沙耶は隼人のマンションに向かった。


思っていたよりずっと立派なマンション。


八階の八〇五そこが隼人の部屋。


隼人の雇い主が用意したマンション。


2LDKの広さに驚いた。


キレイに片づけられている部屋。


観葉植物、座り心地の良さそうなソファー、大型テレビ。


洋服はさすがにたくさんあった。


そして・・留守番電話が忙しそう。


しかも女の子からばかり・・。


この部屋に女がいるとなると大騒ぎになるだろう。


でも、今の沙耶には他人の気持ちを気遣う時間の余裕はない。


夕食を作ろうと冷蔵庫を開けてみたがビールとミネラルウォーター以外何も無い。


隼人は何を食べているのだろう。


外食かなぁ。


とにかく買い物に行って夕食の準備をすることにした。


沙耶は夕食を作って隼人の帰りを待った。


だけど隼人が帰って来たのは真夜中だった。


「どうした?


待ってたのか?


俺は俺、沙耶は沙耶、そうだろ?


お互い干渉しないのが一番だろ?


メシの用意なんてしなくてイイから。


俺は外で食べて来るし、朝は食べないから。


毎日帰るとも限らないし、沙耶は沙耶の好きなリズムで過ごせばいい。


俺、シャワー浴びたら寝るから。」


「わかった。


おやすみ。」


そうだ、隼人は隼人、私は私。


ただ同じところに居るだけのこと。


隼人の言葉で一緒にいても独りだということを改めて思い知る。


第一、ここにこうして自分が居ることだけでも十分隼人にとっては迷惑なことなのだ。


ましてや、一緒に食事をしたり話をしたりなんて問題外なのだ。


覚悟をしていたものの、それでもやっぱり寂しかった。


何も期待していないと言いながら少しは何かを期待している自分がいた。


ソファーでコートを掛けて横になっている沙耶に隼人は声をかけた。


「何やってるんだよ。


こんな風で毎日眠る気か?


俺のベッドを使え。」


「でも・・。」


「俺がそこに寝るから。


それとも俺のベッドじゃ嫌か?


誰を抱いたかわからないベッドだもんな。


沙耶はきっとそういうの嫌なんだろ。


でも仕方ないだろ、一つしかないんだから。」


「私はいいの。


居候なわけだし。


隼人が風邪ひくなんて嫌だから。」


二人の譲り合いは続く。


「じゃあ、一緒に寝ようよ。」


沙耶の口からその言葉が出た。


本当にこれが最後だと思うと、こんなことまで言ってしまう自分に驚いたりもした。


「わかった、そうしよう。」


隼人は深く考える様子もなく、布団に潜って眠った。


沙耶はしばらく眠れなかったが、気が付いた時はもう朝だった。


十時を少し回っていた。


ドアをノックする音が聞こえた。


「沙耶、生きてるか?」


「うん、おはよう。」


「起こしてゴメン。


でも、もう起きてもイイんじゃない?


こんなこと俺に言わせるなんて、大したもんだよ。


ここに泊まった女で俺より後に起きたヤツは沙耶が初めてだよ。」


「ゴメン。」


「別に謝ることじゃないよ。


俺、仕事あるから行くけど、メシちゃんと食えよ。」


隼人からは生活の匂いが感じられない。


部屋の掃除をしたり洗濯をしている姿を想像できない。


そんな隼人が用意してくれた朝食。


テーブルには目玉焼きとコーヒーとトーストがあった。


【メシ食わないと貧血に負けるぞ   隼人】


ありがとう。


少しは気にかけてくれてるんだ。


隼人のそんな優しさが嬉しかった。


でも、甘えてはいけないと自分に言い聞かす。


昼と一緒の遅い朝食を摂った。


気分は良かった。