部屋継承予想 答え合わせ 2010→2024 | 三代目WEB桟敷

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力士分析などを行う相撲研究サイト「大相撲パラサイト」のブログです。

弊サイト・大相撲パラサイトの一門特集を更新した。

 

ついでに古い記事を読み返していて、平成22年の「部屋データ」(当時の各部屋の勢力を分析している)のおまけコラムとして、以下のようなものを書いていた。

師匠の停年が近かった部屋の継承予想である。

なんのソースもない憶測ではあるが、14年ぶりに振り返ってみて、どの程度当たっているか、自己採点をしてみたい。

 

 

 

 

まさに余計なお世話であるが、部屋の後継者問題を勝手にごちゃごちゃと書き立てる。

年寄にも世代交代はあるのだ。

65歳の停年が近い(昭和20年代前半生まれ)部屋付き親方を中心にピックアップする。

(インラインで追記する。▶が今回の追記)

 

片男波

 元関脇玉ノ富士の停年が近づいていたが、22年2月、元関脇玉春日の楯山と名跡交換し、早めのバトンタッチ(当コラムの先を越されてしまった)。スムーズに以降した。片男波部屋は昭和以降、横綱玉の海を擁するなど、「玉」の冠を背負う幕内力士を途切れなく輩出してきた名門。現役の関脇玉乃島も由緒ある四股名を継いで活躍。どちらかが後継だと思っていたが、先輩格の玉春日に早くも決まった。学生相撲出身で頭脳明晰、人格者と評判の良い親方。現役中から玉飛鳥の再生に尽力するなど、すでに親方修行も積んでいるようで、今後が期待される。久々の大関以上の力士を育てられるか。

 

こちらは掲載直前に答えが出てしまったようだ。引退から間もない玉春日が早めに継承。大関は出ておらず、力士が5人を割ってしまって存続を危ぶんだが、玉鷲が34歳を過ぎてから2回も優勝し、未だ現役。玉の海以来の賜杯が部屋に戻ったという点では成功している。

 また、後継候補に名を挙げた玉乃島は、系統の異なる若嶋津の部屋を継承して放駒部屋師匠となっている。

 

★二所ノ関

 元関脇金剛。昭和40年代、二所ノ関部屋は横綱大鵬、大関大麒麟ら錚々たる強豪を擁しており、平成以降小結大善くらいしか関取が思い浮かばない現代とはかけ離れた隆盛を誇っていた。しかし、彼らの引退後、元大ノ海の二所ノ関の後継者争いは大紛糾。二所ノ関部屋からの独立に際しては弟子の移籍などを巡ってトラブル続きだったが、本家の継承となると、やはり簡単にはいかなかった。抜群の実績を誇る大鵬は、一代年寄を贈られて独立していたが後継にも名が挙がり、元大関大麒麟の押尾川が本命と見られたものの、平幕優勝で株を上げた金剛が娘婿に収まり一気に浮上。出し抜かれた押尾川は大騒動の末独立。混乱の中、まだ27歳の金剛が引退して二所ノ関を襲名した。騒動のダメージは大きく、青葉城の移籍、天龍の廃業で一気に勢力を失った。

 それから30年、麒麟児、大徹、大善という息の長い力士がいたが、ついに関取が途絶えた。小部屋となってしまった「本家」の後継は、トラブルにもなりようがないか。現在、上記の3力士が部屋付きで在籍。かれらのいずれかが継承すると見られるが、実績と年功序列で麒麟児の北陣か、富士ヶ根の大善で若返りを図って長期政権を目指すか、それともどこかから呼び寄せるか。ちなみに喧嘩別れした押尾川は、名力士を数多く出したが、親方停年後は尾車部屋に吸収され部屋を閉じてしまった。

 

結局後継の調整はつかずに閉鎖。一門の看板を名乗る部屋がないという異常事態となったが、松ヶ根部屋を率いていた若嶋津が名跡交換で二所ノ関部屋に看板をかけ替えた。その停年時には部屋は元玉乃島に譲ったが、名跡は元稀勢の里の荒磯と交換。元横綱に大看板を譲り、一門の総帥に育てようという意志が感じられる。

 

