理に連れて帰ることが出来なかった。
沙耶はマンションのベランダから馨の後ろ姿を見送った。
そう、たった一度だけ、沙耶は馨の涙を見たことがあった。
もう随分前のことだ。
眠りながら馨は泣いていた。
何がそんなに苦しいの?
何がそんなに哀しいの?
そう聞きたかったが、怖くて聞けなかった。
誰にも言えない何かを抱えていることだけは沙耶のも察することができた。
いつも甘えてばかりの自分が相談にのれるほど簡単ではないはずだ。
そんな馨を傍で見ているだけで泣けてきた。
どうして・・。
こんなことは初めてだった。
いつも並んで歩いていたから。
馨の後ろ姿なんて初めて見る。
五つ上の馨と並んで歩いた記憶しかないなんて・・。
きっと私の歩く速さに合わせてくれていたんだ。
「待って。」なんて言ったこと無かったから。
いつだったか、ずっとずっと昔、小さかった頃、馨が私に言った。
「カオルじゃなくてお兄ちゃんだろ・・。」
私は『お兄ちゃん』と呼んでいなかった。
『馨』と呼び慣れていて、照れもあって『お兄ちゃん』と呼べなかったのだ。
何で今頃こんなことを思い出すんだろう。
隼人のところで嫌な思いしなかったかな。
いろいろゴメン。


