なつみは、一年ぶりに日本に帰って来た。
思っていた以上に暑い。
空港には迎えが来ていた。
家では両親が待っていた。
「なつみ、お帰り。
家でゆっくりしていきなさい。」
父が優しく言葉をかける。
その優しい目に思わず泣きそうになるのを堪えた。
「元気だったの?
淋しくはなかった??」
母は相変わらず質問ばっかり。
忙しい父が家で待っているということだけで、自分の帰国を喜んでくれているのがわかる。
心配性の母が、フランスに数えられる程の電話しか掛けてこなかった。
多分、何度も携帯電話を手にしただろう。
それでも・・、その心遣いが嬉しかった。
一足先に届いたなつみの荷物の中の大きな絵を指して母は言った。
「この絵はどうしたの?
ステキね。」
「私の部屋から見える景色なの。
こんなところで私は暮らしているのよ。」
二人はしばらく黙ってその絵を見ていた。
そして言った。
「なつみを行かせて良かったな、お母さん。
向こうは楽しかったようだな。」
「うん。
私のわがままを許してくれてありがとう。
友人もたくさんできたのよ。
その人から貰ったの、この絵。」
「友人か・・。
なつみがここで一人ぼっちだったことを父さんは知っていた。」
「朝起きて学校に行き、帰ってくるとピアノを弾いていた。
時間つぶしのピアノをお母さんは毎日聞いていたわ。
でも、何をしてあげたらイイのかわからなかったの。」
「フランスに行きたいと言った時、私たちはとても迷った。
遠い外国に、たった一人でなつみを行かせても良いモノだろうかと・・。
でも、なつみが初めて自分で決めたことを応援してやりたいと思った。
良かったよ、楽しかったのなら。」
父、大造はしみじみと言った。
母、綾子は少し涙ぐんでいるようだった。
なつみは父が今までで一番近くに感じられた。
一年間で翔平たちのバンドは大きくなっていた。
音楽雑誌には必ず載っている人気バンドになった。
なつみの心は複雑だった。
嬉しい気持ちを、遠い人になったという淋しさを感じていた。
前のように会えないかもしれない・・、その気持ちを打ち消して思い切って電話をかけた。
「沢田なつみです。」
「なつみ?
なつみなの??
どうした???
今どこ?????」
「家にいます。
今日、帰って来たので。」
「俺たちはライブが終わって、今、ホテルでメシ食いながら飲んでる。
みんないるぞ。」
受話器の向こうで声が聞こえる。
なつみの声がすぐそこで聞こえることに安心感に似たものを感じる。
「またフランスに戻るんですけど、しばらくはこっちに居ます。」
「もう帰って来たんじゃないの?
フランスはどう、楽しい??」
「とても・・。
毎日がとても新鮮で行って良かったです。」
ゆっくり話をしたいのに、そういうわけにはいかない状況。
「ちょっと待って、剛に代る。」
「なつみ、俺、剛。
帰ってくるなら知らせてくれたら良かったのに・・。
そしたら今日、会えたのに・・。
ちょっと待って、隆がうるさいから・・。」
「明日、朝一番で帰るから。」
隆が一言喋っただけで横で春樹が受話器を取り上げる。
「元気でやってたのか?
心配してたんだぞ。
泣きベソかいてるんじゃないかって・・。
あっ、翔平に代るよ。」
「はい。」
みんなの声が優しくて、さっきまでの不安が一瞬で消えた。
「なかなか連絡できなくてゴメン。
だけど、いつも気になっていたんだ、本当だぞ。」
「大丈夫です。
フランスでだってちゃんとやってましたから。」
声が震えるのを必死で隠す。
「明日、予定ある?」
「何もありません。」
「みんなで会おうよ。
どこがいいかな~?」
「私の家に来ませんか?」
「なつみがイイなら、そうしよう。」
そんな声がバラバラに聞こえる。
「じゃあ、明日。
おやすみ。」
「おやすみなさい。」