★放駒

 元大関魁傑。理事を務めるが、現役に有力な後継候補はいない。部屋付き親方もいない。一時は元輪島の廃業で花籠部屋を吸収し、一気に拡大した新興勢力だったが、近年は駿傑くらいしか幕内を出せていない。そこで、やはり出世頭の元横綱大乃国、芝田山が挙がってくる。独立して10年以上になるが、モンゴル人関取を一人出しただけと大苦戦している。その場合、放駒を襲名して合併か、芝田山のまま吸収するかということになる。親方となって早期に横綱や大関を育てた場合、弟子は親方の停年まで部屋付きというわけにもいかず、いったん独立するのが常。他に有力な後継がいれば、そのままでいいが、本家を継ぐ者がなければ、独立した親方も俄然候補となる。放駒はまさにそのケースになるが。

 

閉鎖して、芝田山部屋に合流となった。自身も独立元の花籠を吸収しているので、同じ道を辿ることになった。そういう意味では、芝田山部屋が花籠の直流という見方もできる。

 

★鳴戸

 元横綱隆の里。まだ先の話だが、理事候補として名を上げておく。名力士を育てているが、まだ大関は出ず。関脇隆乃若は角界を去り、部屋付きは借株の隆の鶴だけ。大関目前まで行った若の里、これから大関を目指す稀勢の里が関脇まで昇進。ともに年寄株を確保していて独立の権利も得られそうだが、鳴戸の停年となれば師匠が必要。まだ23歳の稀勢の里は隆の里停年後もまだまだ現役だろうから、晩年を迎えている若の里がしばらく部屋付きで修行した後、継承が既定路線だろう。

 

まだ先の話と断って書いたのに、この年急逝。借株で部屋付きだった隆の鶴が急遽継承することになったが、正式な継承を巡って先代遺族と折り合わず、田子ノ浦に名跡変更。慌ただしく部屋も移転してしまった。しばらく現役だった若の里は西岩部屋を、稀勢の里は荒磯部屋を興し、すっかりこじんまりとした小部屋になったが、髙安が息の長い活躍をしている。鳴戸の名跡は今は稀勢の里のライバルだった元琴欧洲が取得して独立。新鳴戸部屋師匠となっているのも奇縁である。

 

★出羽海

 超名門だが、近年勢力が減退。佐田の山からバトンを受けた元関脇鷲羽山も高齢であり、後継探しが始まっているものと思われる。とは言え、鷲羽山が継承して以降育った現役関取は十両に落ちた普天王だけ。急に衰え始めているだけに停年ごろには引退してもおかしくないが、名門継承を納得させるだけの実績には小結1場所では人気力士と言えどちょっと心許ない。OBは多いが、多くが独立。名門だけに吸収させるわけにもいかないので、大部屋となってしまった横綱三重ノ海の武蔵川は実績十分とは言えまずない(放駒の項で書いた、師匠が若いうちに育ってしまった横綱が独立したケース。正確には弟弟子だが。芝田山部屋と違って大成功してしまっているだけに逆に難しい。停年も近い)。新興の境川・元両国は、前出羽海の元佐田の山と名跡交換した経緯もあり、出羽海を襲名して合併し本家を強引に再興させる可能性はなきにしもあらず。他の候補は、独立組なら元久島海。部屋付きの長老なら元関脇出羽の花の出来山も現役時代の実力は一番上だが、停年近し。さらに大錦、小城兄弟といるが、決定的な候補がいない。

 

部屋付きの元小城乃花が継承。境川継承説はガセネタ。久島海は2年後に早逝して部屋も消滅した。御嶽海が大関昇進、3回の優勝で名門復活に貢献したが、後が続かない。

 

 

★武蔵川

 現理事長の元横綱三重ノ海。弟子も数多く育ったが、多すぎて困る。しかし、ここは元大関武双山の藤島が継承で間違いなさそうだ。横綱武蔵丸の振分は年寄株確保が精一杯で、出島の大鳴戸、現役雅山と大関はいるが、先輩格に軍配。彼らも独立するか残るか決断の時が来る。

 

予想通り武双山だったが、藤島名跡のままで藤島部屋として継承したのは意外だった。武蔵川株は武蔵丸に譲られ、のちに独立して武蔵川部屋を復活させた。どっちも後継を名乗れる形になった。

 なお、出島は藤島部屋付きのままだが、雅山が独立して二子山部屋を、垣添も入間川部屋を雷部屋として継承している。

 しかし、貴乃花ら藤島・二子山勢と渡り合った武蔵川部屋の2人が、いま藤島部屋、二子山部屋を率いているというのも奇縁である。

 

★三保ヶ関

 大関増位山は、北の湖が一代年寄となって独立したため、すんなり父から継承した三保ヶ関部屋を守って来たが、現在関取は阿覧だけ。把瑠都は尾上と一緒に独立してしまった。その尾上(元濱ノ嶋)と木瀬(元肥後ノ海)は、学生や外国人をスカウトして急速に勢力を伸ばしているが、本家は元気がない。部屋付きの2人も師匠と同世代であり、後継者探しは難航しそう。尾上に継承する予定が、「自信がない」と蹴られてしまっては、候補者がいない。現役日本人力士は、長く幕下に低迷している元十両増健(現柳川)くらいであまりに実績が乏しい(宮城野を継承した元十両金親の例があるから否定できないが)。もう一度尾上、木瀬に継承合併を打診するか。北の湖と合併するウルトラCを出すと、三保ヶ関部屋の看板は消滅する。これだけ弟子を輩出しながら伝統ある部屋が消滅するのは忍びない。

 

調整つかず閉鎖。分家した3部屋のいずれでもなく、春日野部屋に吸収されることになったが、その際現役幕内力士の阿覧が引退してしまった。いまも復活の気配はない。

 

★千賀ノ浦

 元関脇舛田山。かなり年を食ってから独立したため、残された期間は最初から少ない。関脇栃乃洋を連れて独立する目論見が外れてしまい、期待の舛東欧、舛名大も苦戦していてピンチ。本家春日野の元栃乃和歌が若いので、後継に栃乃洋を連れてくる可能性も。ただ、栃乃洋も独立する権利を手にしており、また蹴られるかもしれない。

 

後継なく閉鎖かと思いきや、貴乃花部屋付きだった元隆三杉が一門を超えて継承、貴乃花一門の部屋となった。継承した弟子からは舛の勝改め隆の勝が関脇に、移籍した貴景勝はいきなり優勝して、間もなく大関昇進。常盤山部屋に変更し、貴一門解散後は二所ノ関一門に加入している。

 

★大島

 元旭國の大島は、先日の理事選でまさかの落選したショックが覚めないところだが、停年も近い。「旭」のつく四股名ですぐわかる大島部屋は、早々に横綱旭富士を育て、旭道山、旭鷲山ら人気力士も多数。後継候補には事欠かないと思われたが、定年間近に弟子の輩出が減少。実績で飛び抜けている旭富士に継いで欲しいところだが、安治川を継承した後、名門の伊勢ヶ濱を襲名。大関も育てており、今から大島を名乗る可能性はないだろう。となると、急浮上するのが現役の35歳旭天鵬。モンゴル出身だが、既に日本国籍を取得。親方の姓を取って「太田勝」という本名まであり、年寄株取得の権利を得ている。OBも他におらず、かなり旭天鵬の大島部屋継承が強まっている。高見山以来2人目の外国出身力士の部屋が誕生するのか。

 

旭天鵬は一向に衰えず、師匠の停年後も40歳関取目指して現役を続行することを希望。部屋は一旦閉鎖となった。友綱部屋に移籍したが、直後の場所に史上最年長優勝を果たした。40歳で引退後は大島を名乗って、そのうち再興するのかと思いきや、友綱と名跡交換して移籍先の部屋を継承。再興は諦めたかと思いきや、再雇用の終わろうとする大島(元魁輝)と再び名跡交換して、大島部屋が復活した。これは誰も読めない展開だった。

 

★伊勢ノ海

  26歳の若さで引退した元藤ノ川。前師匠の死去に際し、兄弟子の横綱柏戸は鏡山として独立していたため、伊勢ノ海を襲名した。以後、アマ横綱・藤ノ川や北勝鬨、大碇らを育てる。伝統的な四股名を抱える老舗だが、一時代を築くほどではなく、幕内力士もポツポツと出るくらい。その中で、関脇土佐ノ海は金星11を獲得するなど若貴時代の雄として大活躍。大関は届かなかったが、いまだに現役で頑張っている。継承者として間違いないだろう。学生時代からのライバルの玉春日は一足先に引退して片男波を襲名、共に親方としてライバル対決が見られるだろう。

 

予想外れて元北勝鬨が後継した。師匠とは同郷でもある。この辺りは必ずしも実績だけではないということ。

 

★湊

 元小結豊山の湊部屋だが、弟子の育成には苦労した。唯一の関取・湊富士が現在立田川として部屋付きで在籍。名跡変更して継承することになるだろう。幕下の仲の国などをうまく育成したい。

 

順当に湊富士が継承。関係が悪化して突然引退してしまったが、逸ノ城が大きな注目を集めて幕内優勝も果たした。

 

 

★式秀

 千代の富士、魁皇に次ぐ通算964勝を誇る元小結大潮が独立。しかし20年近く経つが関取は育たず。当然後継者も見当たらず、このままいけば消滅の危機。外部から招聘するか。

 

外部からの招聘は予想されたが、なんと一門外の北の湖部屋付・元北桜が継承し、所属していた出羽一門に移籍した。同じく北の湖部屋所属の元兼金親が宮城野部屋を継承したことはあったが、この時は先々代の娘婿に入ったこともあり一門はそのまま。後継者が一門外という異例の事態がこの後も続くことになるが、部屋の方が一門を動くことになった最初のケースだ。一門制度が揺らぎを象徴する。

 

★中村

 高砂一門は、平成初期まで現役で活躍した力士が師匠として君臨。世代交代まで時間はあるが、元富士櫻の中村部屋はそろそろ代替わりの時期に来ている。弟子に高卒の資格を取らせたり、おかみさんが論文を書くなど独自の部屋経営を頑張っているが、力士は十両の彩豪、須磨ノ富士、一の谷くらいで、幕内力士は出ず。弟子もいるので消滅は避けたいが、後継者候補不在。高砂部屋の弟弟子なら、水戸泉朝潮がいるが、共に部屋持ち。闘牙は借株で立浪一門にいるが、それくらいしか残っていない。高見山の弟子・潮丸の東関も含め、吸収先を探すことになるのか、それとも外から連れてくるか。

 

閉鎖。師匠と兄弟弟子である高見山が興した東関部屋に合流した。その後中村の名跡は一門から離れて、この度尾車部屋で活躍した元嘉風が、二所ノ関部屋から独立して中村部屋を興すことになった。もちろん再興という表現は使われない。

 

以上の部屋で近々師匠交代が考えられる。

関取のいない部屋では、師匠の退職を機に部屋を閉じてしまうことも考えられる。新弟子の数が減っている現在、部屋経営は厳しいものがあるからだ。

 

しかし、部屋を持ちたいと言う若い親方にとっては、小さくとも既存の部屋は価値がある。

先般の改正で、独立には大関以上や関取10年などの厳しい基準が設けられた。そのため関脇以下でかなりの実績を残しても、活躍期間が短ければ部屋は起こせなくなった。ならば、今ある部屋を継ぐしかない。所属部屋や一門の枠を超えて、継承者が名乗り出てくるかもしれない。

 

松登の高島、大麒麟の押尾川、清國の伊勢ヶ濱、北天佑の二十山など、元大関の部屋が停年などで消滅するケースが目立つ。一方、前の山の高田川部屋は一門からも外れて消滅濃厚だったが、一門の違う安芸乃島を移籍させてバトンを繋いだ。

一門の意義が揺らいでいる現在なら、こうしたケースは多くなりそうだ。

 

式秀部屋や千賀ノ浦部屋のような一門外で継承するケースが発生した。高田川部屋は貴乃花部屋を破門同然となった安芸乃島を拾った形だが、貴乃花一派が一門を離脱したことで、古巣の二所ノ関一門への復帰が叶い、高田川の無所属は14年で解消した。

 

 

予想が当たったケースもあれば、意外な展開を見せたケースもあり。付け加えるならば、再雇用制度ができたことで、昨今名跡を交換せずに部屋を継承するケースが増えた。わかりやすさ、親しみやすさの点では、部屋の名称は維持してほしいところだが、諸事情があるらしい。